WILD FRONTIER 追悼ゲイリー・ムーア

guitarbird

2014年02月07日 20:54

01


WILD FRONTIER Gary Moore
ワイルド・フロンティア ゲイリー・ムーア
 (1987)

本日、ゲイリー・ムーアが急死したという報に接しました。
2011年2月6日の朝、休暇先のスペインのホテルの部屋で
亡くなっていたということです、享年58歳。
死因は現時点ではまだ特定されておらず、検視が行われるとのこと。
僕がネットで初めて見たニュースでは既に、シン・リジィで
一緒に活動したスコット・ゴーハムヤブライアン・ダウニーの
哀悼の意を表すコメントが紹介されていましたが、
あまりにも突然のことで、僕もさすがにショックでした。
今夜は急きょ、ゲイリー・ムーアの記事を上げることにします。

コンサートに行って実際に接したことがある人が亡くなると、
ショックはより大きいですね。
ゲイリー・ムーアは昨年、21年振りに来日公演を行いましたが、
その21年前の時に僕は、友だちと一緒にコンサートに行きました。
でも正直言えば、それは誘われてついて行っただけでした。
場所は中野サンプラザ、それが初めてのコンサート会場で、
それはおろか中野の駅を降りて街を歩くことすら初めてだから、
カメラ雑誌で有名な中古カメラ店に行けることのほうが楽しみ、
それくらいののりでいました(笑)。
ただ、コンサートに行く以上は聴いておかないとということで、
当時の最新作AFTER THE WARは買って聴いていたのですが、
でも、中には好きな曲もあるというくらいでした。
しかし、コンサートが始まると存在感の凄さに圧倒されました。
コンサート自体の経験もまだ少なかったのですが、それ以上に、
ギターで次々と攻撃されているようで、音を体で感じていました。
僕がゲイリー・ムーアを真面目に聴くようになったのはそれからで、
行ってよかった、間違いない、貴重な体験でした。
その時、隣にいた白人の外国人が大声でやたらと叫び続けていて、
当日はすごく気になりましたが、今はいい思い出、かな(笑)。
なお、そのコンサートは当初、バンドのドラムスが、かの
コージー・パウエルということで友だちが楽しみにしていましたが、
彼は来日直前に脱退してしまい、他のドラマーが代わって演奏して、
友だちはかなりがっかりしていたことも覚えています。
コージー・パウエルは、後にブライアン・メイのコンサートで
ついに姿を拝むことができたのですが、でも彼もその後、
あまりにも早くに鬼籍入りしてしまいました。

少し遡って、僕が最初にゲイリー・ムーアを意識したのは、
1982年のヒット曲Always Gonna Love Youでした。
中3のその年はビートルズを超えて洋楽に興味を持ち出した年で、
大晦日の夜にNHK-FMでその年の洋楽ヒット曲を振り返る番組があり、
そこで流れていたその曲がとてもいいなと思いました。
エアチェックして暫く聴いていたのですが、でもその時は、
レコードを買うには至らなくて、10年以上が経ってから
CDを初めて買って聴いて再び感動した覚えがあります。
まあだから、コンサートに誘われて、興味はありました。

僕が本格的に好きになったのは、その後のブルーズのアルバム
STILL GOT THE BLUESで、以前記事にしましたが(こちら)
ブルーズというよりロックの基本を素晴らしい演奏で聴かせてくれ、
ギター弾きとしても一気にゲイリーへの尊敬の念が増しました。
ジョージ・ハリスンが作曲とギターで参加したのもうれしかった。
そのジョージも、僕がコンサートで見て鬼籍入りした人、か。

その次のAFTER HOURSもブルーズ路線の続きでしたが、
二匹目のどじょう以上に素晴らしく聴かせてくれました。
彼はしかしその後、僕から見ると音楽的に迷走を始めてしまい、
熱心に聴かなくなり、一時は買うことすらなくなっていました。
元クリームの2人、ジャック・ブルースジンジャー・ベイカー
と組んだBBMはかなり期待していたのですが、そこそこだった。
(でも、今それを聴き直すといいと感じるかもしれない)

ゲイリー・ムーアで最近僕が印象深かったのが、
フェンダー・ストラトキャスター50周年を記念したコンサートの
模様を収めたDVD、STRAT PACK(記事はこちら)における、
ジミ・ヘンドリックスのRed Houseの怪演ですね、凄かった。

