2013年03月24日
フィールドガイド日本のチョウ
01

今日は本の紹介です。
フィールドガイド日本のチョウ
日本チョウ類保全協会(編) 誠文堂新光社
蝶の図鑑、僕は、1981年に出て1993年に改編された
小学館「日本のチョウ 自然観察シリーズ12」を使っていました。
なお、この記事では以降こちらを、便宜上「旧版」とします。
厳密には違う本であるためこの表現はあたらないのですが、
あくまでも便宜上ということでご了承ください。
蝶に興味を持ったのは、僕の鳥の師匠が蝶も調べていたからで、
師匠にすすめられたのがその本でしたが、10年前に既に絶版、
古本で探して買い、大事に使っていたものです。
使いながら、新しいのも欲しくて書店で他にも探しましたが、
それより見やすくかつ詳しいものはありませんでした。
詳しいものはあるのですが、実用的ではなく、高価なもの。
しかし、今回漸く、新しく分かりやすくて詳しく、
かつ高価ではない本に出会えました。
昨年4月に出ていたもので、僕は気づいていなかったのですが、
Amazonのおすすめで出てきて存在を知り、即注文即入手。
すぐに第2版が刷られているので、やはり評判がよいのでしょう。
02

僕が愛用していた小学館の図鑑。
新しいものが欲しい、必要である最大の理由は
より新しい情報が欲しかったからです。
特に、生息分布と生息・保護保全状況の情報が。
まず分かりやすい新情報として、種数が増えています。
旧版では土着231+迷チョウ28の計259種が載っており、
一方この本では外来種も含め284種となっています。
増えた理由、ひとつは、主に台湾以南や大陸から渡ってくる
「迷チョウ」が増えたことで、これについては後に詳しく話します。
また「外来種」すなわち「人為的移入種」も紹介されています。
もうひとつは、DNAによる分類細分化で別の種とされたこと。
例えば、ヤマトスジグロシロチョウという種類は、
旧版にはありませんでした。
分布図を見ると、北海道南西部から九州北部まで広く分布し、
普通に見られる種類であって、新種として発見されたのではなく
同様に分布するスジグロシロチョウと同一とみなされていたものが、
研究により別の種類と認められたのだと考えられます。
種小名=学名の後ろの単語が違うので、亜種ではなく別種として。
この本は、従来のように標本やイラストではなく、
実際に撮影した写真で説明しているのが売りのひとつです。
レイアウトは、前書きの後に写真による類似種の検索表があり、
その後に種ごとの説明があり、分布、生息状況などが分かります。
雄、雌それぞれ翅の表と裏の写真に識別ポイントが記されています。
類似種は同じページで並べて紹介されていて分かりやすい。
ただ、残念な点が2つほど。
ひとつは、やはりすべての種について良好な写真を集めるのは
難しかったらしく、ピンボケやブレに起因すると思われる
不鮮明な写真が幾つかあったことです。
ただし色や形など必要な情報はその写真からも読み取れるので、
図鑑の機能としては致命的な問題というほどでもないのですが、
ただ、美的感覚からいうとちょっと気になりました。
もうひとつは、幼虫についてはほとんど触れていないこと。
旧版では、全てではないですが、幼虫の写真は図版があったのが、
この本ではアゲハの生活史で幼虫の写真が1枚あるだけで、
図鑑としては幼虫は一切扱っていません。
ただ、これはあくまでも成虫で調べる図鑑として割り切っていて、
より安く仕上げるためには仕方がない、これでいいと思います。
実際、僕はそれほど専門的に見ているわけではないので、
幼虫で調べることはあまりないですから。
というわけで、図鑑としては、本体1800円でこの充実度は
コストパフォーマンスは最高の部類の1冊といえます。
実際、20年前の旧版は1440円だから360円高いだけで、
写真が増えページが増えているのだから、申し分ないです。
さすが誠文堂新光社、PCで一発変換できる会社だけある(笑)。
03

