2013年06月07日
TIME ロッド・スチュワートの新譜が出た!
01

TIME Rod Stewart
TIME:時の旅人 ロッド・スチュワート (2013)
ロッド・スチュワートの新作が出ました!
昨年クリスマスアルバムを出しているので、CDを出す間隔としては
1年も間を置いていない、もう出たかという感じですが、
考えてみればクリスマスアルバムはこれへの布石だったのか。
その前となると、2010年に、アメリカン・スタンダード路線の
最終章となる5枚目を出していて、3年振り。
しかし今回は、オリジナルの楽曲を中心としたアルバム。
となると2001年、Warner系から最後のアルバムHUMAN以来、
実に12年振り、干支が一回りしたわけです(笑)。
ロッドの長年のファンとしては、カヴァーアルバムもいいけれど、
オリジナル楽曲のアルバムを聴きたいと思い続けてきたので、
今回のアルバムはかなり楽しみに待っていました。
聴いた印象は、「浅いようで深いアルバム」。
ぱっと聴いてポップで分かりやすいけれど、それで終わりではなく、
聴いてゆくと味わいがどんどん増してゆく、というもの。
ロッド・スチュワートはさらりといい曲を書く人。
凝った曲は書かないしはっとする展開もない、
あくまでも歌にこだわったオーソドックスな曲。
だから、ビートルズにがちがちで特に後期が好きだった僕は、
二十歳頃までロッドの曲は、ああいいなあ、で終わっていました。
まあ、I Was Only Jokingやその後で出たRhythm Of My Heart
のように人生訓的な意味をもつオリジナル曲もあるのですが。
まあそれでも、Tonight's The Nightという年間No.1になる曲も
生み出したくらいだから、作曲家としても成功した人ではあるでしょう。
でも、ロッドはあくまでも歌手が第一であり、
ソングライターにはこだわってこなかった。
今作は作曲にこだわった、とのこと。
積年の思いを自分の歌に込めて表現したかったのでしょう。
別の感想として、僕はこんなことも思いました。
凄い人というよりは、身近な人なんだなあ。
歌が分かりやすいことから来るのですが、生きる上で感じることを
あまりにも素直に歌にしているだけで、作為的なものがない。
同年輩の周りのミュージシャンい、お前この年でこれをやるのか、
と言われそうなくらい、今回のアルバムの曲は、駆け出しの
シンガーソングライターといった趣き、むしろ若々しい。
だから、生けるレジェンドともいえる超大物の作品として捉えると、
物足りなさを感じる人がいるのではないかな。
実際、Amazonのレヴューでもそんな声を幾つか読みましたが、
でも、「ロッドはもう終わった」というのは、少なくともロッドのことが
好きではなく、あくまでも商品としてのCDの感想なのでしょう。
終わったのではなく、今回のロッドは、それまで様々な
経験をした上で、原点の気持ちに戻ったのです。
そう考えると、駆け出しのシンガーソングライター風の
一見すると軽い曲も、よく分かります。
しかし、聴き込んでゆくと、還暦を迎えたロッドの人生の重みが
歌詞や旋律の間から滲み出してくるのを感じます。
あくまでもポップな中にそれだけのものを織り込んでいる。
そこが、浅いようで深い、という感想になるわけです。
ただ、個人的に残念なのは、今回は有名な曲のカヴァーがないこと。
カヴァー曲はトム・ウェイツの1曲がありますが、それは有名な曲
というわけではありません(少なくとも僕は知らない曲でした)。
オリジナルにこだわること自体はとっても評価する部分ですが、
やっぱり、ロッドは、普通のアルバムに入っている有名な曲の
カヴァーが素晴らしいので、その伝統は受け継いでほしかった。
CDを買う前は「ベストヒットUSA」で1曲目を聴いただけで、他の
情報がなかったので、ここまでカヴァーが少ないのは予想外でした。
しかし冷静に考えると、自作の曲ばかりの中に有名な曲が入ると
浮いてしまうことは自分でも分かっているのでしょう、そうに違いない。
それつまり、自分が書く曲の持ち味を知っている、ということで、
そう考えると、今作の楽曲にはそうとうの自信があるのでしょう。
自作とはいえ、まったくひとりで作った曲はなく、
周りのミュージシャンに助けられながら書き上げたもの。
ジム・クリーガンやケヴィン・セイヴィガーなど
古くからのロッドの仲間の名前があるのがうれしい。
