2014年02月19日
TRAFFIC トラフィック
01
TRAFFIC Traffic
トラフィック トラフィック (1968)
今回はトラフィックいきます。
実は今、僕がいちばん凝っているアーティストだったり・・・
トラフィックはまともに聴いてきませんでした。
理由のひとつが、よく分からないけどなんだか妙に評論家などの
評価が高かったからです。
まあそれは、聴いていなかったので分からなくて当然ですが、
でも、彼らは聴こうとすら思えなかった、なぜか。
ずばり、スティーヴ・ウィンウッドが苦手だったからです。
僕が高校時代にHigher Loveとそのアルバムが売れに売れましたが、
若かった僕にはそれが理解できなかったのを引きずっていました。
かつての音楽番組「ポッパーズMTV」におけるピーター・バラカン氏の
言葉を紹介すると、当時はフィル・コリンズが人気絶頂、そんな中
彼はスティーヴ・ウィンウッドを紹介する際にこう言いました。
「フィル・コリンズが大物として騒がれているけど、
スティーヴ・ウィンウッドのほうが段違いに偉いのに」
僕はフィル・コリンズは普通に好きですごいと思っていた人なので、
そうい言われて「そうかぁ?」とテレビに向かって言いました。
今考えると生意気ですね(笑)。
でも一方、「そうか、そういうもんなんだな」とも知らされました。
ちなみに、弟は僕よりもっとスティーヴ・ウィンウッドが嫌いで、
かつて僕がブラインド・フェイスを聴いていたところに弟が帰宅し、
金切り声系のスティーブの声を聞いて、疲れていたのか、
頼むから止めてくれと言われたことがあるくらいです。
月日は流れ、ロックの名盤情報などにも多く接するようになってから、
トラフィックの最初の2枚のリマスター盤が出たので買いました。
いつも言いますが、僕はリマスター盤が出るとひとまず聴いてみる、
そういう心構えでずっと音楽を聴き続けていましたから。
その2枚とは、名盤の誉れ高いデビュー作MR. FANTASYと、
2ndであるこのアルバム、無謀にも2枚同時に買いました。
僕は、何を見ても名盤と書かれている1stから聴いたのですが、
ここがいわばその後の間違いと混迷の元凶でした。
これもよく言いますが、僕はサイケデリック系の音が苦手なのです。
彼らの1stは僕にはそういう風にしか聴こえませんでした。
「名盤と呼ばれるものの中には僕には理解できないものもある」
と悟ったところで、トラフィックは僕の中では終わりました。
しかし今年、ついに、真面目にトラフィックを聴き始めました。
ジョー・コッカーの記事(こちら)でも話したように、
弟がデイヴ・メイスンを集めて聴くようになったからです。
僕は、ジョーの大好きなその曲の作曲者を、さらにはそれが
僕が既に持っているCDに入っていることを知らなかったのです。
それに気づいてひとりで恥ずかしくなりました。
まあ、いいんです、世の中、知らないことはたくさんありますから。
そこで、正直どんな音楽かまったく覚えていなかったので、
ほとんど初めての気分でこのアルバムを聴くことにしました。
1stのイメージで、僕には響かないのではないかと不安になりました。
杞憂でした。
少なくともサイケデリック系ではありませんでした。
このアルバムはとっても良い、すぐに大好きになりました。
そしてついに、トラフィックについて思うことを、
記事にまとめることができるくらいになりました。
これを聴く前に、弟に、デイヴ・メイスンは、英国人で本格的に
スワンプに取り組んだ先駆者のひとりだと聞かされていましたが、
それを念頭に聴くと、確かに彼らの音楽には、アメリカ音楽の影響が、
思っていた以上に見え隠れしつつ表されているのが分かりました。
といって、僕はスワンプを果たして知っていると言えるのだろうかと
自問自答しないでもないですが、でも、それは正直なところでした。
デイヴ・メイソンが、スワンプ指向の英国人による大傑作アルバム、
ジョージ・ハリスンのALL THINGS MUST PASSに参加していることも
ようやくそこでつながって納得しました。
ここまで来るのに四半世紀を要したことになりますが(笑)。
トラフィックの音楽は、表面上はさらっと演奏しているように聴こえ、
決してくどくも暑苦しくもないのが聴きやすいところです。
トラッドが基礎なのかなと思いつつ、アメリカのルーツは見えるけど
そちら側に行ってしまうのではなく、あくまでも自分たちの側に
引き寄せて自分たちのフィールドだけで勝負している感じ。
例えば、生真面目なエリック・クラプトンのように
ブルーズに身も心も魂も捧げたり、自らの肉体改造をしてまでも
スワンプにどっぷりと浸ったりという姿勢は見られず、
あくまでも自分たちは自分たちであって、その主張は結構激しい。
もちろん彼らだって音楽には真面目一直線でしょうけど、
スティーヴ・ウィンウッドは「インテリな不良」「不良インテリ」
みたいな香りをぷんぷんと発していて近寄り難さのようなものがあり、
そこが毅然としていると感じる部分でもあります。