コミスジ、A公園にて撮影。
今回、全種に目を通しての感想を書きます。
全種といっても、識別の違いを今実物や写真を見ないまま読んでも
覚えられるわけがないので、そこはほとんど飛ばしました。
僕が住んでいる北海道にいない種類はなおのこと。
ただ、生息環境、保全状況は全種について興味深く読みました。
特に興味深かったのは、沖縄と鹿児島の島々で起こっていること。
ある種については、南から渡って来たものが繁殖をし、
定着したかと思われたけれど後に姿が見えなくなったり、
またある種は一度消えてまた繁殖して、などといったことが、
沖縄と鹿児島の島々では割とよく起こっているのだそうです。
また、かつては南の島々にしかいなかったものが、九州に上陸し
定着するようになったという種類もありましたし、
ナガサキアゲハなどは首都圏にまで分布が北上=東進
している、といったことも分かりました。
全体的に分布域が北上している種が何種類かあるのは、
セミでもクマゼミがそうですが、蝶についても起こっていおり、これは
平均気温が上がっていることの傍証のひとつといえるでしょう。
分布域について考えるのが大好きな僕は、そこを読んで
想像するだけでも楽しかった。
04

ヒメウラナミジャノメ、同じく
生息状況については、都市開発、リゾート開発などで
生息域が狭まり個体数が減っている種類もありましたが、
特に減っていない、むしろ増えているという記述を見ると
なんだかほっとするものがありました。
ただ、これについてはおそらく、警鐘を鳴らす意を込めて
少し厳しく書いてあるのだと解釈しました。
蝶は、種によって食草食樹が違うため(虫につくものもある)、
適応力があって多くの植物を食べることができる種類もあれば、
1種類かせいぜい数種類の植物に依存しているものもあり、
それらはやはり数の減少が起こっていることも分かりました。
日本は公共事業が一時期よりは減ったというけれど、
まだまだ開発が進んでいることが感じ取れます。
里山荒廃もよく言われることですが、蝶でもそれにより数が
減少傾向にある種類が幾つもあるようです。
そして僕が注目したいのは、林業の衰退による森林荒廃の影響。
森林性の蝶にとっては、森林が発達するほうが有利に働くわけで、
その場合は林業的施業が行われないほうが有利になります。
一方で、林縁や森林に隣接した開けた場所に生息する蝶にとっては、
林業施業が行われることにより、木が伐採され明るい開地になることで
数が増えるチャンスが訪れるわけで、逆に施業が行われないことが、
森林が発達して不利に働くということになります。
また、日本は気候的にみれば、基本的には、草原を放置していると
森林に遷移してゆくのですが、草原性の蝶にとっては、施業放棄により
生息域の草原が狭められ、不利に働くということになります。
この場合、希少種を積極的に保護しようというのであれば、
森林性か草原性どちらかに合わせて森林に手を入れることは
考えられますが、そうではない場合は、どちらをとるというものでもなく、
人間の行い、ひいては思想に左右されることになります。
つまり、里山も然り、森林も然りで、手つかずの自然ではない限り、
蝶の生息状況はもはや人間の行いとは無関係ではないのです。
僕は林業関係の人に知り合いが多いのですが、里山の荒廃は
もはや一般常識と言えるまでに広く知られるところとなっていますが、
林業も、衰退することにより蝶のような生物にも影響が出る、
ということはぜひ頭に入れていただければ、と思っています。
05

クジャクチョウ、下川町にて撮影
あらためて、自然は静かなようで動いていることがよく分かり、
自然の営みに畏敬の念を覚えました。
また、蝶という生き物は目に留まりやすく、身の回りの自然を見る
指標として最適の生物であることも再認識しました。
僕自身、A公園の蝶の観察を続け、写真を撮り、データとして
蓄積してゆくことには意味があると分かりました。
などなど、図鑑以上にいろいろなことも考えさせられました。
縦長の版型は旧版と同じですが、野外で持ち歩く場合、
幅が狭いのは持ちやすくていいのです。
ただ、今はまだ家できれいに読んでいたい(笑)。
実際、札幌で蝶が出てくるのは、早くてあと半月後。
タテハチョウの幾つかはまだ雪が山の斜面に残っている頃に
出てきますが、今年はどうかな、雪が多いし。
雪が解けたら、外に持ち出して活用します。
特に、シジミチョウの仲間をもっとよく知りたいです。
そうなるともう1冊、買い足しかな(笑)。
もちろん、僕としてはその前に夏鳥がやって来て
鳥中心の生活になるわけですが、でも今年は春先から
蝶への比重が増えそうな予感。
と、このところ、雪が多いことに愚痴をこぼすように、
春を待ちわびる話題が続いてしまいました(笑)。
今日の最後はハウの写真。
うちの犬たちは、蝶のように耳は立たないのです・・・(笑)。
06