音楽面でひとつ。
やはりロッドはトラッドが好きで影響が濃いことが分かりました。
大なり小なりそのことはずっと感じていましたが、でも、
80年代以降はそれが薄まった作品が多かったので、
音の感触としては、ソロになりたてのMercury時代、
GASOLINE ALLEY辺りを彷彿とさせるのがうれしいし、
ロッドにはそれが合っている、極めて自然に聴こえてきます。
ブルーズ+トラッドは英国ロックの基本のひとつだと思いますが、
そういう意味でロッドにはやはり英国人としての誇りがあるのかな。
アルバムには、ロッドの歴史を振り返る仕掛けが凝らされていて、
それを探して昔を思いながら聴くのも楽しみのひとつです。
ここまでさんざん回りくどいことを言ったきた上でなんですが、
ひとことで言えば、人間臭さを今までのどれよりも感じます。
これだけのキャリアになると鎧が重そうなものだけど、
なにもつけていない無防備な素軽さがある。
しかし臆面もなくできてしまうのがロッド・スチュワートという人。
良くも悪くも節操がない人であり、だから半世紀近くも
ほとんど不調なしに第一線にいられた。
良い面に出た場合は今作のように、ロッド・スチュワートという
人となりに直に触れられる、だから身近なアルバムなのです。
"TIME"というタイトルも、シンプルいちばん、
自らの人生を回想するアルバムを作るのであれば、
もっと凝ったタイトルをつけそうなものですが、
そこがまたロッドらしいところでもありますね。
02

Tr1:She Makes Me Happy
シングル化され、「ベストヒットUSA」でビデオクリップを見ました。
明るい海辺の休日といった趣きの映像であり、
内容をイメージで表している、ロッドらしいビデオクリップでした。
いきなり強烈なアコースティックギターで始まる軽快なポップロック。
途中でマンドリンが入るのもやはりMercury時代を彷彿とさせる。
また、"Everyday's like Christmas"というくだりは、
When A Man's In Loveにそのまま出てくるもので、思わずにやり。
とにかく、うれしくなることが列挙され、聴いていても楽しくなる。
彼女が僕を楽しくさせてくれて、僕は歌うことができる、というのは
ロッドがなぜ歌いたいか、ずっと歌ってきたかを表明するもので
なんとも微笑ましいですね、なんせ、
"She makes me happy, wanna sing sing sing!"ですからね。
アルバム1曲目だけあってつかみ優先、でもなかなかの佳曲。
何より、オリジナルの新しい歌が聴けるのはうれしいじゃないですか。
Tr2:Can't Stop Me Now
前半がNo Holding Backをちょっと早くしたような感じだけど、
ロッドの場合、今に始まった話ではなく昔から、自分の曲に
似ている部分があって、それはむしろ愛らしいことだと思う。
これは歌手としてやってゆけるまでの若い頃を回想したようで、
彼らはもはや僕を止められない、世界が待っている、というのは、
ロッドの自信のほどを感じさせるところ。
しかし最後のほうで、今に至るまでには自分ひとりの力ではなく
周りに感謝しながらここまでこられたことを、ひとつひとつ
名前を挙げ、しみじみと気持ちを込めて歌い上げるのは感動的。
途中のキーボードもロッドらしい響きで、2曲目にして
気持ちはすっかりアルバムに入り込んでいることに気づきます。
Tr3:It's Over
しんみりとした、トラッドの香りが高いバラード。
ああ、こっちもNo Holding Backの後半に雰囲気が近いかも。
つまりそれがロッドの元々の路線ということなのでしょう。
後半ストリングスが盛り上げてから転調するこれ、映画に合いそう。
これは1曲めと逆で、後からじわじわと良くなってくる曲。
Tr4:Brighton Beach
おお、もう昨年のことになるけど、グレアム・グリーンの
『ブライトン・ロック』を読んだから(翻訳本)、なんだかうれしい。
続いてしんみりとした曲、泣きのヴァイオリンが入るトラッド。
ブライトンといえばクイーンもBrighton Rockを歌っていますが、
あの賑やかさとは正反対、避暑のシーズンが終わった寂寥感。
歌詞に"Janis and Jimmy"、ケネディやケルアックなどが出てくるのは、
やはり今回は回想することもひとつのテーマなのかな。