まあ、彼らは英国人ですからね。
とだけで片付けてはいけないのかもしれないけれど・・・
ただそれは、斜に構えている、素直じゃないともとれるわけで、
そこは聴く人がどう捉えるかでしょうね。
僕は好きですよ、こんな性格だから(笑)。
デイヴ・メイスンが脱退してスワンプに走ったのは、
彼は斜に構えずに真っ直ぐやりたかったのかもしれない。
(スティーヴとデイヴが不仲だったという噂も・・・)
しかしそんなところからしていかにも英国人っぽさがあり、
洗練され洒落ていて野暮ったさがないと感じるところです。
彼らの場合はまた、当時横行していたブルーズの影響が
表面上は割と希薄なのが、他とは違うと感じる部分です。
スティーヴは後にエリックとくっついたりしましたが、
彼は音楽に柔軟性がある才人なのでしょうね。
何より音楽の咀嚼能力が大きく、懐深く構えている感じがしますね。
トラフィックという名前は、いろいろな音楽が混じり合いつつ
うまく流れるように交通整理されているという意味であるなら
まさにぴったりでとてもいい名前だと思います。
雑多に混じり合ったままばらばらに存在するのではなく、
いろいろな方向の流れをうまく秩序だてて管理している様子です。
メンバーは
スティーヴ・ウィンウッド Steve Winwood (Key)(Vo)(Bs)
デイヴ・メイスン Dave Mason (Gt)(Vo)
クリス・ウッド Chris Wood (Wind Instruments)
ジム・キャパルディ Jim Capaldi (Ds)(Vo)
メンバーに2人も"wood"がいるのは国際森林年にふさわしい(笑)。
そうそう、もひとつ音楽的に変わった響きと感じさせるのは、
管楽器奏者のクリス・ウッドがメンバーに名を連ねていることで、
各種の管楽器の音も他にはない音的な楽しさを感じる部分です。
それと、スティーヴは録音ではベースも弾いているんだ。
コンサートではそのベースラインを、ドアーズのように
キーボードで再現するのかな。
ベースに特にこだわる僕としては気になるところです。
ジム・キャパルディのドラムスはびしっと響いてきます。
先ほどから英国、英国と書いているけど、
キャパルディという苗字はもしかしてイタリア系かな。
いつものように作曲者は各曲に明示しますが、
トラフィックはリード・ヴォーカルも分担しているので、
作曲者の右側の()内にファーストネームを記してゆきます。
02 トラフィック、ということで札幌市電を
Tr1:You Can All Join In
(Dave Mason)(Dave)
1曲目は、アコースティックギターの力強いカッティングと、
エレクトリック・ギターの浮かぶような楽しげな旋律が、
ボ・ディドリー風のビートに乗って始まるカントリー風の曲。
トラフィックの場合は何事も「風」であるのが肝要(笑)。
アルバム1曲目としてはちょっと異質な感じがするのは、
始めっからすかしている態度を感じられて面白い。
とはいえ、印象には残りやすいし、僕はこの音で始まるから
ここまで大好きになったともいえます。
デイヴのギターのオブリガードもカントリー風だけど、そういえば
デイヴはジャケットでカウボーイハットを被っているんだっけ。
トラフィックを聴いてゆくと、デイヴがこの中ではいちばん
アメリカっぽい要素を発散しているのを感じました。
Tr2:Pearly Queen
(Steve Winwood / Jim Capaldi)(Steve)
ブルーズっぽいといえばそんな曲かな、軽めだけど。
問答をしていて問いかけだけを永遠に続けて答えがないような、
一本調子に曲が進んでいく中、デイヴのギターソロが冴えていて、
曲にいきいきとした表情をつけています。
字余りな歌メロがちょっとばかりおかしくて面白い。
緩いようで微妙な緊張感が漂う不思議な曲。
Tr3:Don't Be Sad
(Dave Mason)(Dave)
デイヴの疲れ切ったヴォーカルとしまりがないコーラスが、
楽しげな演奏にのって進んでゆく、こちらは緩い曲。
自己嫌悪に陥りそうなところをいい意味で間の抜けた音で
和ませて救ってくれるような、ちょっと心が温まる曲。
途中でスティーヴがヴォーカルを取って代わりますが、
やはりスティーヴが歌うとしまりますね。
途中でヴォーカルが交代する曲が僕は大好き。
最後のオルガンはまるで怒っているようで迫力あります。
Tr4:Who Knows What Tomorrow May Bring
(Steve Winwood / Jim Capaldi / Chris Wood)(Steve)
これはソウル風か、前半はファルセット気味に歌うスティーヴ。
ベースが前というより上に浮かんで聴こえるミックスが効果的。
曲がなんとなく盛り上がりそうで盛り上がらないまま、
スティーヴだけが盛り上がって消えていく感じの曲。
なお、この曲はスティーヴとジムのみで録音しているようで、
デイヴとクリスには"Nothing"と記されています。
Tr5:Feelin' Alright ?
