01
WILLIE AND THE POOR BOYS
Creedence Clearwater Revival (C.C.R.)
ウィリー・アンド・ザ・プア・ボーイズ
クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル (1969)
クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル、C.C.R.
僕は大好きであるのはもう幾度か記事で触れてきましたが、
意外にもC.C.R.のアルバムの記事は今回が初めて。
別に思い当たる理由は特にないのですが、ではということで、
僕が初めて買ったC.C.R.のオリジナルアルバムに触れます。
C.C.R.は大学入学が決まった3月に初めてベスト盤を買いましたが、
このアルバムはそれを聴いた上で何を買うか考えていたところ、
アルバムとしてはこれが最高傑作と言われているということを
何かで読んだのが決め手となって買いました。
ただ、普通であれば、ベスト盤でいちばん気に入った
「雨を見たかい」が入ったアルバムを買いそうなものですが
それを選ばなかったのは、どうやらその頃はもうC.C.R.は
下り坂に差し掛かっていたという風の噂のようなものを聞いていて、
最初にそれはちょっと恐かったのでした。
聴いてみると、これはほんとに素晴らしかった。
ベスト盤に入っていたのは2曲しかないのですが、これは
いい曲がたくさん入っているというよりは(もちろんいいんだけど)、
アルバム全体の流れを楽しむものだと感じました。
当時の僕はもうアルバム至上主義者に成りかかっていたので、
これこれこういうアルバムを求めていたと一発で気に入りました。
このアルバムはアメリカ音楽の勉強になりました。
当時は僕はもうアメリカンロック人間と化していたのですが、
その中でも特にC.C.R.やジョン・フォガティはアメリカ音楽の要素を
色濃く感じる存在として注目し始めました。
当時は僕もまだ向学心があって(笑)、このアルバムはそんな彼らの
背景を知りたくてライナーノーツがある国内盤を買いました。
輸入盤も当時は高かったですが、でも国内盤ほどではなく、
ほんとに当時は力が入っていたんだなと今にして思います。
勉強というか、なんとなく感じていた雰囲気を言葉として著された
ものに触れて頭の中に固着した、という感じでしょうか。
彼らは「南部で生まれた」と歌っているのに南部出身ではないことは、
当時の僕はもう知っていましたが、僕自身もちろん、それ以前に
アメリカ人ではないので、南部出身ではない者が南部の音楽を
再現するという距離感が自分に近くて共感を持てました。
このアルバムは、C.C.R.が「ウィリー・アンド・ザ・プア・ボーイズ」
というバンドに扮して南部音楽を探求すするというのがテーマで、
他のバンドに扮するのはビートルズの影響かもしれません。
彼らが求めたのは、貧しくてもつらくても楽しもうじゃないかという、
ブルーズの魂を今(当時)のロックで再現してみることで、
その心意気がほぼ達成され作られていると僕は考えています。
実際にトラディショナルソングのカバーも入っていますが、
あくまでも庶民の目線で書かれた曲ばかりが並んでいます。
まあそれはこれに限ったことではないのですが、彼らの音楽の
背景にはベトナム戦争が色濃く影を落としていて、実際に出兵した
ジョン・フォガティの庶民目線はそこが大元になっているのでしょう。
ジャケットは南部の街角で楽しげに演奏するバンドの4人が
写し出されていて、雰囲気は伝わってきますね。
ただし、4人の服装、色使いは地味だけどどこかパリッとしている、
どこか浮いた感じがあって、これはやはり南部出身ではない
彼らの距離感を微妙に表しているようにも思います。
ロックという音楽は、本物になろうとするところが魅力だけど、
決して本物になってはいけない、ということも僕は学びました。
だからここでは変名バンドを名乗る必要があったのでしょう。
後にローリング・ストーンズのビル・ワイマンとチャーリー・ワッツが
まさに「ウィリー・&・ザ・プア・ボーイズ」というプロジェクトバンドを
立ち上げて古い音楽を焼き直したのは、C.C.R.がここで再現した
魂が受け継がれていることを物語っていますね。
僕はそれが出た時はうれしくてすぐにCDを買いました。
久しぶりに引っ張り出して聴いてみようかな。
曲は明記してたもの以外はジョン・フォガティが書いています。
(All songs written by John Fogerty except as noted)
02
Tr1:
Down On The Corner
童謡のようなフォークソング的な楽しいギターのイントロは、
ベスト盤で聴いた瞬間からギターで弾いていました。
これはとにかく楽しいですね。
歌詞の前半はジャケットをそのまま説明しているようであり、
このアルバムは表題曲がないですがこの曲の歌詞の中に
"Willie & the poor boys"と出てくる、表題曲代わりの曲です。
また"kalamazoo"歌うのが最初から印象に残っていたんだけど、
「カラマズー」が何かずっと分からなくて、それがつい数年前、
Kalamazooは地名でありそこにGibsonの工場があると知って、
そういうことかとつながったのでした。
でも、調べるとKalamazooはミシガン州つまり北部の州で、
じゃあこれは南部じゃないのではないかとまた別の疑念が。
でも、歌詞をよく読むと楽器のことを表しているようで、
それであるならやっぱりそうかと再び納得しました。
ともあれ、僕の中でこの曲はそれから、Gibsonのギターの
テーマ曲的な存在になりました。
Tr2:
It Came Out Of The Sky
ジョン・フォガティが空のことを歌うとどうしても空爆を思い出す。
典型的なC.C.R.スタイルの爽快なロックンロールだけど、
歌っていることはかなり辛辣で時代を感じます。
Tr3:
Cotton Fields
(Huddie Ledbetter)
この曲を初めてCDで聴いた時に叫びました、これ知ってる!