Tr5:Beautiful Morning
2曲ほどしんみりとさせてしまったことを反省したかのように、
高らかに朗らかにまるで鳥の囀りのように歌い始めるロッド。
アップテンポで肩の凝らない、ひたすら楽しい曲、サビも印象的。
こうした素直さが、今回は特に身近に感じられる部分ですね。
たたみかけるように歌い走るロッド、まだまだ若いですね。
Tr6:Live The Life
ごめんなさい、最初にこれを聴いて、にやっとしてしまった・・・
はっきり言ってMaggie Mayにサウンドプロダクションがそっくり。
というか、それに似ているYou Wear It Wellに似てるというか、
さらにいえばそれらに似ているキッスのHard Luck Womanに。
間違いなく意図したものだと思う。
それは、ネタが尽きたとか二番煎じ(三番だけど)ではなく、
昔からのファンを大切にしつつちょっとからかっている、
そんなロッドのいたずら小僧的な面を感じました。
いやあ、それにしても似ている、おかしいくらいに。
敢えて言う、ファンとして、だからこそ聴いてほしい。
歌詞に"Let the good times roll"と出てくるのも、やっぱりロッドは
古い曲への愛情が深いことを感じずにはいられない。
Tr7:Finest Woman
ロッドの今の奥さんはとってもきれいな人だそうで・・・
ということを直接的に思わせるいわば「おのろけ」ソング。
これまた明るいロックンロールにソウル風のブラスが入る。
ロッドの奥さんはロッドより背が高い人だそうですが、
そういえばこの曲は背が高く感じる響き、なぜだろう・・・(笑)・・・
03

Tr8:Time
アルバム表題曲が真ん中にどっしりと構える。
この曲だけは最初から、「浅い」とは一切思わず、深い、と。
"Time waits for no one"の歌い出し、ローリング・ストーンズの
まさにTime Waits For No Oneを彷彿とさせるものだけど、
そもそもストーンズのそれが隠れた名曲的に感動的だから、
僕の中ではそことすぐに結びついて、最初から気に入りました。
実際にイントロのエレピがストーンズ風でもあり、もしかすると
ストーンズのその曲が頭にあったのかな。
その曲はIT'S ONLY ROCK AND ROLLに収録されており、
それは、ロッドの親友ロン・ウッドが、正式加入はまだだたたけど、
ストーンズの仲間に引き入れられたアルバムでもあるし。
あ、すっかりストーンズを語ってしまいましたが(笑)、ロッドも
同じ時代を生きてロックを盛り上げた同じ英国人だから、
このつながりは極めて自然なものとして僕には映りました。
僕は、文句なしに今作ではこれがいちばんのお気に入り。
Tr9:Picture In A Flame
そのトム・ウェイツの曲、これが素晴らしい。
前の曲が終わりエレピでつないでゆっくりと曲が起こるのがうまい。
ロッドも言葉を慈しみながらしっとりと歌う、感動的。
ロッドはトム・ウェイツの曲の歌い方をすっかり心得ているようで、
でも、それとて久しぶりのことだから、1980年代後半から見れば、
ロッドとトム・ウェイツの組み合わせは十分に懐かしいもの。
だって、Downtown Trainからでももう四半世紀ですからね。
有名な曲のカヴァーがないのは残念と書いたけれど、もちろん
こちらはこちらでとっても素晴らしくて気に入っていますよ。
作曲者が違うので当然だけど、他の曲にはない味わいがあります。
Tr10:Sexual Religion
ロッドがこの3文字を出すのは、アイム・・・以来かな。
素直といえば素直ですね、ちょっと恥ずかしくなるけれど(笑)。
この曲はユーロビート系のダンスミュージックともいえるアレンジで、
その3文字が表わす快楽主義的な部分に直接訴えるのは、
さすがは音楽が大好きでよく知っている人、と感心しました。
それまでにない艶っぽい女性コーラスともども。
僕はユーロビート系は好んでは聴かないけれど、ロック系の人が
アルバムの中でさらりとやるのは変化があって好きです。
Tr11:Make Love To Me Tonight
あらま、そんなこと臆面もなく言うのですか、しかも歌詞の中で
"Wear that sexy underwear"とか言っているし、ああもう・・・
これはサウンドに注目、トラッド路線の中になぜか微妙に
中国っぽい旋律が入るのは、まさにGasoline Alleyの路線。
