01
STICKY FINGERS
Rolling Stones
スティッキー・フィンガーズ
ローリング・ストーンズ (1971)
ローリング・ストーンズがレコード会社を移籍し、
1971年に発表した名盤のリマスター・リイシュー盤が出ました。
今日はこのアルバムの話です。
結論から先に言います。
僕は、ストーンズでこのアルバムがいちばん好きです!
はい、今日はこれで終わり。
なんて(笑)。
ストーンズは「ビートルズの半年遅れのコピー」と揶揄されながらも
1967年くらいまでは順調にヒット曲を重ね、ロック史に残る名曲
(I Can't Get No) Satisfactionを生み出すなど大成功を収めました。
しかし、コンサートでの事件、メンバーの問題、そして
ブライアン・ジョーンズの死などで、一時勢いを落とす。
しかし、ミック・ジャガーとキース・リチャードの"The grimmer twins"は
起死回生の傑作BEGGAR'S BANQUET(記事はこちら)を作り、
再び名曲名盤を数々と生み出すようになった。
このアルバムまでのストーンズをごく短くまとめると、こんなところ。
ストーンズは当然のことながら元々アメリカのブルーズやR&B、
ソウルといった黒人音楽への志向が強かった。
それはビートルズも同じ、当時のUK勢はみなそう。
しかしストーンズは、実際にツアーなどでアメリカに行くようになり、
「アメリカの深部」、「ディープなアメリカ」を知りたくなる。
ビートルズのSGT. PEPPER'Sを真似した1967年の
THEIR SATANIC MAJESTY'S REQUESTの「失敗」を受け、
いよいよその思いを形に表してゆくことになった。
余談、僕はTHEIR...REQUESTも大好きなんですが、それはまた。
BEGGAR'S...、LET IT BLEEDとその色を強めてきたストーンズ、
次のアルバムの制作にあたり、マスル・ショールズを訪れて録音した。
以前記事にした映画『黄金のメロディ』でその話を見ました。
マスル・ショールズはアラバマ州の小さな町ですが、
敏腕プロデューサーにして無類の音楽好き人間リック・ホールが
ソウルのレコードを吹き込み、次々と全国でヒットさせたことから、
マスル・ショールズはいつしか「ソウルの聖地」と呼ばれるようになった。
映画によれば、ストーンズのメンバは「突然」やって来て録音を始めた。
こう書くと思いつきでいかにも彼ららしい、と思うかもですが、
そこで録音されたこのアルバムを聴くと、決してそうではなく、
上述のように、積年の思いをついに実現する時が来た、
その時間が持てた、ととるべきだと思い直しました。
まあ、映画を観て「突然来る」のはカッコいい、とは思いましたが(笑)。
では、このアルバムがストーンズの「アメリカ深部への旅」の
完成形かというと、さにあらず。
まだこの先が続き、LPでは2枚組のEXILE ON MAIN ST.をもって
ひとまず完結するわけですね。
ストーンズは近年、70年代のアルバムのリイシュー盤を出していて、
EXILE...は既にリイシュー盤が出たのですが、実は僕、
そのアルバムはまだソラで全曲分からないので記事にしていません。
それを機にある程度聴き込んだので、近いうちに今回の続編的に
記事にまとめてみたいと、今、思いました。
ちなみに、リイシューはSOME GIRLSも既に出ていますが、
こちらはリイシュー前に
記事(こちら)にしていました。
また、前のアルバムに数曲参加し、No.1ヒットとなった
Honky Tonk Womenから正式メンバーとなった
ミック・テイラーが初めて全曲参加したアルバムでもあります。
僕とこのアルバムの話も少し。
僕はこれ、1990年代に当時SONYから出ていた国内盤CDで
初めて聴きました。
ロックの名盤本などでこれは傑作だと情報は得ていましたが、
最初に聴いて、いいけれどすごくいいかと言われると・・・でした。
大好きなBrown Sugarが入っている時点で僕の中の評価が
自然と高まりはしましたが、逆にいえばその曲がなければこれを
好きと言えるか、自信はいまいちありませんでした。
ただ、曲がいい意味で「心に引っかかるアルバム」だと思いました。
後になって突然フレーズを思い出す、そんな曲が多かった。
その後、VIRGINからリマスター盤が出たので買い直し、
さらにUNIVERSALからまた出直したのも買い直し、
年に1、2回は聴き続けてきましたが、さすがにそれだけ聴くと
曲にもなじみがでてきて、いいアルバムと思えるようになりました。
やっぱり曲が分かる、好き、というのは大きいですね。
そして、今月、このリイシュー盤が届いた時に聴いていて
「やっぱ俺はストーンズでこのアルバムがいちばん好きだわ!」
と、まるで稲妻に打たれたかのように思いました。
実際、その時は最初PCで作業をしながらかけていたのですが、
3曲目くらいになってPCの手が止まり、その後はただ聴くだけ。
昔からよく聴いてきた、大好きなアルバムでも、
或る日突然、すごくよく聴こえる、ということ、ありませんか?
