2013年07月02日
Letting Go ポール・マッカートニー&ウィングス
01

Letting Go (Paul McCartney &) Wings
「ワインカラーの少女」 (ポール・マッカートニー&)ウィングス
今日は久しぶりにこの1曲の記事です。
ポール・マッカートニー&ウィングスのCD2枚組大作ライヴ盤
WINGS OVER AMERICA(記事はこちら)が出てからこちら、
車の中ではラジオではない時はそれをずっと聴いています。
もっとも、車に持ち込んでいるのはリマスターではない旧盤ですが。
WOAの記事の中で僕は、このようなことを書きました。
ポールのアルバムの中の曲にももっと光が当たってほしい。
ポールはビートルズの栄光があまりにも大きすぎるから、
ソロ以降のベスト盤には収録されないようなアルバムの中の曲は、
今ではほとんど顧みられていないのではないか、だからこれを機に
そうした曲ももっともっと聴かれて話題に上がってほしい、と。
いい機会ですね、それらが収められたライヴ盤が新譜として出たのは。
かくなる僕も、好きな曲もあってそれなりに聴いてきてはいましたが、
実際、WOAで今より印象的なのは、結果としては今まで聴く機会が
他よりは少なかったそれらアルバムの中の曲なのです。
そこで今回は、思い切って、有名とはいえない曲を記事として上げて、
その運動(!?)を推進してゆきたいと思います。
◇
Letting Goは、ポール・マッカートニーの、ウィングスを名乗ったもの
としては4枚目のアルバムVENUS AND MARS収録。
ひとことでいえばポール風のソウルです。
或いは、ブルーズのバラードというか。
僕はこの曲を初めて聴いたのは、ビートルズを聴き始めた
中学2年生の頃、「FMファン」誌で、まだ聴いたことがない
ビートルズやソロの曲を見つけるとエアチェックして聴いていました。
その中でもこれは、いちばん感動し、ある意味衝撃を受けた曲。
ポール・マッカートニーは、黒っぽさがまるでないというか、
ブルージーさがない、ブルーズをあまり感じないとよく言われますね。
実際、僕もそう思います、思っていました。
ただ、それは否定的な面はあまり含めずに言っています。
1960年代前半の英国のいわゆるビートグループの多くは、
アメリカのロックンロールやR&Bへの憧れから始まっており、
ビートルズも例外ではありません。
黒人の音楽を真似て、自分たちなりのぎこちなさで表現し
自分たちのものにしたのがロックという音楽ですが、
そのやり方はバンドによりさまざま。
歌い手はいかに黒っぽく歌えるかを競っていたような空気が
当時の英国には漂っていたことも今聴くと感じられます。
あのローリング・ストーンズだって最初はそうだった。
ビートルズがこれだけ成功したのは、黒っぽさを求めるという
流れからいち早く脱却したことにあると僕は睨んでいます。
それは4人の意志というよりは、プロデューサーの
ジョージ・マーティンの意向が強かったのではないか。
彼はクラシックも手がけていた人で、逆にアメリカのそうした
音楽は特に好きでもなかったことが本を読んで分かりました。
僕がそう思うに至ったのは、大学時代に凝っていた海賊盤で
Can't Buy Me Loveのデモヴァージョンを聴いたことがきっかけ。
あれは衝撃的、ある意味大きなショックでした。
全体にラフでより跳ねたビートの中、ポールが荒れた声で熱唱し、
ジョンとジョージのコーラスはR&Bのやり方そのまま。
ビートルズもこんなスリリングで黒っぽいことができたんだ。
やっぱりすごい人たちだったんだなあ、と。
ただ同時に、もしこのまま進んでいれば、ビートルズは今ほど広く
多くの人に聴かれることもなかったかもしれない、とも思いました。
スリリングさは危うさと紙一重、ということも思いました。
Can't Buy Me Loveの正式なヴァージョンは、それでもビートルズの
中では最もリズムが跳ねてはいるけれど、そのデモに比べれば
大人しくて上品でスマートに仕上がっています。
ジョージ・マーティンも、はじめはやりたいようにやらせてみたところ、
出来上がったものを感じて危うさを感じたのではないか。
つまり、ここなのです、ビートルズが広く受け入れられたのは。
危うさのひとつの理由が、ポールがブルージーではないことで、