さらに、またストーンズを引き合いに出しますが、ストーンズの
BEGGAR'S BANQUETに入っているFactory Girlも
同じような感じで、曲は似ていないけれど、1969年頃の
英国には、そんな雰囲気が漂っていたのかな。
歌詞はともかく(笑)、ソロ初期のロッドが好きな人には
涙が出るほどうれしい響きの曲ですね。
Tr12:Pure Love
アルバム本編の最後は、トム・ウェイツを意識したんだろうなあ
というオリジナルのしみじみと歌うバラード。
ピアノの演奏だけをバックにロッドは気持ちを込めて歌い、
後半には甘美なストリングスが盛り上げる、感動の1曲。
これはアメリカン・スタンダードを体験したことを強く感じさせ、
ロッドのこれまでの歌との関わりを表現し切っています。
実際に歌メロはいかにもアメリカン・スタンダードっぽいですし。
浅いようで深い、でも結局は深いアルバムですね。
ここからはボーナストラック。
僕が買ったのは輸入盤DELUXE EDITIONですが、
国内盤は3曲とも違う曲が入っています。
いずれは国内盤も買うつもりですが、今回は輸入盤で。
Tr13:Corrina Corrina
音楽の偶然はよくあることですが、今回は、3月に出て
とっても気に入ったボズ・スキャッグスの新譜で歌われている
この曲と早くもここで再会しました。
フォークのトラディショナルソングで、それってトラッドとは
どう違うんだという話はここでは敢えて無視させていただくとして、
軽やかに、少しだけ感傷的に、ロッドは歌っています。
ボブ・ディランが歌っていますが、ロッドはそこから来たのでしょう。
これはアルバムを制作するにあたってのウォーミングアップ
といった感じで、本編に入らなかったのはまあ当然かな。
Tr14:Legless
このタイトルでHot Legsに雰囲気が似ているのが微妙に笑える、
サザンロック風のこれはオリジナル。
ただ、歌詞の中に"Vietnam"と聞こえ、実際は深刻な話かもしれない。
また、歌詞に出てくる"Mr. Jones"といえば、ビートルズのYer Blues
に出てくる歌詞であり、さかのぼるとそれはディランの曲から来ている。
やはり1960年代後半のこと。
なんて、ロックバカは何でも結びつけたくなるのでした。
この曲はアルバムの雰囲気にそぐわなくて外されたのかな。
多分ですが、テーマが自分自身ではないのも関係がありそう。
Tr15:Love Has No Pride
最後はエリック・カズの曲、僕は聴いたことがない人だけど、
やはりというか、トム・ウェイツに通じるものがありますね。
これ自体はとってもいい曲、いい響き、いい出来だけど、
これをアルバムに入れると似たような傾向の曲が多すぎて、
アルバムの印象がもっと重たくなった、だから外れたのでしょう。
ただ、ワルツの曲はこれだけなんだよなあ、何かもったいない。
いずれにせよ、しみじみと歌うロッドは最強ですね。
ここ数年、古くからの超大物が新譜を出すと言えば、
カヴァー曲が中心で新曲は1、2曲という流れが
すっかり定着している感があります。
僕は、大好きなアーティストの新譜だからそれはそれで
いいと思いつつ、やはりカヴァーというのが少々不満でした。
20世紀最高の作曲家であるポール・マッカートニーまでが
そうでしたから。
それ、実は、誰あろうロッド・スチュワートがアメスタ路線を
成功させたことに端を発し、流れを作ったといって過言ではない。
責任の一端はロッドにある、ドンッ、と机を叩く音(笑)。
しかし、周りがみなそうなってしまったことで、
ロッドは逆にまた自作の曲に戻ったというのは、
ロッドにもまだまだロッカーらしい反骨精神があり、
人を食ったいたずら小僧的な面があるのは楽しいですね。
もっと落ち着けよと言われるかもしれない。
でも、まだまだ可能性があるのだから、そこに挑んでゆきたい。
早くも、ロッドは次のアルバムでいったい何をしてくれるのか
楽しみで仕方なくなってきました(笑)。
なんて、もちろん今はこの新譜を楽しみましょう。
繰り返し、浅いようで深い、だから、最初の数回で、
いい歌だけどそれ以上は・・・と思っても、
そこからさらに聴き続けていただきたい、そんなアルバムです。
05


TIME Rod Stewart
TIME:時の旅人 ロッド・スチュワート (2013)
ロッド・スチュワートの新作が出ました!