僕は多々あります。
ビートルズとて例外ではなく、それを何十回も繰り返してきました。
「洋楽危機」の記事(こちら)で、古い音源に頼り過ぎていることが
洋楽の現状につながっていると書きましたが、良い物は良いわけで、
リイシュー盤を買い直すと、前よりよく聴こえることはあるのです。
それは音楽の本質でもあるから、古い音源を出し直すのは、
知らない人への新たな発信でもあると同時に、元々好きで
よく聴いてきた人にも訴えている、というわけなのですね。
自分で「洋楽危機」の記事を書いておきながら、今回このアルバムで、
自分自身、あらためてそんなことを思いました。
話は逸れましたが、今回このアルバムに「打たれた」のは、僕は
近年ソウルやブルーズなどを熱心に聴くようになり、このアルバムの
下地にある彼らの音楽への思いが理解できるようになってきた、
ということなのでしょう。
マスル・ショールズで録音したという「魔法」もかかっていますが、
もっと直接的にサザンソウルの影響が色濃く感じられます。
そして、ドクター・ジョンやミーターズ、ネヴィル・ブラザースに
アーロン・ネヴィル、アラン・トゥーサン、古くはファッツ・ドミノといった
ニューオーリンズの音楽は、自分で思っている以上に
僕に大きな影響を与えているんだな、と再確認しました。
なんといっても、Brown Sugarの歌い出し4小節目でミックが
"New Orleans"と歌っていますからね。
なお、録音は他にロンドンとミック・ジャガーの自宅でも行われ、
例の"Mobile"が使われた、アルバム完成となりました。
02
1曲目 Brown Sugar
ここでもうひとつ宣言、というのは大袈裟か。
僕は、ストーンズの曲ではやっぱりこれが一番好き!
この曲は一応ギターで弾けるのですが、でも、楽譜は持っていない。
耳コピーしたのかというとそうではなく、イントロのギターリフと
コード進行は、楽器店で楽譜を「立ち読み」して覚えました。
二十歳くらいの頃、今より頭が柔らかかったんだなあ、と(笑)。
この曲、元々一番好きなグループであり続けてはいましたが、
ギターソロがないのがギター弾きとしてはちょっと弱いかな、と。
ただ、あったところで弾かないという例は数多あるのですが、
最初からないのとは話が違いますよね。
でも、もうそんなことは関係なくなりました。
で、何がいいって、そりゃもう、歌メロ、ギター、すべて。
特に、ソロはなくてもギターワーク、ギターの音色、最高にいい。
そしてこの曲を特徴づけているのは、リズムでしょう。
この跳ね具合いとネバつきそしてグルーヴ感は、スワンプ志向が強く、
またそれができるほど「バンド」として強くなっていたことも感じます。
ライヴ盤では真っ直ぐなロックンロールになっているものもあって、
正直、この曲の魅力が半減と感じたものです。
歌詞の内容は「男尊女卑」的なもので物議を醸したそうで、
マイナスポイントがあるとすればそこかな。
でも、ライムとしては歌メロとリズムに合っていて最高にいい!
そして今回のリイシュー盤に収録された未発表テイクでは、
なんとエリック・クラプトンが参加しています。
正式テイクに比べると当然ラフな作りですが、エリックともども
スワンプをモノにしてやろうという鋭さを感じます。
ところで、このBLOGではまだ触れていませんでしたが、
この曲をはじめストーンズでの名演が多く、昨年の東京ドームにも
来ていたサックス奏者ボビー・キーズが昨年12月に亡くなりました。
ドームで会ったばかりだったので、ショックでした。
この場を借りて、R.I.P.
