STEEL WHEELS ローリング・ストーンズ

guitarbird

2014年03月14日 22:58

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STEEL WHEELS Rolling Stones
スティール・ホイールズ ローリング・ストーンズ
 (1989)

ローリング・ストーンズ東京公演はもう終わりましたが、
僕の中ではまだ気持ちが続いています。
今回は、コンサートがきっかけで聴き直しているアルバムです。

このアルバムは、CDで買った彼らの最初のアルバムです。
この前年にCDとLPの売り上げが逆転したと記憶しています。

僕はストーンズはライヴ盤のSTILL LIFEからリアルタイムで
買っていましたが、正直、この前の2つの作品は、
もう20年もやってきてそろそろかな、といった印象でした。
今聴き直すと、それなりにいいのですが、僕がいつもいうように
当時はまだ「親父ロック」なる言葉もないし、ロックはまだまだ
時代の流行りという概念が広く残っていた頃でしたから。

実際、80年代後半は、ミック・ジャガーとキース・リチャーズの
仲が険悪になり、それぞれソロ活動に力を入れていました。
前作のOne Hitのビデオクリップでは、ミックとキースがほんとうに
喧嘩しそうになっている、という話もあるくらい。
ミック・ジャガーはストーンズに先駆けて88年にソロで来日公演を
行いましたが、ストーンズとしては入国できないからこれが
最初で最後のミックと日本で会う機会だと騒がれました。
実際はその後に来日したわけですが、ポール・マッカートニーも含め
「前科」があるミュージシャンへの寛大な措置を求めることが、
日英の外交問題にもなったという背景があっての来日でした。

やがてミックとキースは和解。
新たなローリング・ストーンズとして出発することに。
満を持して出されたのがこのアルバムでした。

そうさせたことのひとつに、CDの時代になったことがあるでしょう。
いつも言いますが、CDの時代になると、過去の作品も
魅力ある「新作」として店頭に並ぶことになり、LP時代よりも
気軽に買って聴けるようになりました、値段は高かったけれど。
そこであらためて若い世代にもローリング・ストーンズが聴かれ、
広まり、すごい人たちなんだという意識が定着したのだと。

このアルバムはおおむね好意的に迎えられました。
実際、最初のシングルのMixed Emotionsのビデオクリップでは
ミックは40代にしてこの細さ、このしなやかさ、と話題にもなりました。
もう25年も前の話ですが、そうか四半世紀も経っているのか、
今またこのビデオクリップを見てあらためて驚くのは、今のミック。
40代にして、と言われていたのに、70代でも変わっていなかった。
ほんとうに、今までの人類史上こんな人はいなかった、
ミック・ジャガーはそういう次元に達しているとの驚嘆の念があります。

新譜として初めてストーンズのCDを買って聴いた第一印象は、
やはりストーンズはストーンズだ、とほっとした記憶が。
LPで買った前作よりはずっといいな、とも。
しかし聴いてゆくと、まろやかなストーンズという印象。
ソフトではない、がつーんとは来るけれど、全体的には
40代の男らしい、角があるだけではなくその奥にある気持ちを
しっかりと感じさせてくれます。

僕は最初からこれはいいと思いました。
ただ、このアルバムがひとつだけ不幸だったのは、
まさにそれがCDの時代の最初のアルバムだったことでしょう。
過去の作品がより多く聴かれたことによって逆に、ストーンズってまだ
元気にやっているんだという話題以上ではなかったかもしれない。
そりゃそうですよね。
やはり、10年20年と聴き継がれてきた過去の名曲に比べると
新しいこと以外は負けてしまうことが多いのだから。

このアルバムは聴きやすいとも思いましたが、それも逆にいえば、
昔の曲のように胸に突き刺さるような強さやインパクトの大きさがなく、
さらりとかけて聴き通してはい終わり、という感じに映るかな。

当時の彼らは、CDで聴かれることを意識して敢えて
今の自分達らしさを表そうとしたのかもしれない。
昔のように反抗分子ではない、そんなガキが大人になって、
世の中のいろいろなことを受け入れつつ気持ちだけは変わらない。
その結果がこの音なのかもしれない。

しかし今聴くと、、やっぱり歌メロがいい曲が多いですね。
これについては曲ごとに話してゆきます。

特筆すべきは、このアルバムは音がいい、録音状態がいいこと。
ウィキペディアで調べると、このアルバムはビートルズの
プロデューサーだったジョージ・マーティンがカリブ海のモンセラ島に
設立したエア・スタジオで録音されたそうです。
僕はそれは知らなかったのですが、言われて納得。
エア・スタジオはミュージシャンの間でも人気があるそうで。
ギターの音もがつんと来るしハードなんだけど、でも、音が整っていて、
きれいに流れてくる、だから聴きやすい。