今日は本の紹介です。
フィールドガイド日本のチョウ
日本チョウ類保全協会(編) 誠文堂新光社
蝶の図鑑、僕は、1981年に出て1993年に改編された
小学館「日本のチョウ 自然観察シリーズ12」を使っていました。
なお、この記事では以降こちらを、便宜上「旧版」とします。
厳密には違う本であるためこの表現はあたらないのですが、
あくまでも便宜上ということでご了承ください。
蝶に興味を持ったのは、僕の鳥の師匠が蝶も調べていたからで、
師匠にすすめられたのがその本でしたが、10年前に既に絶版、
古本で探して買い、大事に使っていたものです。
使いながら、新しいのも欲しくて書店で他にも探しましたが、
それより見やすくかつ詳しいものはありませんでした。
詳しいものはあるのですが、実用的ではなく、高価なもの。
しかし、今回漸く、新しく分かりやすくて詳しく、
かつ高価ではない本に出会えました。
昨年4月に出ていたもので、僕は気づいていなかったのですが、
Amazonのおすすめで出てきて存在を知り、即注文即入手。
すぐに第2版が刷られているので、やはり評判がよいのでしょう。
02

僕が愛用していた小学館の図鑑。
新しいものが欲しい、必要である最大の理由は
より新しい情報が欲しかったからです。
特に、生息分布と生息・保護保全状況の情報が。
まず分かりやすい新情報として、種数が増えています。
旧版では土着231+迷チョウ28の計259種が載っており、
一方この本では外来種も含め284種となっています。
増えた理由、ひとつは、主に台湾以南や大陸から渡ってくる
「迷チョウ」が増えたことで、これについては後に詳しく話します。
また「外来種」すなわち「人為的移入種」も紹介されています。
もうひとつは、DNAによる分類細分化で別の種とされたこと。
例えば、ヤマトスジグロシロチョウという種類は、
旧版にはありませんでした。
分布図を見ると、北海道南西部から九州北部まで広く分布し、
普通に見られる種類であって、新種として発見されたのではなく
同様に分布するスジグロシロチョウと同一とみなされていたものが、
研究により別の種類と認められたのだと考えられます。
種小名=学名の後ろの単語が違うので、亜種ではなく別種として。
この本は、従来のように標本やイラストではなく、
実際に撮影した写真で説明しているのが売りのひとつです。
レイアウトは、前書きの後に写真による類似種の検索表があり、
その後に種ごとの説明があり、分布、生息状況などが分かります。
雄、雌それぞれ翅の表と裏の写真に識別ポイントが記されています。
類似種は同じページで並べて紹介されていて分かりやすい。
ただ、残念な点が2つほど。
ひとつは、やはりすべての種について良好な写真を集めるのは
難しかったらしく、ピンボケやブレに起因すると思われる
不鮮明な写真が幾つかあったことです。
ただし色や形など必要な情報はその写真からも読み取れるので、
図鑑の機能としては致命的な問題というほどでもないのですが、
ただ、美的感覚からいうとちょっと気になりました。
もうひとつは、幼虫についてはほとんど触れていないこと。
旧版では、全てではないですが、幼虫の写真は図版があったのが、
この本ではアゲハの生活史で幼虫の写真が1枚あるだけで、
図鑑としては幼虫は一切扱っていません。
ただ、これはあくまでも成虫で調べる図鑑として割り切っていて、
より安く仕上げるためには仕方がない、これでいいと思います。
実際、僕はそれほど専門的に見ているわけではないので、
幼虫で調べることはあまりないですから。
というわけで、図鑑としては、本体1800円でこの充実度は
コストパフォーマンスは最高の部類の1冊といえます。
実際、20年前の旧版は1440円だから360円高いだけで、
写真が増えページが増えているのだから、申し分ないです。
さすが誠文堂新光社、PCで一発変換できる会社だけある(笑)。
03