2曲目 Sway
タイトルのごとく、バンド全体が滑りながらずれていく感覚がいい。
最後にストリングスが入って来るのが洒落ている。
ところで僕はこの曲を最初"Swamp"だと思って聴いていて、
「スワンプってこういう音楽なんだ」と思ったものでした。
僕が「スワンプ」という言葉と概念を知ったのは、トーキング・ヘッズの
ライヴSTOP MAKING SENSEで、そのものSwampという曲があり、
何かで調べて「粘つきのあるアメリカ南部の音楽」と知りました。
これは、曲名を覚える前にアルバムCDを聴き始めて、
"Swa"まで同じなので、勘違いしてしまったのでしょう。
でも、この勘違いは「間違い」ではなかった、ということですね(笑)。
3曲目 Wild Horses
ストーンズはこのアルバムからレコード会社を移籍したと書きましたが、
Brown Sugarとこの曲のみ、それまでのDECCAの音源と同じく
権利がABKCOレコードにあり、この2曲は1960年代の曲を集めた
名編集のベスト盤HOT ROCKSに収録されています。
HOT ROCKSは、僕が初めて買ったストーンズのCDであり、
僕のCD初期50枚に入るほど早くに買って聴いていました。
当時からこの2曲についての話は本か何かで知っていて、
ここから新しいストーンズになっていたんだ、と思いながら聴きました。
Brown Sugarはいかにもストーンズらしくてすぐ好きになりましたが、
この曲は「彼らもこんな曲をやるんだ」と少々戸惑いました。
カントリーっぽさを感じるスロウで抒情的な曲。
本来僕が好きになりそうなものを、素直に好きとはいえなかった。
しかも彼ら自身がこの曲を大好きそうと分かって、なぜだろうって。
でも、この曲は、年を経るごとに徐々に好きになってゆき、
数年前、ああ本当にいい曲だあ、としみじみ思いました。
サビもいいけど、ヴァースの歌メロもいい。
ストーンズの芸の奥深さがよく分かる1曲でしょうね。
4曲目 Can't You Hear Me Knockin’
長いサックスソロを含むジャムセッションを発展させた曲。
この前年にジョージ・ハリスンがスワンプ趣味をかき集めて
作り上げたALL THING MUST PASSが出た、と今ふと
この曲を聴きながら思いましたが、当時の英国ロックには、
「ブルーズロック」の後に「スワンプロック」の波が来ていたようですね。
ほとんどハードロック的な突き刺さるギターリフがいい。
5曲目 You Gotta Move
アコースティックギターによる本格的カントリーブルーズ。
元々は戦後期のゴスペルやブルーズから始まった曲で、
フレッド・マクダウェルが1965年に録音したものがストーンズの
下地になっているようですが、サム・クックも同じモチーフで
1963年に録音している、など、複雑な変遷の曲でもあります。
この曲は「心に引っかかった」曲のひとつで、なんだろう、
けだるい雰囲気が気になって仕方なかった。
こういう音楽はまだ当時あまり聴いていなくて印象的だったのでしょう。
ところで、僕は、CDの時代になってからCDで初めて聴くアルバムは、
可能な限りどこまでがLPのA面でどこからがB面かを調べて
頭の中に刻んで聴くようにしていて、これはLPのA面最後。
最初にLPで聴いたアルバムはそれが頭に刻み込まれていますが、
これはLPで聴いたことがないのに、A面B面の区別が明確なのです。
やっぱり、若い頃にそうして覚えて聴いたからでしょうね。
03 "dead"ではない花、庭で咲いた薔薇「ミュージック」
6曲目 Bitch
この曲は1990年の初来日公演で演奏したことで、
僕の中では特別なものとなりました。
当時はまだストーンズ聴き始めのようなもので、シングルで
大ヒット曲はだいたい分かるけれど、アルバムの中の曲までは
抑えきれていない状態で、この曲をやって驚いたのでした。
ヒット曲と新譜からの曲以外を演奏しそれを聴くというのは、
コンサートの醍醐味なのだ、と、この曲から学んだ気がします。
この曲は「愛すべきパクリ」のひとつですね。
イントロのリフがテンプテーションズのGet Readyとそっくり。
「てってぇ~」と強く打つ場所が違うだけ。
ストーンズはこの後、テンプスのAin't Too Proud To Begや
Just My Imagination (Running Away With Me)をカヴァーしていて、
テンプスが好きであるのは間違いないですね。
そして僕は両方大好き、だから「愛すべきパクリ」なのです。
もっとも僕はストーンズのこれを先に聴いたので、後から
テンプスを聴いてそれに気づいたのでした。
先ほどA面B面の話をしましたが、これはB面のアタマに置くには
これ以上ないというくらい合っている、だから印象的なのでしょうね。
7曲目 I Got The Blues
ブルーズマンのアルバート・キングがマスル・ショールズで録音した
ソウルとブルーズのハイブリッド、これはそのままの音といっていい。
ブラスの入り方は、思わずにやにやしてしまうくらいに。
でもミックの歌い方はソウルのマナーではまったくない。
高音で声が微妙に揺れるのが、ギターのアルペジオと呼応するようで、
それはロックの「ぎこちなさ」、しかし、そこがロックの面白さでしょう。
間奏の印象的なオルガンはビリー・プレストンによるもの。
ビリーは4曲目にも参加しています。
8曲目 Sister Morphine