かなりの無理をした上でその曲があったと感じたからでしょう。
ただ、やっぱりこのヴァージョンはかっこいいと思うので、
ご興味がある方は、ANTHOLOGY 1に収録されていますので
一度聴いてみてはいかがでしょうか。
まあ、かっこいいと思うのは、今のビートルズのイメージの上で
こういうこともあったんだと分かっているからなのですが。
◇
ビートルズでも実際にブルーズっぽさを出していたのはジョンで、
ポールは意図的にブルーズっぽさを避けていたかのよう。
ビートルズ時代でいちばんブルーズっぽいポールの曲は、
ひとりで録音したWhy Don't We Do It In The Roadでしょうか。
ソウルっぽいポールの曲は幾つかありますね、例えば
モータウンのベースラインをいただいたDrive My Car、
ブラスが本格的で強烈なGot To Get You Into My Lifeなど。
あと正調R&BバラードのOh! Darlingがあるか。
でもその曲についてジョンは「あれは僕のスタイルの曲だ」
と話していたように、ポールにしては危ういものだったのかもしれない。
ただ、それも危うさがあってこそ最後のアルバムらしくていいんだけど。
ビートルズが終わり、制約がなくなっても、結局ポールは
本格的なブルーズをやることはなかった。
IIのOn The Wayなんてどう聴いてもパロディでしかないし。
そんな中で、このLetting Goはブルージーさが際立っています。
ただ、サウンドで完全武装しただけで、ポールの歌い方は
まるっきりブルーズではない、普通にポールらしく歌っています。
ブルーズっぽさを狙うというのであれば、同じアルバムに収録、
WOAでも演奏しているCall Me Back Againのほうが強いかな。
まあそれはともかく、全体のサウンドとしていえば、
Letting Goはポールの中でも本格的なソウルでもあり、
ブルーズのバラードでもあって、ポールにとっての「禁断の箱」だった。
だから僕が最初に聴いた時に受けた衝撃は、後に
Can't Buy Me Loveを聴いた時と同じようなものだったのではないか、
と、自己分析してみました。
◇
ポール・マッカートニーについて僕がいつも言っていることを、
この際だからここでも強調しておきます。
ポールはブラスやホーンの使い方が飛び抜けて上手い。
ビートルズ時代から上記Got...やFor No One、Penny Lane
それにMother Nature's Sonなど管楽器が素晴らしい曲が多い。
WOAでは、YesterdayやThe Long And Winding Roadで、
オリジナルにはない新たな管楽器を入れていますが、
それを聴いてその思いをさらに強くしました。
ポールが管楽器のセンスがいいのは、お父さんがクラリネット奏者
だったことで小さい頃から耳が慣れていたのかもしれない。
僕の友だち、さいたまのソウルマニアのMが高校時代、
僕が死ぬ時に聴いていたい曲Take It Awayを聴いて、
こんなことを言っていました。
「この曲の最後のブラスが素晴らしい。ブラスだけ、なっ」
もちろん僕はむっとした(笑)、でもさらに話を聞くと、
Mはかねがねポールにはそう思っていたそうで、それは
僕がそれまでは思っても見なかった観点で新鮮な話でした。
でもその言葉は、大げさにいえばその後の僕の
ポールへの考え方を決定づけてくれました。
Letting Goもその中の筆頭格。
ブルージーとまではいかない哀愁を帯びた歌メロが2回続いた後、
何の予兆もなしに現れるブラスの間奏がとにかく素晴らしくて、
その旋律も口ずさむくらい。
歌もかなりいいけれど、歌以上に素晴らしいと言ってしまう。
他に僕がブラスが素晴らしいと思うのは、もうこの先当面
リマスター盤が出ないだろうからこの際言ってしまうと(笑)、
BACK TO THE EGGのArrow Through Me。
ポールにしては珍しく歌メロが整っておらず破たんしていて、
声も荒れ気味で歌としてはファンだからこそというものだけど、
間奏と最後の7拍子になるところのブラスがやはり
歌よりもそこを口ずさんでしまうほどに素晴らしい。
ポール・マッカートニーを聴く時は管楽器に注目してください!
