01
Run For Your Life
The Beatles
(1965)
The Beatles 48/213
本日は「レノン忌」
ジョン・レノンの日です。
そこで今年もビートルズの213曲の記事、
もちろんジョンが作曲し歌っている歌から。
前回の続き、RUBBER SOULの最後の曲。
Waitを記事にするのに主に車の中で繰り返し聴き、
時々残り2曲も続けて聴いていた、それがジョン・レノンの曲で、
この日に上げるのにふさわしいと。
えっ、では飛ばされたジョージ・ハリスン作曲の
If I Needed Someoneはどうなるのって?
ジョージ・ハリスンの曲は少ないので取っておきたいのです(笑)。
Run For Your Life「浮気娘」はビートルズ6枚目のアルバム
RUBBER SOULのB面7(=CD14)曲目として
1965年12月3日に世に出ました。
作曲者名はレノン・マッカートニー。
でも実際はジョンひとりと思われます。
リードヴォーカルもジョン。
曲です。
☆
Run For Your Life
The Beatles
(1965)
今回はまず『ジョン・レノン・プレイボーイ・インタビュー』から
この曲の話、これが面白いのです。
なお、引用者は適宜表記変更や改行を施しています。
***
ぼくの曲のひとつで、いわゆる書きなぐりってやつ。
この曲を好きになったことなんて一度もない。
ジョージのための曲さ。
「他の男といっしょにいる君を見るくらいなら、
君の死んだ姿を見たほうがいいよ、
ぼくのかわい娘ちゃん」というラインは、
プレスリーのオールドブルーズからとった。
***
まあ、あられもない(笑)。
歌い出しのくだりがそれですね。
"Well, I'd rather see you dead little girl
than to be with another man"
ジョンは嫌いと言っています。
それをこの日に記事にするのはどうかと思わ・・・
なかったですね、僕は(笑)。
こういう部分がむしろジョン・レノンの人間臭さであって
面白いところでもありますからね。
ジョン・レノンは別に神ではないから。
エルヴィス・プレスリーの曲からそっくりいただいていることを
自ら認めているのはある意味潔い。
ただ、歌詞だけだったら問題でもないのではないかと思いつつ、
しかし今ならこんなこと言うと結構問題になるかもですね。
ジョージのための曲というのは、当初はアルバム用の曲が
足りなくなりそうで、ジョージが歌う曲も入れなければならない
という制約があって渋々書いた、といったところかな。
1stのDo You Want To Know A Secret、
3rdのI'm Happy Just To Dance With Youがそれでしたから。
でもまあ、ジョンの負け惜しみというか捨て台詞でもありますね。
ただ、ジョージが想定外にいい曲を2曲も持ってきたので、
結局はジョンが歌いました。
いや、ジョージのためというのはジョンの記憶違いかもしれないし、
そう思わないとやっていられなかったのかも(笑)。
でも、いい歌ですよねぇ、とつくづく。
僕は中2の12月にLPで最初に聴いた時から気に入りました。
その辺のことはまた後で。
まだ記事にしていない前作HELP!のIt's Only Loveも
ジョン自身が嫌いとこのインタビューで言っていましたが、
でも聴き手(僕)は大好き、そういう曲は結構多い。
ジョンは一般の聴き手のはるか高みにいたのでしょう。
この曲はRUBBER SOULの最後に入っていますが、
最初に録音された曲でした。
今回は『ビートルズ・レコーディング・セッションズ』より、
前振りの部分から引用します。
***
1965年10月12日 (火)
1963年、1964年と新作アルバムを2枚ずつ発表したビートルズは、
1965年も同じことをしなければならなかった。
問題は、録音用の新曲がほとんどできていない上に、
期限が迫っていることだった。
ジョンとポールは生まれて初めて、
自分に鞭打って1ダース以上の新曲を書くはめになった。
後に彼らはこれを、「とても考えられないことだった」と認めている。
曲ができあがると、ジョージとリンゴを加えた4人は、
12月初旬にLPを発売できるよう、総力を上げて
一連のレコーディングセッションに取り組まねばならなかった。
それも、1回目のセッションが行われたときは、
もう10月12日になっていた。