(Dave Mason)(Dave)
ジョー・コッカー(記事こちら)の名演も素晴らしいけど、これは
そもそも曲自体が持つパワーがケタ違いという感じがします。
ラテンっぽいのりで斜めに揺れながら進んでゆく曲を聴くと、
自然と体が揺り動いている自分にいつも気づきます。
サビを無意識で口ずさむのは言わずもがな。
まさにタイトルの言葉のごとし、とにかく気持ちがいい!
あ、でも、タイトルには「?」がついていますが、
斜に構えているだけで本心じゃないはず、だから気にしない(笑)。
スティーヴの少し引いたコーラスが深みがあって効果的。
いやはや、やっぱりこれは名曲だな。
多分、この曲を聴いて何も感じない人とは、
僕は仲良くなれないと思うな(笑)。
Tr6:Vagabond Virgin
(Dave Mason / Jim Capaldi)(Dave & Jim)
のどかな雰囲気で、キンクスとも通じる英国の片田舎的響き。
よく聴くとリズムが微妙にカリプソ風ですね。
フルートの音も和やかさを強調、アルバムいち緩い曲。
特に盛り上がらないまま終わるんだけど、この曲の場合は、
メリハリがないからこそ和む、そんな感じ。
スティーヴの声が目立たないので余計にのどかに感じます。
Tr7:(Roamin' Thro' The Gloamin With) 40,000 Headmen
(Steve Winwood / Jim Capaldi)(Steve)
ううん、長ったらしく説明的な曲名はさすが「不良インテリ」。
ギターのアルペジオと管楽器で不気味に曲が始まる。
ブルーズとトラッドが遠回りしながら高次元で融合したような
緊張感がある曲。
Tr8:Cryin' To Be Heard
(Dave Mason)(Dave)
ほの暗くて重たい雰囲気のゆっくりと進む曲で、
サビがびしっと盛り上がるのが印象的でついつい口ずさむ。
そうだ彼らは、基本的に緩いように見せかけておいて、
実は要所要所でびしっと決めてゆくのは得意なのかも。
途中で歌メロが対位法になる部分が出てくるあたり、
曲作りも凝っていてセンスの良さを感じます。
そしてこういう曲でやっぱりスティーヴのオルガンは凄い。
曲が終わって入る狼の叫びのような管楽器の音がすごい。
Tr9:No Time To Live
(Steve Winwood / Jim Capaldi)(Steve)
低音が響く荘重なピアノの音で始まるバラード風の曲。
しかしスティーヴはこの曲で頼りないほどに声が高い。
もちろんそれが狙いなのでしょうけど。
途中で金切り声を上げるのは、これ系の声が苦手な人、
例えば僕の弟のような人には耐えられないかも・・・
まるで狼の吠える声のような管楽器の音は
前の曲からイメージを引き継いでいます。
そしてやはりこうした曲にはティンパニーが効いてくる。
ずっと先にスティングの姿がかすかに見えてくる、そんな曲。
Tr10:Means To An End
(Steve Winwood / Jim Capaldi)(Steve)
アルバム本編最後は慌てて録音を始めたような急いた曲。
普通に明るくアップテンポの曲で、やはり「照れ隠し」的な味。
でも、なんとなく終わってしまうため、これで終わるLPの場合、
いささか消化不良気味になるかもしれません。
でも、本人たちによれば「これは終わりを意味する」そうで・・・
さて、このアルバムには5曲のボーナストラックが入っていますが、
これがまた聴きどころがあるので、今回はボーナスにも触れます。
なお、ボーナストラックについては、本編とは違い、ブックレットに
作曲者や各人の役割分担(と歌詞)が記されていないので
ここでも割愛させていただきました、ご了承ください。
Tr11:Here We Go Round The Mulberry Bush
Tr12:Am I What I Was Or Am I What I Am
この2曲は以下のように記されています。
from the film soundtrack
"Here We Go Round The Mulberry Bush"
今の僕にはそれが何であるか分からないのが申し訳ないですが、
Tr11はトラッドというか童謡みたいな感じの楽しい曲、と思ったら
最後のほうはかすかに不安な響きになる不思議な曲。
Tr12は大きく動くギターリフが印象的なポップな曲。
Tr13:Withering Tree
おお、ここにも木の曲があるっ、やはり国際森林年バンド(笑)。