◇
そしてギターワークもここまでブルーズを意識した曲は、
ポールでは他にはちょっとない、というくらいのハードなものであり、
間奏のギターソロも曲の背後に入るオブリガートもかっこいい。
おまけにポールのベースがやはり素晴らしい。
トリッキーなプレイではないけれど、でもオーソドックスでもない、
細かい独創的なフレーズを交えつつ、適度に目立つベースプレイ。
特にBメロ、タイトルを歌う部分は、どうしてこんな音が思いつくんだ
といういつものポールらしいフレーズを聴くことができます。
ほんと、ポールの音の取り方は独特のセンスで素晴らしい。
VENUS AND MARSはウィングスの最高傑作とも目される中、
この曲はサウンド的にもポールのひとつの頂点といえるでしょう。
こういうのをポールやずっとやりたかったんだろうなあ。
WINGS OVER AMERICAでも演奏されていますが、
スタジオ演奏に比べると音は全体的に薄目にはなっているけれど、
バンド形態での演奏でもやっぱりタイトで映える曲ですね。
ツアーには管楽器奏者が一緒に回っていたようですが、
ライヴのこの曲を聴くと、ポールの管楽器へのこだわりが強い
ということもよく分かります。
この曲についても、割と後ろのほうに出てくるので、
ポールとしてもクライマックスに近い扱いなのでしょう。
02

歌の内容について。
「ワイン・カラーの少女」というのは、冒頭のくだり
"Oh, she tastes like wine"からとられているのでしょう。
思いっきり要約すると、あまりにも美しい女性(少女)を見た
ポールの頭の中で妄想が膨らんでゆく、というもの。
断っておきますが、ポールだから不健全な方向ではなく、
「ワイン・カラーの少女」は、あまりの美しさゆえ、物語の中で
スターにまで上り詰めてしまうのです。
おそらくポールはどこかでとってもきれいな少女を見たのでしょう。
その一瞬のことが、ここまで大がかりな歌になってしまう。
内容の他愛のなさと音楽の素晴らしさ、大仰さのアンバランスも
また面白い、魅力となって響いてきます。
写真02は、ポールが自身の曲をイメージしたイラストを描き、
歌詞と楽譜をまとめた本、COMPOSER / ARTIST
に載っているこの曲Letting Goのイメージのイラスト。
あまりの美しさに我を忘れた、といったところでしょうか。
写真01のドーナツ盤は、中学時代にエアチェックして気に入り、
すぐに中古レコードで買ったものです、250円だったかな。
いつもいいますが、当時はまだビートルズ関係の中古シングル盤は
新品よりも安く探せましたが、今は多くがプレミアついていますね。
まさにワインカラー基調、鏡のように楕円形にくり抜かれた中に、
普通のようで微妙にカッコよくきめようとしたポールの写真。
まあ、いかにもシングルらしい装丁ですね。
左上にこのシングルのタタキ文句があるので、書き出してみます。
世界のナイス・ガイ、ポール・マッカートニーの
とろけるようにキレイなバラッドがこれ!!
ますますイケてるウィングスでーす!!