僕の洋楽原初体験の一つが「ひらけ! ポンキッキ」でした。
ポンキッキではコーナーとコーナーの間に、ラジオでいうと
ジングルのような短い映像のお遊びコーナーがあったのですが、
そこでかかっていたのが今思うとすべて洋楽の古い曲で、実は
ビートルズの数曲もそこで耳にしていたものを、自らの意志で
ビートルズを聴くようになって分かったのでした。
懐かしなあ、そしていかにも1970年代洋楽の時代だなあ、って。
曲は1940年代の古いブルーズの焼き直しで、僕はオリジナルは
聴いたことがないのですが、ここでの音がぱらぱらした感じの
ギターのイントロはいかにも綿花の花を想起させて面白い。
歌い出しが1拍多いのが歌っていていつもあれっと思う(笑)。
辛辣さを表に出さない心意気の陽気なこの曲は、
ブルーズの魂をロックで甦らせるのにこれ以上ない選曲。
Tr4:
Poorboy Shuffle
プア・ボーイズによるインストゥルメンタル。
ベースはたらいに棒を立てて糸を張ったもの、
打楽器は洗濯板と、身の周りにあるものを何でも
楽器にして楽しもうという心意気を再現。
アクセントとして効いている曲ですね。
Tr5:
Feelin' Blue
前の曲の途中でフェイドインしてくる流れがいい。
ブルーな気分と歌っていてブルージーな雰囲気だけど、
ブルーズではないロック、そこが当時は新しかったのかも。
これはいいですよ、よく口ずさみます。
03 夜は明ける
Tr6:
Fortunate Son
C.C.R.のロックンロールサイドの代表曲の一つ。
これは明確にベトナム戦争の体験を心情として綴ったもので、
「俺は大金持ちの息子じゃねえ、軍幹部の息子じゃねえ、
上院議員の息子じゃねえ、運がいい奴じゃねえ」
と戦争に行かねばならない身の人間が、戦争に行かなくても済む
人間を皮肉たっぷりに歌うこの曲には異様な爽快感があります。
そして注目すべきはこの曲のサウンド。
重たいリズムに金属的な響きのこの曲の音は、
ヘリコプターの音をイメージしているのではないかな。
映画「フォレスト・ガンプ:一期一会」ではまさにベトナム戦争の
ヘリコプターのシーンで使われていて効果満点。
以降、この曲はヘリコプターのイメージの曲になりました。
歌詞の中では"fortunate one"と歌っているのですが、
最後の最後、フェイドアウトで消える直前だけ曲名の通り
"fortunate son"と一度だけ歌うのが面白い。
とにかくカッコいい、壮絶なまでにカッコいい。
そしてこの曲で僕はロックの歌詞の面白さに完全に目覚めました。
ところで余談。
この曲はTr1のB面として最高14位と中ヒットしたのですが、
これがシングルとして出ている間にビルボードのチャートの
編集方法が変わり、A面B面の区別なく1枚のシングルとして
扱うようになったということです。
ビートルズのSomethingとCome Togetherもまさに
そのタイミングで1位になっていたので両方が1位として記録
されたのですが、ということはそうか、このアルバムは
ABBEY ROADと同じ頃に出ていたんだ、と、
僕の頭の中でまたひとつつながりました。
Tr7:
Don't Look Now
これはロカビリー、リッキー・ネルソン辺りを思い出します。
この手の曲は何かほっとするものがあります。
Tr8:
The Midnight Special
(Traditional arranged by John Fogerty)
僕が思うにトラッドソングのカバーとしてロック界でも随一。
ギターの演奏だけでバラード風にヴァースが始まり、
バンドの演奏になるとまずは裏打ちの波打つリズム、
続いてロックンロールという3段変則リズムのアレンジもいいし、
ブルージーなジョンのヴォーカルも最高にいい。
もうこれは完全にロックとして甦っているし、C.C.R.の代表曲の
ひとつにも挙げられるのではないかな。
コード進行が簡単なだけにすぐにギターを弾いて歌っていました。
この曲は映画「トワイライト・ゾーン」において、ダン・エイクロイドが
出ているの地の部分で効果的に使われていました。
映画は4人の監督が1つずつ短編を制作してひとつのストーリー
としてつなげたもので、地の部分というのは、最初の切り出しと、