これはFeelin' Alright ?のシングルB面曲ということですが、
どうしても、霧が立ち込める丘にかすかに見える1本の木、
というイメージになってしまう・・・
Tr14:Medicated Goo
これは同時期のシングルA面としてリリースされた曲
ポップだけど力で押し通す感じのちょっとハードな曲で、
こういう曲におけるデイヴのギターはやはり冴えています。
Tr15:Shanghai Noodle Factory
題して「上海製麺所」。
この時代にこのイメージは聴く者の想像をかきたてる、以上に、
混乱に陥れたかもしれません。
さすがは「インテリ不良」、面目躍如というところでしょうか。
曲はその通り妙に間延びしたリズム感が面白いけど、麺だけに、
"any longer"とスティーヴが叫ぶ部分がやけに印象に残ります(笑)。
あ、と思ったけど、麺だから間延びしちゃだめなんですね・・・
そういえば日本は、GDPで中国に抜かれて世界第3位になりましたね。
ボーナストラックを取り上げたのは、ひとつは、
Tr10で終わってしまうと消化不良気味なところが、
CDではあと5曲聴けて気持ち的には満たされるから。
もうひとつ、調べてみると彼らはシングルヒットは出しておらず、
一方アルバムはアメリカで4枚がトップ10入りしているように
アルバムで聴くアーティストといえるかと思いますが、裏を返せば、
シングルでもそれほどインパクトが大きい曲がないということで、
つまりがこのCDの場合は本編もボーナスもそれほど気持ち的な
違いがないまま聴き通せると僕は思うからです。
ちなみにこのアルバムは全米最高17位です、そこそこかな。
自らのバンド名を冠したアルバム名というのは、デビュー作か、
キャリアが進んで再起を期す際につけることが多いけれども、
トラフィックのように2枚目でつけているのは他にはないのでは。
どういう意図だろう、それもまた斜に構えたと感じさせる部分です。
デイヴ・メイスンはこの後に脱退してしまい、
バンドも一時解散するわけですが、このアルバムは、
デイヴのギターが聴けるというだけでも価値大ありですね。
1968年はブルーズ系ロックの傑作がたくさん制作された年と
先日のジェフ・ベックの記事(こちら)で列記しつつ話しましたが、
個人的にはこのアルバムもそこに加えたいほどの充実した1枚です。
ただ、トラフィックはこの前年のMR. FANASYtのほうが評価が高く、
こちらはエポックメイキングという点ではいささか弱いため、
そこはこのアルバムのちょっとした悲運かもしれません。
まあその前に、ブルーズ系ロックかと言われれば、
必ずしもそうではないと、自分で書いたばかりでしたが・・・
でもそういえば、68年の傑作群の中のジミ・ヘンドリックスの
ELECTRIC LADYLANDにCrosstown Trafficという曲があるのは、
考えてみればよい偶然だな、と(笑)。
そこにトラフィックのメンバーが参加しているとなれば、なおのこと。
あ、だから偶然じゃないのかも・・・
最後に。
このアルバムを聴いたのを機に、MR. FANTASYも聴いてみると・・・
だいぶいいと感じてきました、かなり。
僕はもはや、トラフィックから抜け出せなくなっているようで、
そんな僕はまさに"Traffic Jam"であり、"Heavy Traffic"ですね(笑)。
再々結成以外のアルバムも全て買い求めましたし・・・
05
TRAFFIC Traffic
トラフィック トラフィック (1968)
今回はトラフィックいきます。
実は今、僕がいちばん凝っているアーティストだったり・・・
トラフィックはまともに聴いてきませんでした。
理由のひとつが、よく分からないけどなんだか妙に評論家などの
評価が高かったからです。
まあそれは、聴いていなかったので分からなくて当然ですが、
でも、彼らは聴こうとすら思えなかった、なぜか。
ずばり、スティーヴ・ウィンウッドが苦手だったからです。
僕が高校時代にHigher Loveとそのアルバムが売れに売れましたが、
若かった僕にはそれが理解できなかったのを引きずっていました。
かつての音楽番組「ポッパーズMTV」におけるピーター・バラカン氏の
言葉を紹介すると、当時はフィル・コリンズが人気絶頂、そんな中
彼はスティーヴ・ウィンウッドを紹介する際にこう言いました。
「フィル・コリンズが大物として騒がれているけど、
スティーヴ・ウィンウッドのほうが段違いに偉いのに」
