It Won't Be Long ザ・ビートルズ

guitarbird

2016年09月05日 19:29

01


It Won't Be Long
The Beatles
(1963)
The Beatles 42/213 

今日はビートルズの213曲の記事。

気がつくと8月にはこのシリーズを上げていなくて、
左外の最近の記事の欄からこのシリーズが消えていますね。
ううん、213曲コンプリートはいつのことになるのやら・・・

今回これを選んだ理由はふたつ。
ひとつは、この曲が入ったWITH THE BEATLESのみ、
まだアルバムから1曲も記事を上げていないのに気づいたこと。
これはいかん、ということで。

もうひとつはたまたまですが、後で話します。


It Won't Be Longはビートルズ2枚目のアルバム
WITH THE BEATLESのA面1(=CD1)曲目として
1963年11月22日に世に出ました。
作曲者はレノン・マッカートニー、実質ほぼジョン・レノン。
リードヴォーカルもジョン・レノンです。

ではまず曲から。




 It Won't Be Long
 The Beatles
 (1963)


いつもの『ビートルズ・レコーディング・セッションズ』ですが、
この曲についてはなぜかあまり詳しく書かれていません。
1963年7月30日(火)に録音されていますが、4人による
通常通りのレコーディング作業でありそれ以上ではない、
ということかもしれない。
ただしひとつだけ、その日の朝に録音を開始したものの
BBCに出演するために一度スタジオを離れ、夜にもう一度
録音し完成させたという逸話が紹介されています。
英国でのビートルズの人気が沸騰しスケジュールに
追われていたことがよく分かる逸話ではあります。
完成したのはもう7月31日になっていたかもしれない。

この曲についてはしかし、もう一方の
『ジョン・レノン・プレイボーイ・インタビュー』に
興味深いジョンの言葉があるので引用します。
なお、引用者は適宜改行や表記変更等を施しています。


***

(インタビュアー):ビートルズの音楽には、
少なくとも、知的なものが多かったんじゃないですか?

ジョン・レノン:ビートルズは他のグループよりインテリだったから、
そのレベルでもアピールしたんだ。
でも、ビートルズの基本的な魅力は知性じゃなかった。
ミュージックだったんだ。
ミドルクラスがビートルズを聴きだしたのは、
『ロンドン・タイムス』に誰かが
「It Won't Be Longには
アイオリス(古代ギリシア民族のひとつ)風のリズムがある」
て書いた以降のことにすぎないんだよ。
誰かがレッテルを貼ったからなんだよ。

(I):その曲にアイオリス風のリズムをとり入れたんですか?

JL:今でも、そいつが何なのか、全然見当がつかないんだ。
珍しい鳥の名前みたいに聞こえるね。


***

ジョンが「珍しい鳥」と言っているのはバーダーとして嬉しい(笑)。
もしかしてジョンは、トキ(の仲間)が頭にあったのかな。
トキは"ibis"=「アイビス」ですからね。

それはともかく、この話は非常に興味深いですね。
「誰かがレッテルを貼った」というのはマスコミがよくやることであり、
ネット社会の今はそのことが以前より多く話題になっていて、
今のこの時期は特にタイムリーだなと。

ただ、新聞でそのように書かれただけでミドルクラスの人が
聴くようになったのか、どうなのだろう、と僕は昔から思っています。
それもきっかけのひとつだったけれど、複合要因があるのではと。
もちろん、僕が当時の英国におけるその新聞の影響力を
まったく分からないで言っている可能性はありますが。
しかし一方でジョンはここで自ら「ビートルズはインテリだった」と
述べているので、そうなったのはまんざらでもなかったのかも。
インテリ、そうですね、「他」のバンドについては触れないですが、
ビートルズは確かに「知性に働きかける」部分は大きいと思います。
「知性」と「良心」、これがビートルズの魅力であると。