この曲は前作LET IT BLEEDのアウトテイクで、
マスル・ショールズの録音には関わりがないとのこと。
Wild Horsesとは裏と表のような、アコースティックな響きのスロウな曲。
曲のクレジットには、ミックとキースに、ミックの恋人だった
マリアンヌ・フェイスフルの名前が加わっています。
ということは、この曲の主人公は彼女なのかな。
そしてスライドギターはライ・クーダー。
71年といえば、前年の秋、ジャニス・ジョプリンが亡くなった。
偶然なのだろうか。
もしかして、ジャニスに捧げた曲だったのか。
9曲目 Dead Flowers
明るくポップでのどか、そしてどこか間の抜けた響きが印象的。
しかしなんといってもこの曲はサビでのキースのコーラスがすごい。
コーラスというか、ミックが歌う主旋律とは別に、勝手にテキトーに
歌いたいように歌っているだけ、といった奔放さがありますね。
しかもそのキースの声がいい。
今回はキースが歌う曲がないので、その分張り切っていたのかな。
でもこれ、コーラスをつける勉強にはならない曲かも。
今回のリイシュー盤のDisc2は未発表音源が収録されていますが、
そのテイクはキースやり過ぎ! というくらいにコーラスがすごい。
B面のハイライトともいえるかもしれない。
このリイシューを買ってからは、この曲をよく口ずさんでいます。
時と場合により、ミックだったり、キースだったりします、もちろん(笑)。
10曲目 Moonlight Mile
この曲はタイトルがいいなあと最初から思いました。
抒情的な曲で、夜明け前の大地にひんやりとした空気が広がる、
そんな雰囲気をたたえた、大きく構えた曲。
しかし僕は、最初から大好きだったわけではありません。
「せっかくタイトルがいいのだから、好きにならなきゃ」
などと思いながら最初の頃は聴いていた記憶があります。
無茶ですかね、自然と好きなら好き、でいいじゃないか、と。
いや、僕はそういう思考の持ち主なので、しょうがないのです(笑)。
「好きにならなきゃ」と思ったのは、歌メロが最上級というわけではない
という部分があったかと思います。
でも、特に40歳を過ぎてからは、これは歌メロではなく雰囲気に
ひたって味わいながら聴くものだ、と気づいて漸く好きになりました。
そして俳句をやるようになった今、この曲は、僕の頭の中では、
月を求めて旅をした松尾芭蕉に結びつくようになりました。
いかにも芭蕉が月を求めて歩を進める、そんな雰囲気が漂う、
と書くと強引でしょうかね(そうでしょうね)。
でも、今の僕はこれを聴くと、芭蕉のそんな光景が頭に浮かんできます。
そうか、結局僕はこの曲とは縁があったんだ!
「好きにならなきゃ」というのは、何かを感じていたのかな、と。
満月の夜に暗い道を歩き、角を曲がると月明かりが眩しいほどだった。
そんな余韻を残しまくって、アルバムは終わります。
なお、Disc2のボーナストラックは以下の通りです。
1. "Brown Sugar" (Alternate Version with Eric Clapton)
2. "Wild Horses" (Acoustic version)
3. "Can't You Hear Me Knocking" (Alternate version)
4. "Bitch" (Extended version)
5. "Dead Flowers" (Alternate version)
6. "Live With Me" (Live at the Roundhouse, 1971)
7. "Stray Cat Blues" (Live at the Roundhouse, 1971)
8. "Love in Vain" (Live at the Roundhouse, 1971)
9. "Midnight Rambler" (Live at the Roundhouse, 1971)
10. "Honky Tonk Women" (Live at the Roundhouse, 1971)
ライヴも入っているのがうれしい。
そして特にMidnight Rambler、昨年の東京ドーム公演で
ミック・テイラーがステージに上がって一緒に演奏した曲、
早くもいい思い出になっていることに、これを聴いて気づきました。
アルバムのアートワークはアンディ・ウォーホール。
僕は、CDで初めて買ってアートワークが気に入ったアルバムは、
中古LPを探して買うことがよくあるけど、これはまだ買ってない。
ファスナーがついたジャケットはほしいのですが、でも、正直、
好きかどうかといわれれば、微妙ですね・・・(笑)。
結局のところ、ローリング・ストーンズは長く聴いているし、
僕にとっての基本でもあることがよく分かりました。
僕は、ソウルやブルーズそれにスワンプ系の音楽は、
40歳になってから漸く真面目に聴き始めましたが、
遠回りして結局たどり着いたのはストーンズだった、といったところ。
僕にとってはありがたい存在、それがローリング・ストーンズ。
今回、もうひとつ、ストーンズを熱心に聴き始めた二十歳の頃も
懐かしく思い出しました。
リアルタイムではなくても、音楽の思い出はできるものなのですね。
さて、ストーンズはほんとうにもう来日公演はしないのかな?
そんなはずはない、と、今また思い始めました。
最後は今日の3ショットです。
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