昨年クリスマスアルバムを出しているので、CDを出す間隔としては
1年も間を置いていない、もう出たかという感じですが、
考えてみればクリスマスアルバムはこれへの布石だったのか。
その前となると、2010年に、アメリカン・スタンダード路線の
最終章となる5枚目を出していて、3年振り。
しかし今回は、オリジナルの楽曲を中心としたアルバム。
となると2001年、Warner系から最後のアルバムHUMAN以来、
実に12年振り、干支が一回りしたわけです(笑)。
ロッドの長年のファンとしては、カヴァーアルバムもいいけれど、
オリジナル楽曲のアルバムを聴きたいと思い続けてきたので、
今回のアルバムはかなり楽しみに待っていました。
聴いた印象は、「浅いようで深いアルバム」。
ぱっと聴いてポップで分かりやすいけれど、それで終わりではなく、
聴いてゆくと味わいがどんどん増してゆく、というもの。
ロッド・スチュワートはさらりといい曲を書く人。
凝った曲は書かないしはっとする展開もない、
あくまでも歌にこだわったオーソドックスな曲。
だから、ビートルズにがちがちで特に後期が好きだった僕は、
二十歳頃までロッドの曲は、ああいいなあ、で終わっていました。
まあ、I Was Only Jokingやその後で出たRhythm Of My Heart
のように人生訓的な意味をもつオリジナル曲もあるのですが。
まあそれでも、Tonight's The Nightという年間No.1になる曲も
生み出したくらいだから、作曲家としても成功した人ではあるでしょう。
でも、ロッドはあくまでも歌手が第一であり、
ソングライターにはこだわってこなかった。
今作は作曲にこだわった、とのこと。
積年の思いを自分の歌に込めて表現したかったのでしょう。
別の感想として、僕はこんなことも思いました。
凄い人というよりは、身近な人なんだなあ。
歌が分かりやすいことから来るのですが、生きる上で感じることを
あまりにも素直に歌にしているだけで、作為的なものがない。
同年輩の周りのミュージシャンい、お前この年でこれをやるのか、
と言われそうなくらい、今回のアルバムの曲は、駆け出しの
シンガーソングライターといった趣き、むしろ若々しい。
だから、生けるレジェンドともいえる超大物の作品として捉えると、
物足りなさを感じる人がいるのではないかな。
実際、Amazonのレヴューでもそんな声を幾つか読みましたが、
でも、「ロッドはもう終わった」というのは、少なくともロッドのことが
好きではなく、あくまでも商品としてのCDの感想なのでしょう。
終わったのではなく、今回のロッドは、それまで様々な
経験をした上で、原点の気持ちに戻ったのです。
そう考えると、駆け出しのシンガーソングライター風の
一見すると軽い曲も、よく分かります。
しかし、聴き込んでゆくと、還暦を迎えたロッドの人生の重みが
歌詞や旋律の間から滲み出してくるのを感じます。
あくまでもポップな中にそれだけのものを織り込んでいる。
そこが、浅いようで深い、という感想になるわけです。
ただ、個人的に残念なのは、今回は有名な曲のカヴァーがないこと。
カヴァー曲はトム・ウェイツの1曲がありますが、それは有名な曲
というわけではありません(少なくとも僕は知らない曲でした)。
オリジナルにこだわること自体はとっても評価する部分ですが、
やっぱり、ロッドは、普通のアルバムに入っている有名な曲の
カヴァーが素晴らしいので、その伝統は受け継いでほしかった。
CDを買う前は「ベストヒットUSA」で1曲目を聴いただけで、他の
情報がなかったので、ここまでカヴァーが少ないのは予想外でした。
しかし冷静に考えると、自作の曲ばかりの中に有名な曲が入ると
浮いてしまうことは自分でも分かっているのでしょう、そうに違いない。
それつまり、自分が書く曲の持ち味を知っている、ということで、
そう考えると、今作の楽曲にはそうとうの自信があるのでしょう。
自作とはいえ、まったくひとりで作った曲はなく、
周りのミュージシャンに助けられながら書き上げたもの。
ジム・クリーガンやケヴィン・セイヴィガーなど
古くからのロッドの仲間の名前があるのがうれしい。
音楽面でひとつ。
やはりロッドはトラッドが好きで影響が濃いことが分かりました。
大なり小なりそのことはずっと感じていましたが、でも、
80年代以降はそれが薄まった作品が多かったので、