ただし、です。
僕は大学の1年と3年の時にスコットランド人の先生の
英語の授業をとっていました。
その先生とは授業の後や時折合間によく雑談をしたのですが、
1年の或る日、ビートルズの話になり、他の学生そっちのけで(笑)、
3分くらい2人で話し込んだことがありました。
ジョンは他の3人より「半階級」上だと言っていたのを読んだと話すと、
先生は「いや、奴も同じ労働者階級だ」ときっぱりと言いました。
僕はさらに、ジョンは他の3人よりいい地区の家に住んでいたとか、
チャーチルの本を読んだことがあるのはジョンだけだったなど、
知っていることを挙げて反論しましたが、先生は"No"ばかり。
授業中だったので話は"By the way"で強制終了となりました。
僕も英国は階級社会であると知識としては知っていましたが、
実際がどんなものか分からない、今思うとよくそんなで先生に
食ってかかったなとある意味感心しますね、若かったんだと(笑)。
でも、その時の話を後で振り返ってみて、
「上から見れば下はみんな一緒」
という感覚なのだと自分なりに納得しました。
A1からC9まで9段階で分かれているとして、Aから見れば、
C8もC7も同じ"C"には違いない、と。

その時もジョンのこの発言も頭にありました。
「インテリ」「インテリジェンス」というのはひとまず階級とは
関係ない、その人によるものでしょうけど、でもジョンのこの
「インテリ」発言を受け入れられなかった英国人は、
結構多い(多かった)のではないかと想像します。
まあしかし社会の方が変わってきて、今では
「インテリ」の人もロックを聴くようになってはいますが。

ちなみにその先生はロックをさげすんではいませんでした。
ピンク・フロイドの大ファンを授業中にも公言していましたからね。
ビートルズはそれに比べると刺激や想像性が足りない、
という感じだったと思います。

ジョンのこの話でもうひとつ興味深いのは
「ギリシアのアイオリス風のリズム」ですよね。

「アイオリス人」をウィキペディアから引用します。

***

アイオリス人(アイオリスじん、Aioleis, ギリシア語: Αἰολεῖς))は、
イオニア人、ドーリア人と並ぶ
古代ギリシャを構成した集団のひとつ 。
ギリシャ神話によると、彼らの祖が
アイオロスであると考えられていたことに由来する。

紀元前3000年頃にドナウ川流域から移住してきたと
考えられている。

紀元前2000年頃に、ギリシャ本土中部テッサリアと
ボイオティア地方からレスボス島に移住し、さ
らにアナトリア半島西部に植民し、12のポリスを建設した。

紀元前6世紀末頃からはペルシア帝国に支配され、さらに
セレウコス朝シリア王国やアッタロス朝ペルガモン王国の
支配を受け、ローマ時代以降には衰退していった。


***

しかし、この文章や「アイオリス」のページを読んでも、
アイオリス人が音楽で何か功績を残したようなことは
まったく書かれていませんでした。
だからその「リズム」が何だかまったく分からない。
You-Tubeで検索しても、それらしいものには当たらなかった。

どんな「リズム」なのだろう。

そこで今度は「リズム」をウィキで見てみました。

***

リズム(rhythm)は古代ギリシャに生まれた概念で、
ῥυθμός - rhythmos(リュトモス)を語源とする。
リュトモスは古代ギリシャ語では物の姿、形を示すのに
一般的に用いられた語で、たとえば
「αという文字とβという文字ではリュトモス(形)が違う」
というように用いられた。
やがて、音楽におけるひとつのまとまりの形を
リュトモスと言うようになった。

時間軸の中に人間に知覚されるような2つの点を近接して置くと、
2点間の時間に長さを感じるようになるが、
その「長さ」をいくつか順次並べたものをリズムという。
律動(りつどう)と訳される。

***

なんと、「リズム」という概念そのものがギリシア起源なんですね。
「やがて、音楽における・・・」とありますが、そのやがてが
いつの時代から見たいつまでの頃のことなのかが分からないですが、
アイオリスの時代にはもうそうなっていたと考えることはできそうです。

それにしても「リズム感がいい」「リズムセクション」「リズムねた」など、
「リズム」という言葉は日常に溢れている外来語で、日本でも
ほぼすべての人が理解しているはずの言葉なのに、
この文章を読むと、実は結構難しい概念なのですね。
そう言われてみれば英語のスペルもちょっと複雑ですよね。

しかし、それが分かったところでやっぱり
「アイオリス風のリズム」がどういうものか分からない。
It Won't Be Longが他と特に変わったところがあるかといえば、
そういうわけでもないし(細かな表現手法は別として)。
リズムという点だけでみるならむしろこの3曲後に出てくる
ジョージ・ハリスン作曲Don't Bother Meの方が変わっているし。