なんとも皮肉なことに、こうしえ完成されたLP
RUBBER SOULは、当時も今も激賞されている。
それも当然のことで、
これは非常によくできたアルバムであるばかりか、
音楽性とレコーディングテクニックの両面で、
彼らのキャリアにおける大きな転機となった。
(中略)
後年ジョン・レノンはこのように短期間で曲を書き、
レコーディングしなくてはならなかったため、
人のレコードから着想を得ようとしたこともあったと語っている。
今回のセッションで最初に録音された
Run For Your Lifeはそうした今日のひとつで、彼は
エルヴィス・プレスリーのBaby Let's Play Houseの歌詞を
2行も引用した。
そのせいもあって、Run For Your Lifeは
「大嫌いっだった」と、ジョンは後に発言したが、
それはソングライターの立場としての意見であり、
ほかの大多数の人は、これをとてもいい曲と受け止めている。
録音は5テイク行われ、第5テイクのみが完全ヴァージョンで、
アコースティックギター、バックヴォーカル、
タンバリンをオーバーダブ。
***
このような経緯があって「嫌い」なのでしょう。
精神的に追い詰められていた当時を回想して
嫌なことを思い出したのかもしれないし。
でも僕は大好き。
流れるような歌メロが素晴らしすぎる。
アップテンポでこれだけきれいに歌メロが流れるものなのかと、
洋楽をまったく知らなかった僕は驚きました。
あ、この台詞は今まで何十回も使っているか(笑)。
シングルヒット曲でもないアルバムの中の1曲に
これだけ素晴らしい曲があることを知ったのはWait同様。
ほんとうにRUBBER...は僕が「アルバム至上主義者」になる
大きな礎を築いてくれたんだなあとあらためて思います。
アコースティックギターの軽快かつ力強いカッティングで始まり、
カントリーブルーズ調のギターリフに引っ張られて歌が始まる。
この曲は日本でいうところの「アメリカンロック」または
「カントリーロック」のお手本のような曲ですよね。
以前、「アメリカンロックの基礎を築いたのはビートルズだ」
という趣旨の本を書店で見つけて立ち読みしたことがありますが、
これなんかまさにそう。
音楽的に興味深い音がひとつあります。
イントロの0'05"から入るスライドギター風のギターの音。
この曲はビートルズにおけるスライドギターの走りと言えるでしょう。
ビートルズは本格的なスライド奏法=ボトルネック奏法は
取り入れていない。
ジョージ・ハリスンが解散後に芸を磨きましたが、
ビートルズとジョージのソロの最大の違いはそれでしょう。
唯一本格的なスライド奏法が聴けるのはFor You Blue。
ただしこれはジョンがラップスティールギターを使ったもので、
普通のギターによるボトルネック奏法とは違います。
そのFor You Blueがジョージの曲というのは興味深いですが。
それ以外ではHelter-Skelterでそれっぽい音が入っている。
Revolution 1イントロのエレクトリックギターの入り方がそれっぽい。
どちらも「ホワイトアルバム」からの曲ですが、For You Blueを
除けば、ビートルズのスライド奏法はそれくらいのものです。
あ、そうそう、この曲より前にひとつだけ思いついたけれど、
3rdのI'll Cry Insteadのイントロのはじまりのフレーズ、
「もわっ」と音が起るギターもスライドといえばスライドっぽいかも。
ビートルズがスライド奏法に走らなかったのは、
そこまでいくとやり過ぎ、深くブルーズに入り過ぎ、という意識が
主にジョージ・マーティンにあったのかもしれない。
歌。
それにしてもこの曲のジョンは上手く歌っている。
でも凄みがあるというのではない、エモーショナルの方が近いか。
曲が気に入らないマイナスのエネルギーを歌うことで発散している
といった感じがしますね。
歌詞の内容はちょっとばかり情けないものなのですが、
強がりを言わせたらやっぱりジョンは天下一品。
特に3番目のヴァースは他とは違って弱弱しく聴こえるのが、
技術的にも上手いと思います。
まあ、歌わない僕が技術を言うのもどうかと思いますが(笑)。
この曲にはこんなくだりもあります。
"I was born with a jealous mind"
ジョンは後にJealous Guyという名曲を書きましたが、
"jealous"はジョンのキィワードでもあるのだなぁと。