音の感触としては、ソロになりたてのMercury時代、
GASOLINE ALLEY辺りを彷彿とさせるのがうれしいし、
ロッドにはそれが合っている、極めて自然に聴こえてきます。
ブルーズ+トラッドは英国ロックの基本のひとつだと思いますが、
そういう意味でロッドにはやはり英国人としての誇りがあるのかな。
アルバムには、ロッドの歴史を振り返る仕掛けが凝らされていて、
それを探して昔を思いながら聴くのも楽しみのひとつです。
ここまでさんざん回りくどいことを言ったきた上でなんですが、
ひとことで言えば、人間臭さを今までのどれよりも感じます。
これだけのキャリアになると鎧が重そうなものだけど、
なにもつけていない無防備な素軽さがある。
しかし臆面もなくできてしまうのがロッド・スチュワートという人。
良くも悪くも節操がない人であり、だから半世紀近くも
ほとんど不調なしに第一線にいられた。
良い面に出た場合は今作のように、ロッド・スチュワートという
人となりに直に触れられる、だから身近なアルバムなのです。
"TIME"というタイトルも、シンプルいちばん、
自らの人生を回想するアルバムを作るのであれば、
もっと凝ったタイトルをつけそうなものですが、
そこがまたロッドらしいところでもありますね。
02

Tr1:She Makes Me Happy
シングル化され、「ベストヒットUSA」でビデオクリップを見ました。
明るい海辺の休日といった趣きの映像であり、
内容をイメージで表している、ロッドらしいビデオクリップでした。
いきなり強烈なアコースティックギターで始まる軽快なポップロック。
途中でマンドリンが入るのもやはりMercury時代を彷彿とさせる。
また、"Everyday's like Christmas"というくだりは、
When A Man's In Loveにそのまま出てくるもので、思わずにやり。
とにかく、うれしくなることが列挙され、聴いていても楽しくなる。
彼女が僕を楽しくさせてくれて、僕は歌うことができる、というのは
ロッドがなぜ歌いたいか、ずっと歌ってきたかを表明するもので
なんとも微笑ましいですね、なんせ、
"She makes me happy, wanna sing sing sing!"ですからね。
アルバム1曲目だけあってつかみ優先、でもなかなかの佳曲。
何より、オリジナルの新しい歌が聴けるのはうれしいじゃないですか。
Tr2:Can't Stop Me Now
前半がNo Holding Backをちょっと早くしたような感じだけど、
ロッドの場合、今に始まった話ではなく昔から、自分の曲に
似ている部分があって、それはむしろ愛らしいことだと思う。
これは歌手としてやってゆけるまでの若い頃を回想したようで、
彼らはもはや僕を止められない、世界が待っている、というのは、
ロッドの自信のほどを感じさせるところ。
しかし最後のほうで、今に至るまでには自分ひとりの力ではなく
周りに感謝しながらここまでこられたことを、ひとつひとつ
名前を挙げ、しみじみと気持ちを込めて歌い上げるのは感動的。
途中のキーボードもロッドらしい響きで、2曲目にして
気持ちはすっかりアルバムに入り込んでいることに気づきます。
Tr3:It's Over
しんみりとした、トラッドの香りが高いバラード。
ああ、こっちもNo Holding Backの後半に雰囲気が近いかも。
つまりそれがロッドの元々の路線ということなのでしょう。
後半ストリングスが盛り上げてから転調するこれ、映画に合いそう。
これは1曲めと逆で、後からじわじわと良くなってくる曲。
Tr4:Brighton Beach
おお、もう昨年のことになるけど、グレアム・グリーンの
『ブライトン・ロック』を読んだから(翻訳本)、なんだかうれしい。
続いてしんみりとした曲、泣きのヴァイオリンが入るトラッド。
ブライトンといえばクイーンもBrighton Rockを歌っていますが、
あの賑やかさとは正反対、避暑のシーズンが終わった寂寥感。
歌詞に"Janis and Jimmy"、ケネディやケルアックなどが出てくるのは、
やはり今回は回想することもひとつのテーマなのかな。
Tr5:Beautiful Morning
2曲ほどしんみりとさせてしまったことを反省したかのように、
高らかに朗らかにまるで鳥の囀りのように歌い始めるロッド。