僕はフィル・コリンズは普通に好きですごいと思っていた人なので、
そうい言われて「そうかぁ?」とテレビに向かって言いました。
今考えると生意気ですね(笑)。
でも一方、「そうか、そういうもんなんだな」とも知らされました。
ちなみに、弟は僕よりもっとスティーヴ・ウィンウッドが嫌いで、
かつて僕がブラインド・フェイスを聴いていたところに弟が帰宅し、
金切り声系のスティーブの声を聞いて、疲れていたのか、
頼むから止めてくれと言われたことがあるくらいです。
月日は流れ、ロックの名盤情報などにも多く接するようになってから、
トラフィックの最初の2枚のリマスター盤が出たので買いました。
いつも言いますが、僕はリマスター盤が出るとひとまず聴いてみる、
そういう心構えでずっと音楽を聴き続けていましたから。
その2枚とは、名盤の誉れ高いデビュー作MR. FANTASYと、
2ndであるこのアルバム、無謀にも2枚同時に買いました。
僕は、何を見ても名盤と書かれている1stから聴いたのですが、
ここがいわばその後の間違いと混迷の元凶でした。
これもよく言いますが、僕はサイケデリック系の音が苦手なのです。
彼らの1stは僕にはそういう風にしか聴こえませんでした。
「名盤と呼ばれるものの中には僕には理解できないものもある」
と悟ったところで、トラフィックは僕の中では終わりました。
しかし今年、ついに、真面目にトラフィックを聴き始めました。
ジョー・コッカーの記事(こちら)でも話したように、
弟がデイヴ・メイスンを集めて聴くようになったからです。
僕は、ジョーの大好きなその曲の作曲者を、さらにはそれが
僕が既に持っているCDに入っていることを知らなかったのです。
それに気づいてひとりで恥ずかしくなりました。
まあ、いいんです、世の中、知らないことはたくさんありますから。
そこで、正直どんな音楽かまったく覚えていなかったので、
ほとんど初めての気分でこのアルバムを聴くことにしました。
1stのイメージで、僕には響かないのではないかと不安になりました。
杞憂でした。
少なくともサイケデリック系ではありませんでした。
このアルバムはとっても良い、すぐに大好きになりました。
そしてついに、トラフィックについて思うことを、
記事にまとめることができるくらいになりました。
これを聴く前に、弟に、デイヴ・メイスンは、英国人で本格的に
スワンプに取り組んだ先駆者のひとりだと聞かされていましたが、
それを念頭に聴くと、確かに彼らの音楽には、アメリカ音楽の影響が、
思っていた以上に見え隠れしつつ表されているのが分かりました。
といって、僕はスワンプを果たして知っていると言えるのだろうかと
自問自答しないでもないですが、でも、それは正直なところでした。
デイヴ・メイソンが、スワンプ指向の英国人による大傑作アルバム、
ジョージ・ハリスンのALL THINGS MUST PASSに参加していることも
ようやくそこでつながって納得しました。
ここまで来るのに四半世紀を要したことになりますが(笑)。
トラフィックの音楽は、表面上はさらっと演奏しているように聴こえ、
決してくどくも暑苦しくもないのが聴きやすいところです。
トラッドが基礎なのかなと思いつつ、アメリカのルーツは見えるけど
そちら側に行ってしまうのではなく、あくまでも自分たちの側に
引き寄せて自分たちのフィールドだけで勝負している感じ。
例えば、生真面目なエリック・クラプトンのように
ブルーズに身も心も魂も捧げたり、自らの肉体改造をしてまでも
スワンプにどっぷりと浸ったりという姿勢は見られず、
あくまでも自分たちは自分たちであって、その主張は結構激しい。
もちろん彼らだって音楽には真面目一直線でしょうけど、
スティーヴ・ウィンウッドは「インテリな不良」「不良インテリ」
みたいな香りをぷんぷんと発していて近寄り難さのようなものがあり、
そこが毅然としていると感じる部分でもあります。
まあ、彼らは英国人ですからね。
とだけで片付けてはいけないのかもしれないけれど・・・
ただそれは、斜に構えている、素直じゃないともとれるわけで、
そこは聴く人がどう捉えるかでしょうね。
僕は好きですよ、こんな性格だから(笑)。
デイヴ・メイスンが脱退してスワンプに走ったのは、
彼は斜に構えずに真っ直ぐやりたかったのかもしれない。
(スティーヴとデイヴが不仲だったという噂も・・・)
しかしそんなところからしていかにも英国人っぽさがあり、
洗練され洒落ていて野暮ったさがないと感じるところです。