あのぅ、なんというか、こっ恥ずかしくなってくる・・・
あまりにも恥ずかしい、じゃあやめればと言われそうだけど、
恥ずかしい文言をもう一度書き出して見てみると
世界の「ナイス・ガイ」
→あの、アリス・クーパーじゃないんだから(笑)。
ただ、ポールに対してこういう見方は逆に新鮮でもありますね。
イケてる
→これに至ってはもう「・・・」しかない・・・
ただひとつ思ったのは、「イケてる」という言い方は、
1975年頃からもう使われていたんですね、ちょっと驚いた。
僕は、その言い方は割と最近のものだと思っていました。
でも、社会一般的には使われていなかったのかな、どうだろう。
そうだとすればこの文言を考えた人は先見の明があるのかな(笑)。
そして「イケてる」という言葉は流行を通り越してしぶとく
生き延びているということにもまた驚きました。
もっとも、僕は使わない言葉ですけどね(笑)。
ウィングスでーす
→この軽いノリがなんともいやはや。
ただ、これについても思ったのは、今はビートルズはよくも悪くも
伝説となっていてあまり身近な存在とは思いにくいのでこのような
言い方に違和感を覚えけれど、当時はまだまだ現役のバンド
だったから、身近に感じさせようという意図がこれなのでしょうね。
あ、ポールは今でも現役ですよ、そこは強調したい。
2行目はぎりぎり恥ずかしくないかな(笑)。
ちなみに訳詩では"letting go"は「とろけてしまう」となっています。
ただ、「バラッド」と書いているのは、東芝EMIの人は、
原音にこだわっていたことが察せられて興味深いです。
もうひとつ、当時はもう単にウィングスと名乗っていたはずですが、
このシングルは「ポール・マッカートニー&ウィングス」と書いてある。
[歌+演奏](これも懐かしい書き方ですが)のところには
単にWINGSと書いてあるので、日本だけでは、セールスの都合か、
「ポール・マッカートニー&」を入れていたということなのですね。
それで余計に当時についての表記が今もまちまちなんだな。
などという副産物もあり、このドーナツ盤を棚から出してきて楽しかった。
なお、B面はYou Gave Me The Answer、
WOAでは2枚目の最初に入っている曲ですが、
「やさしいアンサー」という邦題がついています。
03

最後は花とポーラ。
WINGS OVER AMERICAは、出るまでは
コレクション的な面が強くてあまり聴かないかも、と
思っていたのですが、とんでもない、よく聴いています。
いろいろな曲に再会できたのもうれしいですね。
あとは、VENUS AND MARSも含めた
ポールのオリジナルアルバムのリマスターリイシュー盤が
一刻も早く出揃ってくれることを願うのみ(笑)。

Letting Go (Paul McCartney &) Wings
「ワインカラーの少女」 (ポール・マッカートニー&)ウィングス
今日は久しぶりにこの1曲の記事です。
ポール・マッカートニー&ウィングスのCD2枚組大作ライヴ盤
WINGS OVER AMERICA(記事はこちら)が出てからこちら、
車の中ではラジオではない時はそれをずっと聴いています。
もっとも、車に持ち込んでいるのはリマスターではない旧盤ですが。
WOAの記事の中で僕は、このようなことを書きました。
ポールのアルバムの中の曲にももっと光が当たってほしい。
ポールはビートルズの栄光があまりにも大きすぎるから、
ソロ以降のベスト盤には収録されないようなアルバムの中の曲は、
今ではほとんど顧みられていないのではないか、だからこれを機に
そうした曲ももっともっと聴かれて話題に上がってほしい、と。
いい機会ですね、それらが収められたライヴ盤が新譜として出たのは。
かくなる僕も、好きな曲もあってそれなりに聴いてきてはいましたが、
実際、WOAで今より印象的なのは、結果としては今まで聴く機会が
他よりは少なかったそれらアルバムの中の曲なのです。
そこで今回は、思い切って、有名とはいえない曲を記事として上げて、
その運動(!?)を推進してゆきたいと思います。
◇
Letting Goは、ポール・マッカートニーの、ウィングスを名乗ったもの
としては4枚目のアルバムVENUS AND MARS収録。
ひとことでいえばポール風のソウルです。
