01
57TH & 9TH
Sting
ニューヨーク9番街57丁目
スティング
(2016)
スティングの新作が出ました。
プロモーション来日して今日明日とテレビを賑わせるようですね。
今回のアルバムは実に久しぶりにロックに帰ってきたと
リリース前から話題になっており、僕も期待していました。
そうです、スティングがロックに帰ってきたのです!
僕も最初は、ああそうなんだぁに毛が生えたくらいにしか
思っていなかったのですが、実際の音を聴くとやっぱり
大好きなミュージシャンだから冷静ではいられなくなりますよね。
最近は、日々の生活の中で時々「スティングがロックに帰ってきた」
と思い出し笑いをしそうになるくらい。
あ、変な人ですかね(笑)。
ロックに帰ってきた。
2003年のSACRED LOVEより後はクラシックだったり、
ミュージカルだったりクリスマスっぽいのと、ロックから離れていた。
それらの作品も好きなものはあるけれど、正直、
もうロックはやらないかもしれないと思うと寂しかった。
前作THE LAST SHIPはなんとAC/DCのブライアン・ジョンソンが
参加するなど今度こそロックと期待したのですが、
オリジナルの新曲を使ってはいたものの企画盤でがっかり。
「ああそうなんだに毛が生えたくらい」と書いたのは、
前作で「騙されて」期待度が低かったからなのでした。
もちろんスティングにそのつもりは毛頭ないでしょうけれど。
でも、今度はほんとうにロックに帰ってきた。
しかし、ソロ初期の頃のナイフで切り裂くような
鋭いメッセージを突きつけるというのではまるでない。
聴くだけでこっちが緊張するような音楽ではない。
かといってAOR的にソフトになったというのとも違う。
(断っておきますが決してAORを批判するものではありません)。
そう、ロックなんです。
ロックという音楽は本来は適度にハードな音で聴かせるもの、
と僕は思っていて、ビートルズもストーンズもそうですが、
スティングの新作はまさにロックのど真ん中といった趣の音です。
だから聴きやすい!
洋楽ロックを好んで聴き育った人には素直に受け入れられる。
もちろん細かに聴くとクラシックだったりエスニックだったりの
影響はうかがえますが、それも込みでのロックミュージック。
今の時代、それだけでもう十分嬉しいですね。
スティングらしい鋭さがなくなっているというのも、
昔は久米宏さんが「言いたいことだけ言って帰っちゃいました」
と呆れていたくらいメッセージを伝えたい人でしたが、
まあ人間だから齢を重ねて丸くなったと素直に捉えられますね。
それが予想外だったかといえばまるで正反対、
多分そうだろうなあと思っていたので、その点でも期待通りです。
昔のスティングの鋭さが苦手だったという人もいるかもしれない、
それくらい印象が強かったですが、そういう人が聴くと驚くかも。
タイトルの57TH & 9THとは邦題にあるように
ニューヨークの街区の名前のようですが、
原題にはNew Yorkの文字は入っていません。
でも、スティングにはニューヨークを歌った有名な曲もあるし、
ニューヨークに住んでいることも知っていたし、ジャケット写真の
絵的イメージからしてもニューヨークであると最初から思いました。
しかしそこで使われている数字の意味を考えてしまうのが悪い癖(笑)。
「スティングは57歳でこれは9作目のアルバムなの?」
スティングは1951年生まれの65歳、違いますね。
しかし9作目の方は、前述2013年のTHE LAST SHIPを含めると
これが9作目だからその通りですね、偶然なのだろうか。
スティングのテレビ、今日は「スッキリ」を録画して観ました。
どこよりも早く出るということで、時間も長かった。
まあ、前半のポリスのデビューからの話は「はい知ってます」
とテレビに向かって言いそうになりましたが(笑)、いかんいかん、
スティングをご存知ない方が興味を持っていただけるのであれば
と思いながら観ていましたよ。
「見つめていたい」はこの人の曲だったんだって思った人、
全国で3桁はいらっしゃるのではないかと。
番組でスティングは2曲歌っていました。
最初は、ファンだという司会の加藤浩次が無理矢理リクエストする
というかたちで、ギターの人と2人でShape Of My Heartを。
観ていた弟が、「日本ではスティング(ソロ)といえばこの曲なのか」
と呟いていた、映画『レオン』のテーマ曲として使われた曲。
続いてバンドメンバーを引き連れて新曲のスタジオライヴ。
I Can't Stop Thinking About You。
演奏は「指パク」=アテレコかもしれないけれど、
スティングは本当に歌っていたように思えました。