彼らの場合はまた、当時横行していたブルーズの影響が
表面上は割と希薄なのが、他とは違うと感じる部分です。
スティーヴは後にエリックとくっついたりしましたが、
彼は音楽に柔軟性がある才人なのでしょうね。
何より音楽の咀嚼能力が大きく、懐深く構えている感じがしますね。
トラフィックという名前は、いろいろな音楽が混じり合いつつ
うまく流れるように交通整理されているという意味であるなら
まさにぴったりでとてもいい名前だと思います。
雑多に混じり合ったままばらばらに存在するのではなく、
いろいろな方向の流れをうまく秩序だてて管理している様子です。
メンバーは
スティーヴ・ウィンウッド Steve Winwood (Key)(Vo)(Bs)
デイヴ・メイスン Dave Mason (Gt)(Vo)
クリス・ウッド Chris Wood (Wind Instruments)
ジム・キャパルディ Jim Capaldi (Ds)(Vo)
メンバーに2人も"wood"がいるのは国際森林年にふさわしい(笑)。
そうそう、もひとつ音楽的に変わった響きと感じさせるのは、
管楽器奏者のクリス・ウッドがメンバーに名を連ねていることで、
各種の管楽器の音も他にはない音的な楽しさを感じる部分です。
それと、スティーヴは録音ではベースも弾いているんだ。
コンサートではそのベースラインを、ドアーズのように
キーボードで再現するのかな。
ベースに特にこだわる僕としては気になるところです。
ジム・キャパルディのドラムスはびしっと響いてきます。
先ほどから英国、英国と書いているけど、
キャパルディという苗字はもしかしてイタリア系かな。
いつものように作曲者は各曲に明示しますが、
トラフィックはリード・ヴォーカルも分担しているので、
作曲者の右側の()内にファーストネームを記してゆきます。
02 トラフィック、ということで札幌市電を
Tr1:You Can All Join In
(Dave Mason)(Dave)
1曲目は、アコースティックギターの力強いカッティングと、
エレクトリック・ギターの浮かぶような楽しげな旋律が、
ボ・ディドリー風のビートに乗って始まるカントリー風の曲。
トラフィックの場合は何事も「風」であるのが肝要(笑)。
アルバム1曲目としてはちょっと異質な感じがするのは、
始めっからすかしている態度を感じられて面白い。
とはいえ、印象には残りやすいし、僕はこの音で始まるから
ここまで大好きになったともいえます。
デイヴのギターのオブリガードもカントリー風だけど、そういえば
デイヴはジャケットでカウボーイハットを被っているんだっけ。
トラフィックを聴いてゆくと、デイヴがこの中ではいちばん
アメリカっぽい要素を発散しているのを感じました。
Tr2:Pearly Queen
(Steve Winwood / Jim Capaldi)(Steve)
ブルーズっぽいといえばそんな曲かな、軽めだけど。
問答をしていて問いかけだけを永遠に続けて答えがないような、
一本調子に曲が進んでいく中、デイヴのギターソロが冴えていて、
曲にいきいきとした表情をつけています。
字余りな歌メロがちょっとばかりおかしくて面白い。
緩いようで微妙な緊張感が漂う不思議な曲。
Tr3:Don't Be Sad
(Dave Mason)(Dave)
デイヴの疲れ切ったヴォーカルとしまりがないコーラスが、
楽しげな演奏にのって進んでゆく、こちらは緩い曲。
自己嫌悪に陥りそうなところをいい意味で間の抜けた音で
和ませて救ってくれるような、ちょっと心が温まる曲。
途中でスティーヴがヴォーカルを取って代わりますが、
やはりスティーヴが歌うとしまりますね。
途中でヴォーカルが交代する曲が僕は大好き。
最後のオルガンはまるで怒っているようで迫力あります。
Tr4:Who Knows What Tomorrow May Bring
(Steve Winwood / Jim Capaldi / Chris Wood)(Steve)
これはソウル風か、前半はファルセット気味に歌うスティーヴ。
ベースが前というより上に浮かんで聴こえるミックスが効果的。
曲がなんとなく盛り上がりそうで盛り上がらないまま、
スティーヴだけが盛り上がって消えていく感じの曲。
なお、この曲はスティーヴとジムのみで録音しているようで、
デイヴとクリスには"Nothing"と記されています。
Tr5:Feelin' Alright ?