自分なりに思うのは、リズムとはいってもレゲェとかタンゴといった
音楽のリズムではなく、歌い方であったり、詩を音に乗せる時の
読み方の抑揚のつけ方みたいなものではないか、ということです。
だけど、じゃあこの曲が際立って他と違う歌詞ののせ方で
歌っているかというと、それも違う気はします。

もうひとつ、曲の最後の部分、コード進行でいえば
G→F#7→Fmaj7→Emaj7という部分がそれなのかな、
と中学生の頃は思いましたが、これは間違いなく違うでしょう(笑)。

その記者に、どのような経緯でそんなことを書いたのか
聞いてみたいものですね(ご存命であれば)。


とここまで書いてきて、もうひとつ疑問が浮かびました。
「古代のリズムが分かるのか? 今再現できるのか?」


僕は日曜日は仕事をする人間。
通勤の車ではだいたいHBCラジオをかけていますが、
日曜朝8時過ぎからNHKでクラシックを流す番組があることを知り、
日曜だけはNHKを聞いています。
その番組の存在を知ったのは偶然で、前日の仕事帰りに
「大相撲中継」を聞くのにラジオをNHKに変えてHBCに戻すのを
忘れたままになっていたのが、日曜の朝に車のエンジンをかけると
クラシックが流れてきたというしだい。
その時はベートーヴェン交響曲第3番「英雄」の特集したが、
解説の「おじいさん」の穏やかな口調によるお話がとても面白くて、
それまでただCDをかけて流して楽しんでいただけだった
クラシックに意味を見出すことができました。

昨日ははじめからNHKに合わせて出発しました。
まだ8時前だったので、時報の後ニュースが入り(さすがNHK)、
それからクラシックの番組が始まるところを初めて聞きました。
日曜は家を出るのが8時過ぎのことが多いのです。

番組の最初だから当然その「おじいさん」は名乗るわけです。
「皆川達夫です」、と。
ええっ、この「おじいさん」が皆川達夫さんだったんだ!
知らなかった、ごめんなさい。
今のネットの時代、調べればいくらでも分かることなのに・・・
皆川達夫さんに僕はさることでとても親近感を覚えているのです。

皆川達夫さんはバロック音楽を中心としたクラシック評論家。
多くの本を著しており、僕も数か月前に講談社学術文庫版の
『バロック音楽』を買いましたが、「積読」だったそれを、昨日、
仕事から帰って読み始めました、夕食よりも先に。

皆川達夫さんがどうしてIt Won't Be Longにつながってゆくのか。
「バロック音楽」はまだ読み始めですが、最初の方に、
音楽は瞬間の芸術だからかたちとして残して伝えることが難しい、
楽譜というものはあるが完全ではない、という記述があります。
そしてこのようなことが書かれています、引用します。

***

古代ギリシアの楽譜は、幸いなことに断片的ではあるが、
十余曲残されており、解読も可能である。
一方、プラトン、アリストテレス、ピュタゴラスらは、
それぞれ音楽の本質、その物理性、音楽性、
倫理性などについて論じ、また音組織、旋法、
リズムなどに関する音楽理論書を多数残している。

***

古代ギリシア、なんと文明が進んでいたことか!
アリストテレスの『動物誌』(岩波文庫)は買いましたが(積読)、
他も含めて、音楽や詩などの本も読んでみないと、
「アイオリス風のリズム」の謎は解けないかもしれない。

これを読んでIt Won't Be Longのジョンの発言を思い出し、
この記事を書くきっかけのふたつめとなった、というところで
めでたく皆川達夫さんとつながりました。
正直、WITH...から書かなきゃと真では思ったけれど、
じゃあどの曲というのは決めかねていたのでちょうどよかった。

古代ギリシアと音楽、リズム。
『ロンドン・タイムス』の記者さんもそうした本を読んだのかもしれない。
そうであるなら今度は何の本を読んだかも知りたいですね。

え、だったら謎を解いてからこの曲の記事を書けよ、
といわれればそうかもしれないですが・・・
まあ、ほんとうに読んで分かったらまた続編を書こうと思います。


02


曲のことにも少し。

この曲は、この3か月前にシングルが出て大ヒットした
She Loves Youに続いて"yeah"という言葉が
印象的に使われていますが、シングルを聴いた人がLPも聴くと
いきなり"yeah"で驚き、笑い、感動したのではないか。
その辺イメージの統一、継続性が商売として上手いですね。
(偶然かもしれないけれど)。