声がレコードより弱く感じられたというのがその理由ですが。
自信はないですが、まあ、こういうことは
曖昧の方がかえっていいいかもしれないですね(笑)。
話は逸れました、アルバムタイトルの話をしたかったのでして。
「スッキリ」でスティングはアルバムタイトルについて質問され、
自宅のある場所かと聞かれると"No"、では仕事場、それも"No"。
正解は、自宅から仕事場に行く間に通る交差点。
その信号はいつも止まって待つ場所であり、その間にいろいろ、
人生のことについても考えるのだそうです。
車で通勤すると必ず止まる交差点ってありますよね。
スティングの言葉で僕はこのアルバムがますます
身近に感じられました。
さて、聴いてゆきましょうか。
02
1曲目:I Can't Stop Thinking About You
アップテンポでいかにも1曲目、ロックらしい適度にハードな曲で、
最初に聴いて予想していたよりハードだなあと思いました。
でもこれこれ、やったぁ! 思わず叫びそうになりました。
ギターのアルペジオがきらびやかでいかにも街といった感じ。
曲がなんというか素直で、流れに捻りがない。
スティングらしくないといえばそうかもしれない「普通」の曲。
でも今はその普通のロックがいいんだと繰り返し言いたい。
歌メロもよくて僕ももう口ずさむようになりました。
ああでもイントロの最後歌に入る直前のコードが
ズシーンと重たく響いてくるのはちょっと捻っているか。
"Cold, cold, cold"とサビの前に3回繰り返すのが印象的で、
まさに雪が降り始める今の時期にはぴったりの曲ですね。
ただ最初に聴いて少し戸惑ったことが。
演奏の音圧が強くて、スティングの声がべったりとそこに
張り付いていてすべての音が一塊でやってきて
広がりが感じられない録音だったこと。
でも慣れると今のスティングはそれでいいと思いました。
でもやっぱり嬉しかった、嬉しいですね。
余談、この曲を聴いたおかげで今の僕はジョージ・ハリスンの
「帝国」に入っているCan't Stop Thinking About Youが
よく頭の中に流れてくるようになりました(ほんとに蛇足だけど)。
ではこの曲をどうぞ。
☆
I Can't Stop Thinking About You
Sting
(2016)
2曲目:50,000
ミディアムスロウで暗くはないけれど何か影がある響き。
強いギターの音の後ヴァースが始まって急に静かになり、
ぶつぶつ言うようにごちゃついた歌メロを歌う。
ここはいかにも理屈っぽいスティングという感じ。
でもやはりねちねちしたものではなくむしろかわいげがある。
サビは一転して演奏も賑やかで明るくなる。
ここはなんとなくKing Of Painを思い出しました。
曲の前半と後半で印象が違う面白い曲。
今回のアルバムで唯一フェイドアウトで終わる曲でもあります。
3曲目:Down, Down, Down
この曲も前半Aメロはささやくように歌う。
Bメロはいかにもポリス=スティングといった言葉遣い、
歌メロの進み方、でもやはり今は落ち着いている。
これはいい。
曲の終わらせ方、それまでまったく出てこなかったパッセージを
いきなり入れ込んで終わらせる、これがはっとさせられる。
4曲目:One Fine Day
これがいい!!
歌の始まりの旋律がとっても分かりやすくてすぐに口ずさめる。
タイトルを歌う部分ももうそこだけで素晴らしい。
分かりやすいようでやっぱり理屈っぽいスティング。
そんな人がポップなセンスを持ってしまったのだから、
他にはない独特のポップソングができますよね。
ううん、もう嬉しくてたまらない。
1曲目とこっち、昔の感覚ならどっちをシングルに切ってもいい。
ベスト盤にいきなり入っていても違和感ないかも、
それくらい気に入りました。
5曲目:Pretty Young Soldier
12/8のゆったりとしたリズム、でも歌っていることは深刻。
スティングはリズムが遅すぎるとばかりに早口で歌い継ぐ。
でも、突きつけるのではなく包み込む、そんな響き。
結婚を約束したカップル、しかし男性は突然戦争に行くと話す。
2人が会っているのはやはり川のそば。
欧米の人にはそういうイメージがあるのでしょうねきっと。
6曲目:Petrol Head
これはポリスをハードロックにしたような曲。
もっといえばパンクの原初的なパワーを再現した曲。
スティングも怒ったような歌い方で迫力ある。
歪んだ音のギターソロにも怒りが透けて見える。
これを聴いて「スティングさすが」と思いましたね。
ロックを築き、ロックに生きてきた人として。
それにしてもカッコいい!