コミスジ、A公園にて撮影。
今回、全種に目を通しての感想を書きます。
全種といっても、識別の違いを今実物や写真を見ないまま読んでも
覚えられるわけがないので、そこはほとんど飛ばしました。
僕が住んでいる北海道にいない種類はなおのこと。
ただ、生息環境、保全状況は全種について興味深く読みました。
特に興味深かったのは、沖縄と鹿児島の島々で起こっていること。
ある種については、南から渡って来たものが繁殖をし、
定着したかと思われたけれど後に姿が見えなくなったり、
またある種は一度消えてまた繁殖して、などといったことが、
沖縄と鹿児島の島々では割とよく起こっているのだそうです。
また、かつては南の島々にしかいなかったものが、九州に上陸し
定着するようになったという種類もありましたし、
ナガサキアゲハなどは首都圏にまで分布が北上=東進
している、といったことも分かりました。
全体的に分布域が北上している種が何種類かあるのは、
セミでもクマゼミがそうですが、蝶についても起こっていおり、これは
平均気温が上がっていることの傍証のひとつといえるでしょう。
分布域について考えるのが大好きな僕は、そこを読んで
想像するだけでも楽しかった。
04

ヒメウラナミジャノメ、同じく
生息状況については、都市開発、リゾート開発などで
生息域が狭まり個体数が減っている種類もありましたが、
特に減っていない、むしろ増えているという記述を見ると
なんだかほっとするものがありました。
ただ、これについてはおそらく、警鐘を鳴らす意を込めて
少し厳しく書いてあるのだと解釈しました。
蝶は、種によって食草食樹が違うため(虫につくものもある)、
適応力があって多くの植物を食べることができる種類もあれば、
1種類かせいぜい数種類の植物に依存しているものもあり、
それらはやはり数の減少が起こっていることも分かりました。
日本は公共事業が一時期よりは減ったというけれど、
まだまだ開発が進んでいることが感じ取れます。
里山荒廃もよく言われることですが、蝶でもそれにより数が
減少傾向にある種類が幾つもあるようです。
そして僕が注目したいのは、林業の衰退による森林荒廃の影響。
森林性の蝶にとっては、森林が発達するほうが有利に働くわけで、
その場合は林業的施業が行われないほうが有利になります。
一方で、林縁や森林に隣接した開けた場所に生息する蝶にとっては、
林業施業が行われることにより、木が伐採され明るい開地になることで
数が増えるチャンスが訪れるわけで、逆に施業が行われないことが、
森林が発達して不利に働くということになります。
また、日本は気候的にみれば、基本的には、草原を放置していると
森林に遷移してゆくのですが、草原性の蝶にとっては、施業放棄により
生息域の草原が狭められ、不利に働くということになります。
この場合、希少種を積極的に保護しようというのであれば、
森林性か草原性どちらかに合わせて森林に手を入れることは
考えられますが、そうではない場合は、どちらをとるというものでもなく、
人間の行い、ひいては思想に左右されることになります。
つまり、里山も然り、森林も然りで、手つかずの自然ではない限り、
蝶の生息状況はもはや人間の行いとは無関係ではないのです。
僕は林業関係の人に知り合いが多いのですが、里山の荒廃は
もはや一般常識と言えるまでに広く知られるところとなっていますが、
林業も、衰退することにより蝶のような生物にも影響が出る、
ということはぜひ頭に入れていただければ、と思っています。
05

クジャクチョウ、下川町にて撮影
あらためて、自然は静かなようで動いていることがよく分かり、
自然の営みに畏敬の念を覚えました。
また、蝶という生き物は目に留まりやすく、身の回りの自然を見る
指標として最適の生物であることも再認識しました。
僕自身、A公園の蝶の観察を続け、写真を撮り、データとして
蓄積してゆくことには意味があると分かりました。
などなど、図鑑以上にいろいろなことも考えさせられました。
縦長の版型は旧版と同じですが、野外で持ち歩く場合、
幅が狭いのは持ちやすくていいのです。
ただ、今はまだ家できれいに読んでいたい(笑)。
実際、札幌で蝶が出てくるのは、早くてあと半月後。
タテハチョウの幾つかはまだ雪が山の斜面に残っている頃に
出てきますが、今年はどうかな、雪が多いし。
雪が解けたら、外に持ち出して活用します。
特に、シジミチョウの仲間をもっとよく知りたいです。
そうなるともう1冊、買い足しかな(笑)。
もちろん、僕としてはその前に夏鳥がやって来て
鳥中心の生活になるわけですが、でも今年は春先から
蝶への比重が増えそうな予感。
と、このところ、雪が多いことに愚痴をこぼすように、
春を待ちわびる話題が続いてしまいました(笑)。
今日の最後はハウの写真。
うちの犬たちは、蝶のように耳は立たないのです・・・(笑)。
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