(Dave Mason)(Dave)
ジョー・コッカー(記事こちら)の名演も素晴らしいけど、これは
そもそも曲自体が持つパワーがケタ違いという感じがします。
ラテンっぽいのりで斜めに揺れながら進んでゆく曲を聴くと、
自然と体が揺り動いている自分にいつも気づきます。
サビを無意識で口ずさむのは言わずもがな。
まさにタイトルの言葉のごとし、とにかく気持ちがいい!
あ、でも、タイトルには「?」がついていますが、
斜に構えているだけで本心じゃないはず、だから気にしない(笑)。
スティーヴの少し引いたコーラスが深みがあって効果的。
いやはや、やっぱりこれは名曲だな。
多分、この曲を聴いて何も感じない人とは、
僕は仲良くなれないと思うな(笑)。
Tr6:Vagabond Virgin
(Dave Mason / Jim Capaldi)(Dave & Jim)
のどかな雰囲気で、キンクスとも通じる英国の片田舎的響き。
よく聴くとリズムが微妙にカリプソ風ですね。
フルートの音も和やかさを強調、アルバムいち緩い曲。
特に盛り上がらないまま終わるんだけど、この曲の場合は、
メリハリがないからこそ和む、そんな感じ。
スティーヴの声が目立たないので余計にのどかに感じます。
Tr7:(Roamin' Thro' The Gloamin With) 40,000 Headmen
(Steve Winwood / Jim Capaldi)(Steve)
ううん、長ったらしく説明的な曲名はさすが「不良インテリ」。
ギターのアルペジオと管楽器で不気味に曲が始まる。
ブルーズとトラッドが遠回りしながら高次元で融合したような
緊張感がある曲。
Tr8:Cryin' To Be Heard
(Dave Mason)(Dave)
ほの暗くて重たい雰囲気のゆっくりと進む曲で、
サビがびしっと盛り上がるのが印象的でついつい口ずさむ。
そうだ彼らは、基本的に緩いように見せかけておいて、
実は要所要所でびしっと決めてゆくのは得意なのかも。
途中で歌メロが対位法になる部分が出てくるあたり、
曲作りも凝っていてセンスの良さを感じます。
そしてこういう曲でやっぱりスティーヴのオルガンは凄い。
曲が終わって入る狼の叫びのような管楽器の音がすごい。
Tr9:No Time To Live
(Steve Winwood / Jim Capaldi)(Steve)
低音が響く荘重なピアノの音で始まるバラード風の曲。
しかしスティーヴはこの曲で頼りないほどに声が高い。
もちろんそれが狙いなのでしょうけど。
途中で金切り声を上げるのは、これ系の声が苦手な人、
例えば僕の弟のような人には耐えられないかも・・・
まるで狼の吠える声のような管楽器の音は
前の曲からイメージを引き継いでいます。
そしてやはりこうした曲にはティンパニーが効いてくる。
ずっと先にスティングの姿がかすかに見えてくる、そんな曲。
Tr10:Means To An End
(Steve Winwood / Jim Capaldi)(Steve)
アルバム本編最後は慌てて録音を始めたような急いた曲。
普通に明るくアップテンポの曲で、やはり「照れ隠し」的な味。
でも、なんとなく終わってしまうため、これで終わるLPの場合、
いささか消化不良気味になるかもしれません。
でも、本人たちによれば「これは終わりを意味する」そうで・・・
さて、このアルバムには5曲のボーナストラックが入っていますが、
これがまた聴きどころがあるので、今回はボーナスにも触れます。
なお、ボーナストラックについては、本編とは違い、ブックレットに
作曲者や各人の役割分担(と歌詞)が記されていないので
ここでも割愛させていただきました、ご了承ください。
Tr11:Here We Go Round The Mulberry Bush
Tr12:Am I What I Was Or Am I What I Am
この2曲は以下のように記されています。
from the film soundtrack