7曲目:Heading South On The Great North Road
アコースティックギターだけをバックに歌うこの曲は
クラシックっぽい響きでスティングがやって来たことが
うまく取り込まれていますね。
バロックっぽい、かな。
タイトルを見るとカントリーっぽい曲を想像しますが、
そこはちょっとばかり交わしている部分かもしれない。
8曲目:If You Can't Love Me This Way
ギターのアルペジオとドラムスとスティングの歌い方が
バラバラのように聴こえる、あららどうしちゃったんだろうって。
でも、だから逆にしっかりとタイトルを歌う部分が印象に残る。
英語ネイティヴではない僕はカラオケでは歌えないわ(笑)。
それにしても、「こんな風に僕を愛せないなら去ってくれ」
とはなんとも傲慢、スティングだから言えるのかもしれない。
9曲目:Inshallah
ギターの寂し気な音につられて暗く歌い始めるスティング。
哀愁を帯びた美しい響きはどこかアラブ風、それもそのはず、
"Inshallah"とはアラビア語で「なるようになる、そのうちに」の意味。
"let it be"ですね。
歌詞の中に"It shall come to past"というくだりがあり、
この"shall"は予言や祈りの意味ですが、その音が"Inshallah"という
言葉にも含まれているのは決して偶然ではないと思います。
つまりこれは祈りの曲なのでしょう。
こういう曲が書ける人、それがスティングなのです。
この曲を聴いて、スティングがロックに帰ってきた、
その意味がよく分かった気がしました。
祈るように歌うこの曲は胸に迫ってきます。
この曲の最新ライヴ映像がYou-Tubeにありました。
☆
Inshallah
Sting
(2016)
10曲目:The Empty Chair
アルバム本編最後でスティングはアコースティックギターのみを
バックに穏やかに歌う。
スティングにこういう曲はありそうでなかったかも。
大きな木陰でギターを弾きながら周りを描写し歌う、そんな響き。
どこかもの悲しい、そうですよね、誰もいない椅子だから。
ただ、ボーナストラックが入っていない通常盤ではこの曲が
最後となるわけですが、最後に置くには心もとないというか、
あっさりと終わりすぎるよな気もします。
前の曲の印象度が高くて後を引くにしても。
11曲目:I Can't Stop Thinking About You (L.A.Version)
というわけでここからボーナストラック、1曲目の別ヴァージョン。
オリジナル1曲目ではパンチの強い普通のロックの音ですが、
こちらはアコースティックギターの音色がほのかに響くイントロ、
音のメリハリが弱くてスティングの声もおとなしいというミックス。
というより、スティングの歌は違うテイクのようにも感じられるので、
ミックス以上にテイクが違うと思われます。
それがL.A.風なのかどうかは僕には分からないのですが、
同じ歌でもかなり印象が違って少々驚きます。
まあ、L.Aで録ったということで、音自体にL.A.であることの
意味はないのでしょうけれど。
僕は普通の「ニューヨーク」の方が好きかな。
12曲目:Inshallah(Berlin Session Version)
こちらは全体の音圧が抑えられた上で演奏が引っ込み
ヴォーカルが前に出た、そんなミックス。
ただ、この曲については「東西融和の象徴の地」である
「ベルリン」であることに何か意味があるよな気がしてならない。
今世界で対立しているのは東西ではないけれど・・・
13曲目:Next To You with The Last Bandoleros
(Live at Rockwood Music Hall)
最後はパワーパンク(?!)のこの曲のライヴ。
これは絶対にライヴで盛り上がるわ。
ボーナストラックについて、今はもう慣れた人が多いのかな。
それ以前にディスク単位で聴かない人が多いのか・・・
それはともかく、このアルバムこのCDに関しては、
ボーナストラックがあるからいいと僕は思います。
物静かな10曲目で終わるとあまりにもあっけないから。
そしてアルバムの目玉である3曲を別テイクでもう一度聴ける
というのはほんとうにボーナス、得したと感じますね。
ただできればOne Fine Dayの別テイクも欲しかったなあ(笑)。
上がDVD付きデラックスエディション、下が通常盤。
スティングは来年6月に来日公演を行うことが
早くもアナウンスされました。
もちろん場所や会場は未定、決まり次第の発表とのことですが、
札幌には来ないかなあ、来ないだろうなあ・・・
6月に東京に行くのは無理そうだし・・・
今回は積極的ですね。
それだけ、ロックに帰ってきたスティングを喜ぶ人が多いのかと。
今朝の「スッキリ」でもそのフレーズを使っていましたからね。
スティングお帰り!!
今は毎日聴いていますよ。
03