しかもその"yeah"が進化している。
セッションズの著者も"yeah"の使い方はShe Loves You
よりもこちらの方が上だとまで書いています。
ほんと、これは聴いた瞬間から歌ってコーラスつけたくなりますね。
おまけに歌メロも素晴らしい。
アルバム1曲目の「つかみ」として最高の部類ですね。

ところがこれ、聴くとシンプルだけど、曲構成が凝っている。
A-B-A-C-B-A-C-B-A
と進む。
Aはコーラスでいわゆる「サビ」ですが、「サビ」を
ヴァースより先に出すというのが先ず変わっている。

ヴァースはBとCの2種類あってBは6小節で終わるというのが
これまた変わっている。
12小節のブルーズを半分にしたということなのかな。
Cは1番では現れず、2回目のサビの後の2番でいきなり出てくるのも
はっとさせられる。

コード進行が凝っている。
キィは嬰ハ短調つまりC#m。
Aはマイナーキィで始まるけれど暗くない。
そしてここは普通のコード進行。

それがBで変わり、"Everyday when everybody has fun"の部分は
EからいきなりCになる。
「裏に入る」というやつで、ここが歌メロ的には効いている。

さらにCの部分はBmもB7もC#7も出て凝りに凝っている。
覚えるのが大変(笑)。
ジョン・レノンが本格的に作曲家としての創造性を発揮し始めた、
そんな曲でしょうね。

そしてもうひとつ特筆すべきはポール・マッカートニーと
ジョージ・ハリスンによるコーラスワークでしょう。
Cの部分の後追いコーラスが面白い。
最後の部分、1'56"の辺りのポールのコーラスが
声が高くなっているのがなんというか、やっぱり面白い。

ギターの低音弦による下降するリフが要所で入るのは、
ブルーズからきて後のハードロックにつながってゆく部分。
Bが終わるところ、最初は0'26"のところで入る
「ジャカジャカジャン」というジョンのギターがなんだか妙に好き。

ジョンの歌い方も自信に満ちている。
歌詞の内容としては強がりを言っている、いや、自信過剰かな。
みんなは毎日楽しいのに僕はひとり、とか、
毎日僕は涙を流すことしかできない、とか、
憧れの彼女がなかなか自分の方を向いてくれないと嘆いている。
自信家のくせに妙に弱いところを見せたがるのが
ジョン・レノンの癖といえばそうですね(笑)。
だから曲自体は短調なのだと思うのだけど、でも、
単調の部分のサビで「僕が君のものになるのはそんな先ではない」
と自信たっぷりに歌う反面、長調のヴァースの部分で嘆くという、
ジョンは実はとんでもなく複雑な歌作りをしていますね。

最後のサビでジョンが歌う
♪いっと うぉんと び~ ろ~お~おんぐ
の後に一度だけ"yeah"を言わないところがものすごくカッコよくて、
最初にLP聴いた時にいたく感動した覚えがあります。
リフレインなどで違った歌い方をするのはよくあることですが、
当時の僕は音楽のなんたるかが漸く少しだけ分かり始めてきた頃で、
そんなことは分かりようがない、新鮮に響いてきました。

新鮮といえば、"It won't be long till I belong to you"
と"be long"と"belong"で韻を踏んでいるというか、
英語にもこういう駄洒落みたいのがあるんだとも思いましたね。

最後に余談、ウィキペディアを見ると、
「ニール・ヤングが初めて人前で歌った曲」
とさらりと1行付されていることを追記しておきます。

シングルカットされておらず、目立つ曲ではないけれど、
ロックンロールの可能性を広げた曲、といえそうですね。


と今回はいつになく脱線しまくりました(笑)。
せっかく1曲目を取り上げたので、このアルバムのみ、
次から順番に書いてゆきましょうかね。
ただ、何かのきっかけで頭にこびりつく曲もあるわけで、
それが順番に出てくるとか限らずで、保証はできないのですが。

最後は3ショットにて。

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