正直、僕のような人間がこうした記事を書くのは、或いは
違うかもしれないと思いつつ、でも、どうしても書きたかった。
今回、記事を書くにあたり、やはり、僕がいちばん好きな
このアルバムを語らせてもらうことにしました。

02 2011年2月7日の朝の風景その1


WILD FRONTIERは、コンサートの時に最新だったアルバムの
ひとつ前に出ていたものですが、コンサートに行ってから、
すぐにCDを買い求めて聴き始めました。
だから僕の中では2番目に古いつきあいのアルバムです。
そして、僕がとりわけ大好きな彼のアルバムでもあります。

しかし、このアルバムを選んだのはいいけれど、
実は、あまり書くべきことが浮かびません。
浮かびませんが、でもしかし、
「アイルランドの香りが漂う哀愁のハードロック」
もうこれだけで十分ではないかな。
その言葉に魅力が凝縮され、その類の音楽の代表的傑作であって、
あとは聴きさえすれば想いを共有できるアルバムと僕は思います。

ゲイリー・ムーアは北アイルランドのベルファストに生まれ、
後にダブリンに移って音楽活動を始めた人だから、
黙っていてもアイルランドの香りがするのかもしれません。
僕が最初に聴いた曲も、最初に買ったCDでもそう感じました。
しかしこのアルバムはとりわけアイルランドの香りが強いです。
なぜなら、このアルバムは、その前年に亡くなった
アイルランドの同朋であり旧友でもある、シン・リジィ
フィル・ライノットに捧げたものであるから。
シン・リジィは先日記事(こちら)にしたばかりですが、
そこで僕は、ゲイリー・ムーアについてはまたの機会に話します
と書いたけど、またの機会が、こんなかたちであまりにも早く
訪れるなんて、まったく思ってもみなかった。

このアルバムは、レス・ポールの音色がとりわけ響いてくる
アルバムの1枚でもあるでしょう。
それはまさに官能の響き。

さて、聴いてゆきますか。
なお、このアルバムはCD化された際に既に間に
ボーナストラックが挟み込まれていたので、
ここでもそれについては触れてゆきたいと思います。

作曲者はいつものように曲名の下に記します。

03 2011年2月7日の朝の風景その2


Tr1:Over The Hills And Far Away
(Gary Moore)
レッド・ツェッペリンの曲とは同名異曲ですが、どちらも
抒情的で歌メロがよくて風景が目に浮かぶというのは、
歌のイメージがある程度共有できることの証左ではないかなと。
あ、曲はまったく似ていない、あくまでもイメージの話です。
僕が聴いている国内盤には伊藤政則氏の解説がありますが、
それによれば、アイルランドのトラッドである
O' Keeffe's Slideの旋律が引用されているということで、
ほんとうに丘を渡る風の中に立っているような響きですね。
サビを口ずさんでいると勇気百倍湧いてきます。


Tr2:Wild Frontier
(Gary Moore)
続いて始まるアルバムのテーマ曲。
この2曲はまるで組曲のようで、この流れが素晴らしい。
イントロのギターが長く泣き続ける。
歌メロのサビが素晴らしい上に全体に旋律がうねっていて
魂がアイルランドの丘に飛んで行く感覚に陥ります。
あ、さっきからそんなことばかり言っていますが、僕は
アイルランドには行ったことはない、あくまでもイメージです(笑)。


Tr3:Take A Little Time
(Gary Moore)
少しポップなほうに幅を持たせた曲ですが、
彼本来のアイルランド色が自然とにじみ出ている響き。
サウンド・プロダクションには80年代の雰囲気がありますが、
それには染まりきっていないのが、このアルバムが
今聴いても色あせない部分だと思います。


Tr4:The Loner
(Gary Moore / Max Middleton)
ゲイリーの代名詞的曲といえば「パリの散歩道」ですが、
この曲はその続編的インストゥルメンタル曲。
これはもう素晴らしく感動的としか言いようがありません。
ギターの音色にひたるだけひたって立ち直れなくなります。
僕が最初からずっと大好きだった曲ですが、でも、今日聴くと、
自らの葬送曲をゲイリー自ら奏でているようで、とても悲しい。
まじめに泣ける曲のひとつですね。

【2/8補足】
この曲は元々コージー・パウエルのアルバム
OVER THE TOPに収められていたものを
ゲイリー・ムーアが取り上げたものであるということを、
弟から聞いたので、ここに補足させていただきました。