アップテンポで肩の凝らない、ひたすら楽しい曲、サビも印象的。
こうした素直さが、今回は特に身近に感じられる部分ですね。
たたみかけるように歌い走るロッド、まだまだ若いですね。
Tr6:Live The Life
ごめんなさい、最初にこれを聴いて、にやっとしてしまった・・・
はっきり言ってMaggie Mayにサウンドプロダクションがそっくり。
というか、それに似ているYou Wear It Wellに似てるというか、
さらにいえばそれらに似ているキッスのHard Luck Womanに。
間違いなく意図したものだと思う。
それは、ネタが尽きたとか二番煎じ(三番だけど)ではなく、
昔からのファンを大切にしつつちょっとからかっている、
そんなロッドのいたずら小僧的な面を感じました。
いやあ、それにしても似ている、おかしいくらいに。
敢えて言う、ファンとして、だからこそ聴いてほしい。
歌詞に"Let the good times roll"と出てくるのも、やっぱりロッドは
古い曲への愛情が深いことを感じずにはいられない。
Tr7:Finest Woman
ロッドの今の奥さんはとってもきれいな人だそうで・・・
ということを直接的に思わせるいわば「おのろけ」ソング。
これまた明るいロックンロールにソウル風のブラスが入る。
ロッドの奥さんはロッドより背が高い人だそうですが、
そういえばこの曲は背が高く感じる響き、なぜだろう・・・(笑)・・・
03

Tr8:Time
アルバム表題曲が真ん中にどっしりと構える。
この曲だけは最初から、「浅い」とは一切思わず、深い、と。
"Time waits for no one"の歌い出し、ローリング・ストーンズの
まさにTime Waits For No Oneを彷彿とさせるものだけど、
そもそもストーンズのそれが隠れた名曲的に感動的だから、
僕の中ではそことすぐに結びついて、最初から気に入りました。
実際にイントロのエレピがストーンズ風でもあり、もしかすると
ストーンズのその曲が頭にあったのかな。
その曲はIT'S ONLY ROCK AND ROLLに収録されており、
それは、ロッドの親友ロン・ウッドが、正式加入はまだだたたけど、
ストーンズの仲間に引き入れられたアルバムでもあるし。
あ、すっかりストーンズを語ってしまいましたが(笑)、ロッドも
同じ時代を生きてロックを盛り上げた同じ英国人だから、
このつながりは極めて自然なものとして僕には映りました。
僕は、文句なしに今作ではこれがいちばんのお気に入り。
Tr9:Picture In A Flame
そのトム・ウェイツの曲、これが素晴らしい。
前の曲が終わりエレピでつないでゆっくりと曲が起こるのがうまい。
ロッドも言葉を慈しみながらしっとりと歌う、感動的。
ロッドはトム・ウェイツの曲の歌い方をすっかり心得ているようで、
でも、それとて久しぶりのことだから、1980年代後半から見れば、
ロッドとトム・ウェイツの組み合わせは十分に懐かしいもの。
だって、Downtown Trainからでももう四半世紀ですからね。
有名な曲のカヴァーがないのは残念と書いたけれど、もちろん
こちらはこちらでとっても素晴らしくて気に入っていますよ。
作曲者が違うので当然だけど、他の曲にはない味わいがあります。
Tr10:Sexual Religion
ロッドがこの3文字を出すのは、アイム・・・以来かな。
素直といえば素直ですね、ちょっと恥ずかしくなるけれど(笑)。
この曲はユーロビート系のダンスミュージックともいえるアレンジで、
その3文字が表わす快楽主義的な部分に直接訴えるのは、
さすがは音楽が大好きでよく知っている人、と感心しました。
それまでにない艶っぽい女性コーラスともども。
僕はユーロビート系は好んでは聴かないけれど、ロック系の人が
アルバムの中でさらりとやるのは変化があって好きです。
Tr11:Make Love To Me Tonight
あらま、そんなこと臆面もなく言うのですか、しかも歌詞の中で
"Wear that sexy underwear"とか言っているし、ああもう・・・
これはサウンドに注目、トラッド路線の中になぜか微妙に
中国っぽい旋律が入るのは、まさにGasoline Alleyの路線。
さらに、またストーンズを引き合いに出しますが、ストーンズの