或いは、ブルーズのバラードというか。
僕はこの曲を初めて聴いたのは、ビートルズを聴き始めた
中学2年生の頃、「FMファン」誌で、まだ聴いたことがない
ビートルズやソロの曲を見つけるとエアチェックして聴いていました。
その中でもこれは、いちばん感動し、ある意味衝撃を受けた曲。
ポール・マッカートニーは、黒っぽさがまるでないというか、
ブルージーさがない、ブルーズをあまり感じないとよく言われますね。
実際、僕もそう思います、思っていました。
ただ、それは否定的な面はあまり含めずに言っています。
1960年代前半の英国のいわゆるビートグループの多くは、
アメリカのロックンロールやR&Bへの憧れから始まっており、
ビートルズも例外ではありません。
黒人の音楽を真似て、自分たちなりのぎこちなさで表現し
自分たちのものにしたのがロックという音楽ですが、
そのやり方はバンドによりさまざま。
歌い手はいかに黒っぽく歌えるかを競っていたような空気が
当時の英国には漂っていたことも今聴くと感じられます。
あのローリング・ストーンズだって最初はそうだった。
ビートルズがこれだけ成功したのは、黒っぽさを求めるという
流れからいち早く脱却したことにあると僕は睨んでいます。
それは4人の意志というよりは、プロデューサーの
ジョージ・マーティンの意向が強かったのではないか。
彼はクラシックも手がけていた人で、逆にアメリカのそうした
音楽は特に好きでもなかったことが本を読んで分かりました。
僕がそう思うに至ったのは、大学時代に凝っていた海賊盤で
Can't Buy Me Loveのデモヴァージョンを聴いたことがきっかけ。
あれは衝撃的、ある意味大きなショックでした。
全体にラフでより跳ねたビートの中、ポールが荒れた声で熱唱し、
ジョンとジョージのコーラスはR&Bのやり方そのまま。
ビートルズもこんなスリリングで黒っぽいことができたんだ。
やっぱりすごい人たちだったんだなあ、と。
ただ同時に、もしこのまま進んでいれば、ビートルズは今ほど広く
多くの人に聴かれることもなかったかもしれない、とも思いました。
スリリングさは危うさと紙一重、ということも思いました。
Can't Buy Me Loveの正式なヴァージョンは、それでもビートルズの
中では最もリズムが跳ねてはいるけれど、そのデモに比べれば
大人しくて上品でスマートに仕上がっています。
ジョージ・マーティンも、はじめはやりたいようにやらせてみたところ、
出来上がったものを感じて危うさを感じたのではないか。
つまり、ここなのです、ビートルズが広く受け入れられたのは。
危うさのひとつの理由が、ポールがブルージーではないことで、
かなりの無理をした上でその曲があったと感じたからでしょう。
ただ、やっぱりこのヴァージョンはかっこいいと思うので、
ご興味がある方は、ANTHOLOGY 1に収録されていますので
一度聴いてみてはいかがでしょうか。
まあ、かっこいいと思うのは、今のビートルズのイメージの上で
こういうこともあったんだと分かっているからなのですが。
◇
ビートルズでも実際にブルーズっぽさを出していたのはジョンで、
ポールは意図的にブルーズっぽさを避けていたかのよう。
ビートルズ時代でいちばんブルーズっぽいポールの曲は、
ひとりで録音したWhy Don't We Do It In The Roadでしょうか。
ソウルっぽいポールの曲は幾つかありますね、例えば
モータウンのベースラインをいただいたDrive My Car、
ブラスが本格的で強烈なGot To Get You Into My Lifeなど。
あと正調R&BバラードのOh! Darlingがあるか。
でもその曲についてジョンは「あれは僕のスタイルの曲だ」
と話していたように、ポールにしては危ういものだったのかもしれない。
ただ、それも危うさがあってこそ最後のアルバムらしくていいんだけど。
ビートルズが終わり、制約がなくなっても、結局ポールは
本格的なブルーズをやることはなかった。
IIのOn The Wayなんてどう聴いてもパロディでしかないし。
そんな中で、このLetting Goはブルージーさが際立っています。
ただ、サウンドで完全武装しただけで、ポールの歌い方は