ジョンはリアルにそういう人だったことが容易に想像できますね。
ギターですが、リードギターはジョージ・ハリスンであり、
イントロと間奏のギターはジョージであるとすれば、役割分担的には
例の「スライドギター」はジョンということになるのかな、なるはず。
アコースティックギターをオーバーダブしたということだし。
ジョンはしかしここから自分ではスライドに進まなかったんだな。
まあ、「子分」のジョージがやってくれたことだし。
アコースティックギターはイントロで印象的ですよね。
実は曲が始まるとそこまで目立たなくなるのですが、
これはオーバーダブの効果ということでしょう。
ポール・マッカートニーのベースは音がオン気味で楽し気。
Help! と同じ感じのベースの動きで曲を盛り上げます。
リンゴ・スターのドラムスはここでは土台に徹している。
でも「ツツパーンツツパーン」と勢いがいいビートが心地よい。
まるで「浮気娘」を突き放すような音。
そしてこれもタンバリンがよく聴こえますね。
これぞ「アメリカンロック」、と言ってしまっていいのだろうか・・・(笑)。
02
後半は英語に関する個人的な思い出をふたつ。
ひとつ。
ジョンが弱弱しく歌う3番のヴァースにはこんなくだりが。
"Baby, I'm determined and I'd rather see you dead"
この中の"determine"という単語、高校時代に試験に出ましたが、
でも僕が覚えている限りこの単語が使われている歌は
ビートルズでもそれ以外でもこれしか思い浮かばない。
学生時代に読んだ英語の文章でも多く出てきたわけでもない。
そんなに使われる頻度が低い単語を学校で習うのかと
僕は当時からずっと思っています。
しかし一方この歌の割と印象的な部分で"determine"と
歌われているので、僕は試験で難なく答えられました(笑)。
洋楽を聴いていた中高生は、よく知っている単語が出ると
得意気になったものじゃないですか(笑)。
もうひとつ。
サビの"hide your head in the sand little girl"というくだり、
この中の"hide one's head in the sand"というのは
Getting Betterの歌詞にも出てきますが、
これはきっと英国の慣用句なのだろうと僕は思いました。
僕は大学でスコットランド人の先生に英語の授業を受けましたが、
授業が終わると先生にいつも個人的な質問をしていました。
その中でこの"hide one's head in the sand"というのは
慣用句なのですかと聞いたところ、(意外にも)"No"と。
続けて先生は"That's personal"、つまり「個人」の表現だと。
あれ、でもRun For Your Lifeはジョン、Getting Betterはポール、
と書いた人が違うんだけど・・・
ただしGetting Betterはジョンも歌詞を手伝っているはずだから、
そのくだりはジョンが書いた可能性もありそうです。
最後にタイトルについて。
Run For Your Lifeがなぜ「浮気娘」なのか?
実は僕はずっと分からなかった、今も分からない。
僕の辞書「リーダーズ英和辞典」初版第1冊(1990年)を見ると
1892ページにありました。
※run for one's life 命からがら逃げる
邦題のことはひとまず置いておいて、この曲の意味は、
「死んでいる姿を見られる前に逃げ出してしまえ」
とジョンは女性に向かって呼びかけているのでしょう。
かなり大仰な表現ですね。
そこで邦題の「浮気娘」との係わりを考える。
歌詞には確かにその女性がほかの男といる=「浮気」している
ことが書かれているわけですが、でもタイトルの言葉には
「浮気」を直接的に意味するものは含まれていません。
つまり、邦題はタイトルとは他の部分から取られている。
そうだろうなとは思っていましたが、でもやっぱり
「浮気娘」というのは微妙に違うような気がします。
そして余談、このアルバムにはジョージの「嘘つき女」もあって、
当時の彼らは女性にひどい目に遭っていたのかなって(笑)。
「レノン忌」
でも、今回はそんな感じがしないですよね、しないでしょ?
世の中で僕くらい、そんなしんみりとしなくてもいいでしょう。
いつだってジョンのことを思っているのだから。
それにしてもこの曲は歌うと気持ちがいいんですよ!
そういう歌を作ってくれたジョンに感謝ですね。
03