そしてこのアルバム、20代前半で聴くよりも
40歳をはるかに過ぎた今聴くとちょうどいいことに気づきました。
今はもうCDによる過去の音楽の呪縛も解けているし、なにより、
このアルバム自体がもう四半世紀を経ていますからね。
ありきたりの喩えでいえば、熟成されたワインやウィスキーのように。
聴きやすい以上の手応えがある素晴らしい作品だと再認識しました。

このアルバムでひとつ言わなければならないのは、
ビル・ワイマンが参加した最後のスタジオアルバムであること。
いなくなってもう20年以上が経っているし、後任のダリル・ジョーンズが
すっかりバンドに溶け込んでいるのは確かですが、でもやはり
最後のアルバムだったのはいろいろな感慨がありますね。

今回このアルバムをまた聴いているのは、3月6日に1曲
この中から演奏されたからですが、何度か聴いて、
僕にとっては大切なストーンズのアルバムであることが分かりました。
そして、この素晴らしいアルバムが埋もれてしまわないようにとの
願いを込めて記事にした、という次第です。


02



1曲目Sad Sad Sad
いきなり「じゃららじゃーん」とギターをかき鳴らして始まる。
おお、これはまごうことなきストーンズだ。
やはりサビのタイトルを歌う部分の力強さ、口ずさみやすさ、
当時はコンサートでも盛り上がったのではないかと。
ストーンズのアルバムの1曲目としては最上級の曲でしょう。


2曲目Mixed Emotions
「混在する感情」というのは、ミックとキースの仲のことだと
当時はまことしやかに言われました。
この曲はクレジットはグリマー・ツインズでも、ミックのものでしょうね。
復活を高らかに宣言するチャーリー・ワッツのドラムスのフィルイン。
ずっと高音で歌い、ギターの響きとも相まって高揚感がある曲。
サビでキースのドスが効いたコーラスが被りますが、それがなんだか
やっぱりまだミックが癪に障るかのようにミックの声を消している。
これが歌っていて困るんですよね。
ミックのほうを歌うつもりが、つられてキースになってしまう・・・
まあそれも「混在する感情」なのでしょうけど。
2回目のサビの後で一度しか出てこない中間部に入るとミックの
ヴォーカルがより感傷的になり、キースのギターも刺さってきて、
最後はミックの声が上ずるのがまたいい。
今回のコンサートではやらなかったけれど、CDを聴き直して、
今はこの曲をいつも口ずさんでいる状態です(笑)。


3曲目Terrifying
ソウルっぽい雰囲気のちょっとかげりがある曲。
シンコペーションで入る後ろのギターが気持ちを乗せてくれるし、
タイトルの言葉を歌う前にそれまでになかったギターフレーズが
出てくるのにはっとさせられる。
もちろんギターソロも鋭い。
やはりギターワークのセンスは最高ですね。
都会的な響きがするけれど、そういえばこのアルバムはみなそうだ。


4曲目Hold On To Your Hat
アップテンポでシャッフルしたちょっと慌ただしい響きの曲。
サビの前で派手にかき鳴らすギターがまたいい。
ミックも吠えてますね。


5曲目Hearts For Sale
これまたソウルっぽい雰囲気。
ストーンズのミドルテンポのほの暗い曲でよくあるタイプだけど、
円熟味と新しさが同居したこの曲にこのサウンドはぴったりで、
新境地を開いたともいえるかもしれない。
それにしても、何かに怒っているのかな、そうだろうなあ、
「セール中の心」だしなあ。
ミックの吐き捨てるような歌い方が恐くもある。


6曲目Blinded By Love#
カントリータッチのソフトで穏やかな曲。
これは最初から強く印象に残り大好きな曲でした。
ストーンズのきれいな部分をきれいな音の中に集めた、という感じ。
後半にフィドルも入るし、心がきれいに洗われますね。


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7曲目Rock And A Hard Place
LPではここからがB面ということになるのでしょうけど、
CDの時代でも曲の流れとしてここからB面であることを
強く感じさせる音作りもなんだかうれしかった。
そしてこの曲は80年代のストーンズでも屈指の傑作かと。
この曲こそ、ストーンズらしさを新しい感覚で表したもので、
R&Bからロックに至った彼らの音楽をダイジェストした上で、
あらたに先に進もうという強い気持ちが分かる曲であり、
ミックとキースは本気なんだぞと感じさせられたものです。
この期に及んで新しい、というのがすごい人たちだなとも。
女性のヴォーカルがこの曲では特に目立ちますが、見ると、
今回のコンサートにもいたリサ・フィッシャーはもうこの時から
いたんですね、これは知らなかった。
この曲は今回のコンサートで演奏してくれないかなと
密かに期待していたのですが、残念ながらそれはなかった。
でも、CDで聴き直してますます大好きになりました。


8曲目Can't Be Seen
このアルバムのいいところはたくさんありますが、
キースの歌が2曲で聴けることもひとつでしょう。
後ろ暗さがあって何かから逃げるようなキースのヴォーカル、
もうこれはキースにしかできない。
語るような部分もやはりかっこいいとしか言いようがない。
キースはよく聴くと結構こぶしを回して歌ってますね。