まるっきりブルーズではない、普通にポールらしく歌っています。
ブルーズっぽさを狙うというのであれば、同じアルバムに収録、
WOAでも演奏しているCall Me Back Againのほうが強いかな。
まあそれはともかく、全体のサウンドとしていえば、
Letting Goはポールの中でも本格的なソウルでもあり、
ブルーズのバラードでもあって、ポールにとっての「禁断の箱」だった。
だから僕が最初に聴いた時に受けた衝撃は、後に
Can't Buy Me Loveを聴いた時と同じようなものだったのではないか、
と、自己分析してみました。
◇
ポール・マッカートニーについて僕がいつも言っていることを、
この際だからここでも強調しておきます。
ポールはブラスやホーンの使い方が飛び抜けて上手い。
ビートルズ時代から上記Got...やFor No One、Penny Lane
それにMother Nature's Sonなど管楽器が素晴らしい曲が多い。
WOAでは、YesterdayやThe Long And Winding Roadで、
オリジナルにはない新たな管楽器を入れていますが、
それを聴いてその思いをさらに強くしました。
ポールが管楽器のセンスがいいのは、お父さんがクラリネット奏者
だったことで小さい頃から耳が慣れていたのかもしれない。
僕の友だち、さいたまのソウルマニアのMが高校時代、
僕が死ぬ時に聴いていたい曲Take It Awayを聴いて、
こんなことを言っていました。
「この曲の最後のブラスが素晴らしい。ブラスだけ、なっ」
もちろん僕はむっとした(笑)、でもさらに話を聞くと、
Mはかねがねポールにはそう思っていたそうで、それは
僕がそれまでは思っても見なかった観点で新鮮な話でした。
でもその言葉は、大げさにいえばその後の僕の
ポールへの考え方を決定づけてくれました。
Letting Goもその中の筆頭格。
ブルージーとまではいかない哀愁を帯びた歌メロが2回続いた後、
何の予兆もなしに現れるブラスの間奏がとにかく素晴らしくて、
その旋律も口ずさむくらい。
歌もかなりいいけれど、歌以上に素晴らしいと言ってしまう。
他に僕がブラスが素晴らしいと思うのは、もうこの先当面
リマスター盤が出ないだろうからこの際言ってしまうと(笑)、
BACK TO THE EGGのArrow Through Me。
ポールにしては珍しく歌メロが整っておらず破たんしていて、
声も荒れ気味で歌としてはファンだからこそというものだけど、
間奏と最後の7拍子になるところのブラスがやはり
歌よりもそこを口ずさんでしまうほどに素晴らしい。
ポール・マッカートニーを聴く時は管楽器に注目してください!
◇
そしてギターワークもここまでブルーズを意識した曲は、
ポールでは他にはちょっとない、というくらいのハードなものであり、
間奏のギターソロも曲の背後に入るオブリガートもかっこいい。
おまけにポールのベースがやはり素晴らしい。
トリッキーなプレイではないけれど、でもオーソドックスでもない、
細かい独創的なフレーズを交えつつ、適度に目立つベースプレイ。
特にBメロ、タイトルを歌う部分は、どうしてこんな音が思いつくんだ
といういつものポールらしいフレーズを聴くことができます。
ほんと、ポールの音の取り方は独特のセンスで素晴らしい。
VENUS AND MARSはウィングスの最高傑作とも目される中、
この曲はサウンド的にもポールのひとつの頂点といえるでしょう。
こういうのをポールやずっとやりたかったんだろうなあ。
WINGS OVER AMERICAでも演奏されていますが、
スタジオ演奏に比べると音は全体的に薄目にはなっているけれど、
バンド形態での演奏でもやっぱりタイトで映える曲ですね。
ツアーには管楽器奏者が一緒に回っていたようですが、
ライヴのこの曲を聴くと、ポールの管楽器へのこだわりが強い
ということもよく分かります。
この曲についても、割と後ろのほうに出てくるので、
ポールとしてもクライマックスに近い扱いなのでしょう。
02

歌の内容について。
「ワイン・カラーの少女」というのは、冒頭のくだり
"Oh, she tastes like wine"からとられているのでしょう。
思いっきり要約すると、あまりにも美しい女性(少女)を見た