Tr5:Friday On My Mind
(George Young / Harry Vanda)
デヴィッド・ボウイがカバーアルバムPINUPSで歌っている、
だからカバー曲であることはもちろん知っていたのですが、
オーストラリアのイージービーツ The Easybeatsの1966年の曲、
ということを、今回初めて、きちんと調べて分かりました。
そこでふと作曲者に目をやると、あれれ、ヴァンダ&ヤング、
AC/DCをプロデュースしていた人たちであり、ヤングは
マルコムとアンガスのヤング兄弟の兄弟のこと、か。
調べてみるものですね、またこれで広がってつながりました。
曲の前半はマイナー調でこのアルバムに通じる部分があり、
これを取り上げた選曲も素晴らしい。
Bメロは本来はもっと明るく聴こえるのだと思いますが、ここでは
まるで何かに押さえられているようで、それほど明るく感じません。


Tr6:Strangers In The Darkness
(Gary Moore / Neil Carter)
アルバムではいちばん大人しくて静かな曲。
このアルバムの曲はタイトルからして雰囲気が伝わってきます。


Tr7:Thunder Rising
(Gary Moore / Neil Carter)
これも1、2曲目と同じ傾向の曲だけど、このアルバムでは、
意図的に同じイメージの曲を揃えたような気がします。
もちろんそれでいいんです、だからこそ思いっきり
アイルランドにひたることができるのだから。
これは間奏がいかにもそれらしい旋律。
雷をモチーフにした曲には、自然への畏敬の念を感じます。
ところで、僕が聴いているCDは、この曲だけ他よりも
音が小さく感じられるのはどうしてだろう。


Tr8:Johnny Boy
(Gary Moore)
ゆったりとした流れ、子守唄のような響きの曲。
自作ですが、これはもうトラッドですね。
ドラムスを省きしっとりとした演奏の中にゲイリーの
哀愁のヴォーカルが浮かんでは消え、また浮かんできます。
でも、これもやはり今日聴くと悲しいなぁ。


Tr9:Over The Hills And Far Away (12" Version)
Tr10:Wild Frontier (12" Version)

1曲目と2曲目の12インチシングル・バージョン。
当時は流行りましたね、長尺もののバージョンやリミックスが。


Tr11:Crying In The Shadow
(Gary Moore)
これは本田美奈子.に提供したThe Cross「愛の十字架」
タイトルと歌詞を変えて録音しシングルとして出したもの。
僕はその曲を知らないのですが、彼女のその話は当時は有名で、
ブライアン・メイとも共演したことも話題になったっけ。
その本田美奈子.も若くして鬼籍入り・・・
この曲はそう言われれば歌謡曲的な響きがありますが、
哀愁という点で日本とアイルランドには共通点があるのかもしれない。
またそういう曲だからか、歌メロがはっきりとしています。

なお、僕が聴いているこの国内リマスター盤CDには
以下の3曲がさらなるボーナストラックとして収録されています。

Tr12:The Loner (Extended Mix)
Tr13:Friday On My Mind (12" Version)
Tr14:Out In The Fields (Live)

以下のリンクは同内容の海外盤です。



このアルバムが出た頃は、アメリカでは爆発的な
ヘヴィ・メタルがブームが起こっていましたが、
ゲイリー・ムーアはそこには乗り遅れた感がありました。
それがいい、悪いという問題ではないけど、しかし、そのことで逆に、
ゲイリー・ムーアは通好みの本格派というイメージが強くなり、
リスペクトの対象の存在として大きくなった、そんな感じもします。
まあ、元々が孤高のギタリストですからね。
周りがヘヴィメタルだと騒いでいた中で、俺には関係ない、
そんなもんより大切なことが俺にはあるんだ、
フィル・ライノットへの思いをなんとしても伝えたいんだ、
という男意気を、このアルバムには感じます。
孤高という言葉が、このアルバムにはふさわしい。

ゲイリー・ムーアは、突然、旅立ってしまいました。
最近亡くなったロッカーで、これほど何の予兆もなく
ほんとうに突然逝ってしまった人はいなかった。
だから、余計にショックが大きいですね。

10代の頃からよく知っているロッカーが、
またひとり、連れてゆかれました。

でも、残された音楽は永遠のもの。
これからも彼の歌を、ギタープレイを聴き、
ずっと心にとどめてゆきます。

ありがとう。

安らかにお眠りください。



04





あなたにおススメの記事
関連記事