最後のしめの部分のことです。
救急車に運び込まれたダン・エイクロイドは、ラジオでかかっていた
この曲を耳にして"I love Creedence"と言ったのですが、
字幕ではそれが「この曲は最高だね」となっていて、
僕は、当時はC.C.R.はで日本では当時は人気がないというか
知名度が低いことを知りました。
Tr9:
Side O' The Road
LPでいうB面にもインストゥルメンタルの曲がありますが、
僕は当時は今よりもっと歌人間だったのに、今ふと思った、
どうしてこのアルバムをそこまで気に入ったのだろう(笑)。
C.C.R.はすごいというマジックにかかっていたのかな、と。
ハードでシャープな演奏のこの曲を聴くと、
ジョン・フォガティが卓越したギタリストであり、
ギターサウンドもC.C.R.の魅力のひとつであること、そして
サウンドクリエイターとしても秀でていることが分かります。
先ほどどうして僕は気に入ったんだろうって書いたけど、
これはほんとに素晴らしくて、若い頃だから逆に邪念が
あまりなくて素直に気に入ったのかもしれない(笑)。
Tr10:
Effigy
最後はマイナー調のブルージーな重たい曲。
最初に聴いて、ビートルズのSexy Sadieに似ているなと。
ここまでつらいことも明るく歌ってきたのに、最後の最後で
これだけ重たく歌うのは、やはり現実から目をそむけるな
というメッセージなのかもしれません。
"effigy"とは「肖像、(憎むべき)ひとがた」とありますが、
いったい誰を憎むのだろう。
怨念、という言葉がまさにぴったりの曲で、C.C.R.というバンド、
ジョン・フォガティのすごみを感じる曲ですね。
僕はアルバムの最後は明るい曲で終わってほしいのですが、
後を引く曲もまたありなのかな、とも思いました。
現行のCDには3曲のボーナストラックが入っています。
Tr11:
Fortunate Son
これは1971年9月1日のマンチェスターでのライヴテイク。
コンサートでも盛り上がる曲であるのがよく分かります。
Tr12:
It Came Out Of The Sky
これは1971年9月16日のベルリンでのライヴテイク。
どちらもアメリカのものではないのは何か意図があるのかな。
あるとすれば、アメリカの音楽をヨーロッパの人が聴くと
どんな反応があるのか、それを見せたかったのかもしれない。
Tr13:
Down On The Corner
そしてこれ、
ブッカー・T・&・ジ・MGズとの
ジャムセッションによるアウトテイクです。
最初はこれ「なぜC.C.R.と彼らが?」と思ったのですが、
ロッド・スチュワートも大西洋を渡って彼らと録音したように、
白人ミュージシャンには憧れのような存在だったのでしょうね。
そしてC.C.R.はそんな彼らにも一目置かれていたのでしょう。
こんな音源が残っていたのはうれしいですね。
確かにオルガンが歌ってます。
ところで、ブッカー・T・&・ジ・MGズといえば・・・
ベーシストであったドナルド・ダック・ダンが、5月13日、
コンサートのために来日していた東京のホテルで亡くなりました。
享年70歳。
先日上げた旧譜CDの記事(こちら)において、僕は最近、
ブッカー・T・&・ジ・MGズに凝っていると書いたばかりで、
亡くなられたのはショックでしたし残念でなりません。
僕は、映画「ブルース・ブラザース」で、バンドのメンバーとして
出ていたのをテレビで見てドナルド・ダック・ダンを知りました。
それからエリック・クラプトンのアルバムに参加したり、
後にもちろんスタックスのソウルを聴くようになって
密かに好きなベーシストのひとりでした。
彼らはスタックスの数多の名曲で演奏をしているので、
それと意識していなくても、普通に洋楽を好きな人であれば
必ずや彼らの演奏を耳にしているはず。
このアルバムの記事は先週くらいから上げようと思っていて、
そんな矢先にこのようなことになってしまいました。
こんな偶然はうれしくないですね。
「空から出てきた」、ではなく、「空に召された」。
昔から知っていたミュージシャンがまたひとり鬼籍りしました。
ご冥福をお祈りします。
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