ポールの頭の中で妄想が膨らんでゆく、というもの。
断っておきますが、ポールだから不健全な方向ではなく、
「ワイン・カラーの少女」は、あまりの美しさゆえ、物語の中で
スターにまで上り詰めてしまうのです。
おそらくポールはどこかでとってもきれいな少女を見たのでしょう。
その一瞬のことが、ここまで大がかりな歌になってしまう。
内容の他愛のなさと音楽の素晴らしさ、大仰さのアンバランスも
また面白い、魅力となって響いてきます。
写真02は、ポールが自身の曲をイメージしたイラストを描き、
歌詞と楽譜をまとめた本、COMPOSER / ARTIST
に載っているこの曲Letting Goのイメージのイラスト。
あまりの美しさに我を忘れた、といったところでしょうか。
写真01のドーナツ盤は、中学時代にエアチェックして気に入り、
すぐに中古レコードで買ったものです、250円だったかな。
いつもいいますが、当時はまだビートルズ関係の中古シングル盤は
新品よりも安く探せましたが、今は多くがプレミアついていますね。
まさにワインカラー基調、鏡のように楕円形にくり抜かれた中に、
普通のようで微妙にカッコよくきめようとしたポールの写真。
まあ、いかにもシングルらしい装丁ですね。
左上にこのシングルのタタキ文句があるので、書き出してみます。
世界のナイス・ガイ、ポール・マッカートニーの
とろけるようにキレイなバラッドがこれ!!
ますますイケてるウィングスでーす!!
あのぅ、なんというか、こっ恥ずかしくなってくる・・・
あまりにも恥ずかしい、じゃあやめればと言われそうだけど、
恥ずかしい文言をもう一度書き出して見てみると
世界の「ナイス・ガイ」
→あの、アリス・クーパーじゃないんだから(笑)。
ただ、ポールに対してこういう見方は逆に新鮮でもありますね。
イケてる
→これに至ってはもう「・・・」しかない・・・
ただひとつ思ったのは、「イケてる」という言い方は、
1975年頃からもう使われていたんですね、ちょっと驚いた。
僕は、その言い方は割と最近のものだと思っていました。
でも、社会一般的には使われていなかったのかな、どうだろう。
そうだとすればこの文言を考えた人は先見の明があるのかな(笑)。
そして「イケてる」という言葉は流行を通り越してしぶとく
生き延びているということにもまた驚きました。
もっとも、僕は使わない言葉ですけどね(笑)。
ウィングスでーす
→この軽いノリがなんともいやはや。
ただ、これについても思ったのは、今はビートルズはよくも悪くも
伝説となっていてあまり身近な存在とは思いにくいのでこのような
言い方に違和感を覚えけれど、当時はまだまだ現役のバンド
だったから、身近に感じさせようという意図がこれなのでしょうね。
あ、ポールは今でも現役ですよ、そこは強調したい。
2行目はぎりぎり恥ずかしくないかな(笑)。
ちなみに訳詩では"letting go"は「とろけてしまう」となっています。
ただ、「バラッド」と書いているのは、東芝EMIの人は、
原音にこだわっていたことが察せられて興味深いです。
もうひとつ、当時はもう単にウィングスと名乗っていたはずですが、
このシングルは「ポール・マッカートニー&ウィングス」と書いてある。
[歌+演奏](これも懐かしい書き方ですが)のところには
単にWINGSと書いてあるので、日本だけでは、セールスの都合か、
「ポール・マッカートニー&」を入れていたということなのですね。
それで余計に当時についての表記が今もまちまちなんだな。
などという副産物もあり、このドーナツ盤を棚から出してきて楽しかった。
なお、B面はYou Gave Me The Answer、
WOAでは2枚目の最初に入っている曲ですが、
「やさしいアンサー」という邦題がついています。
03

最後は花とポーラ。
WINGS OVER AMERICAは、出るまでは
コレクション的な面が強くてあまり聴かないかも、と
思っていたのですが、とんでもない、よく聴いています。
いろいろな曲に再会できたのもうれしいですね。
あとは、VENUS AND MARSも含めた
ポールのオリジナルアルバムのリマスターリイシュー盤が
一刻も早く出揃ってくれることを願うのみ(笑)。
Posted by guitarbird at 20:54
│Paul