9曲目Almost Hear You Sigh
「ふうううう~ うううう~う」
ストーンズのコンサートの記事でも書きましたが、
彼らにはハミングが印象的で歌いやすい曲が多いですね。
感傷的なバラードのこの曲はその最たるもの。
多分キースとロンの男臭いハミングのコーラスは哀愁の塊。
ミックもファルセットを交えながら気持ちを吐き出すように歌う。
ガットギターのソロも曲の雰囲気にぴったり。
今聴くと、この曲こそ名曲じゃないか、と。
今は2曲目とこれをよく口ずさんでいます。


10曲目Continental Drift
インド風のイントロには60年代に気持ちが飛んで行く。
全体的にインドっぽい響きの曲、不思議な高揚感がありますね。
もしくは、クスリによる精神の高揚と幻惑を表しているかもですが・・・
この曲は1990年の東京ドームコンサートで演奏しましたが、
ミックの顔がスクリーンに大写しになり、画面がフラッシュしながら
次から次へと顔が変わっていく演劇的な演出が印象的で、
今でもよく覚えています。


11曲目Break The Spell
すいません、今回聴いて、この曲だけあまりよく覚えていなかった。
当時よく聴いたんだけど、最後の前という場所のせいかな。
今となってはビル・ワイマンが最後だからか、ベースが全体を
覆いつつ引っ張っていくブルージーな曲。
とくればミックのブルースハープ、重たくて迫力がある響き。
コンサートでもそれを実感しました。


12曲目Slipping Away
そして今回コンサートで演奏したキースの曲が最後に。
僕はアルバムの最初と最後の曲にはかなりこだわりますが、
これはもう余韻残しまくり。
ほんとうに気持ちが遠くに遠くに運ばれていくよう。
キースもこれほどまでに叙情的な曲ができるんだと驚くとともに
ミックとキースの仲直りはほんとうだな、と感じました。
それにしてもこの曲はいい。
Bメロというのか、♪すりっぴなうぇぇ~~~いという部分がいい。
コンサートで聴いて思い入れもできた曲、それが最後にある
このアルバム、リアルタイムでもあるし、やはり愛着がありますね。




このアルバムは最初はSONYから、続いてVirgin、
そして今はPOLYDORから出ています。

繰り返し、若い頃より今だから心からいいと感じました。
というのも、このアルバムは好きなことは好きだけど、
やはり僕自身もこの後で過去のアルバムをもっと好きになり、
自分の中でも埋もれかけていたアルバムになっていたのです。
そう、僕はストーンズの過去のアルバムは、CDの時代になって
初めて買って聴き始めた人間ですから。
ベスト盤のHOT ROCKSは最初から20番目くらいに買ったCD
というくらいに早くから、まだ10代のうちから聴いていましたが。
このアルバムは、いつか聴き直してより好きになる時が
来るに違いない、という思いをずっと抱いていましたがが、
その"Someday"が意外と早くやって来ました。

ストーンズはCDの時代になって日本でも漸く人気が出ましたね。
といのも、何とかのひとつ覚えですが、この前作までのストーンズの
日本でのLP売り上げ枚数は、ビートルズのLET IT BE(百万枚超)
1枚よりも少ないと言われてましたから。
それが、CDの時代になり、この次の次のアルバムまで連続で、
日本での売り上げ新記録を伸ばしてゆくことになりました。
そういう意味でも日本においては意味のある1枚といえるでしょう。

そして、今流行りかどうか分からないけれど今風の言葉で言えば、
このアルバムが充実した作品として受け入れられたことが、
「レジェンド」への第一歩だったのかもしれません。
今風と書いたのは、今日本で使われている「レジェンド」という言葉は、
歴史を作りながらも現役を続けているという意味に解釈しているので。

さて、コンサートが終わるとすぐに気持ちが切り替わるものなのかな。
僕はそうではなく、ポールはいまだに続いている。
今回のストーンズ、実は自分の中では事前にはあまり盛り上がらず、
むしろその先のボブ・ディランへの期待が膨らんでいました。
しかし、いざ実際に行くとやっぱり楽しかったし、素晴らしかった。
自然とストーンズを聴きたくなるし、コンサートでやった曲は
よく口ずさんでもいます。
♪ ほぉ~おおおお~んきぃとんくうぃまぇん、といった具合に(笑)。
僕はAFTERMATH=余波を楽しみたい人間なのでしょうかね。
逆にいうと予知能力がなく、事前にはあまり盛り上がらない、か・・・

というわけで、ストーンズの話題もまだ続くかもしれない(笑)。
いずれにせよ、ストーンズも自分の基本であることは
コンサートとこのアルバムでよく分かりました。

大人のストーンズを楽しみましょう!


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最後は、雑然とした車の中の犬たちでした。




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