BEGGAR'S BANQUETに入っているFactory Girlも
同じような感じで、曲は似ていないけれど、1969年頃の
英国には、そんな雰囲気が漂っていたのかな。
歌詞はともかく(笑)、ソロ初期のロッドが好きな人には
涙が出るほどうれしい響きの曲ですね。
Tr12:Pure Love
アルバム本編の最後は、トム・ウェイツを意識したんだろうなあ
というオリジナルのしみじみと歌うバラード。
ピアノの演奏だけをバックにロッドは気持ちを込めて歌い、
後半には甘美なストリングスが盛り上げる、感動の1曲。
これはアメリカン・スタンダードを体験したことを強く感じさせ、
ロッドのこれまでの歌との関わりを表現し切っています。
実際に歌メロはいかにもアメリカン・スタンダードっぽいですし。
浅いようで深い、でも結局は深いアルバムですね。
ここからはボーナストラック。
僕が買ったのは輸入盤DELUXE EDITIONですが、
国内盤は3曲とも違う曲が入っています。
いずれは国内盤も買うつもりですが、今回は輸入盤で。
Tr13:Corrina Corrina
音楽の偶然はよくあることですが、今回は、3月に出て
とっても気に入ったボズ・スキャッグスの新譜で歌われている
この曲と早くもここで再会しました。
フォークのトラディショナルソングで、それってトラッドとは
どう違うんだという話はここでは敢えて無視させていただくとして、
軽やかに、少しだけ感傷的に、ロッドは歌っています。
ボブ・ディランが歌っていますが、ロッドはそこから来たのでしょう。
これはアルバムを制作するにあたってのウォーミングアップ
といった感じで、本編に入らなかったのはまあ当然かな。
Tr14:Legless
このタイトルでHot Legsに雰囲気が似ているのが微妙に笑える、
サザンロック風のこれはオリジナル。
ただ、歌詞の中に"Vietnam"と聞こえ、実際は深刻な話かもしれない。
また、歌詞に出てくる"Mr. Jones"といえば、ビートルズのYer Blues
に出てくる歌詞であり、さかのぼるとそれはディランの曲から来ている。
やはり1960年代後半のこと。
なんて、ロックバカは何でも結びつけたくなるのでした。
この曲はアルバムの雰囲気にそぐわなくて外されたのかな。
多分ですが、テーマが自分自身ではないのも関係がありそう。
Tr15:Love Has No Pride
最後はエリック・カズの曲、僕は聴いたことがない人だけど、
やはりというか、トム・ウェイツに通じるものがありますね。
これ自体はとってもいい曲、いい響き、いい出来だけど、
これをアルバムに入れると似たような傾向の曲が多すぎて、
アルバムの印象がもっと重たくなった、だから外れたのでしょう。
ただ、ワルツの曲はこれだけなんだよなあ、何かもったいない。
いずれにせよ、しみじみと歌うロッドは最強ですね。
ここ数年、古くからの超大物が新譜を出すと言えば、
カヴァー曲が中心で新曲は1、2曲という流れが
すっかり定着している感があります。
僕は、大好きなアーティストの新譜だからそれはそれで
いいと思いつつ、やはりカヴァーというのが少々不満でした。
20世紀最高の作曲家であるポール・マッカートニーまでが
そうでしたから。
それ、実は、誰あろうロッド・スチュワートがアメスタ路線を
成功させたことに端を発し、流れを作ったといって過言ではない。
責任の一端はロッドにある、ドンッ、と机を叩く音(笑)。
しかし、周りがみなそうなってしまったことで、
ロッドは逆にまた自作の曲に戻ったというのは、
ロッドにもまだまだロッカーらしい反骨精神があり、
人を食ったいたずら小僧的な面があるのは楽しいですね。
もっと落ち着けよと言われるかもしれない。
でも、まだまだ可能性があるのだから、そこに挑んでゆきたい。
早くも、ロッドは次のアルバムでいったい何をしてくれるのか
楽しみで仕方なくなってきました(笑)。
なんて、もちろん今はこの新譜を楽しみましょう。
繰り返し、浅いようで深い、だから、最初の数回で、
いい歌だけどそれ以上は・・・と思っても、
そこからさらに聴き続けていただきたい、そんなアルバムです。
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Posted by guitarbird at 20:54
│ロックQ-Z