"Here We Go Round The Mulberry Bush"
今の僕にはそれが何であるか分からないのが申し訳ないですが、
Tr11はトラッドというか童謡みたいな感じの楽しい曲、と思ったら
最後のほうはかすかに不安な響きになる不思議な曲。
Tr12は大きく動くギターリフが印象的なポップな曲。
Tr13:Withering Tree
おお、ここにも木の曲があるっ、やはり国際森林年バンド(笑)。
これはFeelin' Alright ?のシングルB面曲ということですが、
どうしても、霧が立ち込める丘にかすかに見える1本の木、
というイメージになってしまう・・・
Tr14:Medicated Goo
これは同時期のシングルA面としてリリースされた曲
ポップだけど力で押し通す感じのちょっとハードな曲で、
こういう曲におけるデイヴのギターはやはり冴えています。
Tr15:Shanghai Noodle Factory
題して「上海製麺所」。
この時代にこのイメージは聴く者の想像をかきたてる、以上に、
混乱に陥れたかもしれません。
さすがは「インテリ不良」、面目躍如というところでしょうか。
曲はその通り妙に間延びしたリズム感が面白いけど、麺だけに、
"any longer"とスティーヴが叫ぶ部分がやけに印象に残ります(笑)。
あ、と思ったけど、麺だから間延びしちゃだめなんですね・・・
そういえば日本は、GDPで中国に抜かれて世界第3位になりましたね。
ボーナストラックを取り上げたのは、ひとつは、
Tr10で終わってしまうと消化不良気味なところが、
CDではあと5曲聴けて気持ち的には満たされるから。
もうひとつ、調べてみると彼らはシングルヒットは出しておらず、
一方アルバムはアメリカで4枚がトップ10入りしているように
アルバムで聴くアーティストといえるかと思いますが、裏を返せば、
シングルでもそれほどインパクトが大きい曲がないということで、
つまりがこのCDの場合は本編もボーナスもそれほど気持ち的な
違いがないまま聴き通せると僕は思うからです。
ちなみにこのアルバムは全米最高17位です、そこそこかな。
自らのバンド名を冠したアルバム名というのは、デビュー作か、
キャリアが進んで再起を期す際につけることが多いけれども、
トラフィックのように2枚目でつけているのは他にはないのでは。
どういう意図だろう、それもまた斜に構えたと感じさせる部分です。
デイヴ・メイスンはこの後に脱退してしまい、
バンドも一時解散するわけですが、このアルバムは、
デイヴのギターが聴けるというだけでも価値大ありですね。
1968年はブルーズ系ロックの傑作がたくさん制作された年と
先日のジェフ・ベックの記事(こちら)で列記しつつ話しましたが、
個人的にはこのアルバムもそこに加えたいほどの充実した1枚です。
ただ、トラフィックはこの前年のMR. FANASYtのほうが評価が高く、
こちらはエポックメイキングという点ではいささか弱いため、
そこはこのアルバムのちょっとした悲運かもしれません。
まあその前に、ブルーズ系ロックかと言われれば、
必ずしもそうではないと、自分で書いたばかりでしたが・・・
でもそういえば、68年の傑作群の中のジミ・ヘンドリックスの
ELECTRIC LADYLANDにCrosstown Trafficという曲があるのは、
考えてみればよい偶然だな、と(笑)。
そこにトラフィックのメンバーが参加しているとなれば、なおのこと。
あ、だから偶然じゃないのかも・・・
最後に。
このアルバムを聴いたのを機に、MR. FANTASYも聴いてみると・・・
だいぶいいと感じてきました、かなり。
僕はもはや、トラフィックから抜け出せなくなっているようで、
そんな僕はまさに"Traffic Jam"であり、"Heavy Traffic"ですね(笑)。
再々結成以外のアルバムも全て買い求めましたし・・・
05
Posted by guitarbird at 22:54
│ロックQ-Z