01
今月の読書2012年3月号
今年になってなんとなく初めてしまった連載記事。
なんとなく最初に始めた毎月19日に上げることに決めて、
今月はなんとか(余裕で?)締切に間に合いました(笑)。
今月は
7冊、読了した順に紹介します。
02
ご近所富士山の「謎」
有坂蓉子
講談社+α新書
僕が通っていた幼稚園は台東区下谷にありますが、近くに
小野照先神社があり、そこには富士塚があって、年に1回、
幼稚園の行事として「富士登山」をしていました。
富士塚の魅力にとりつかれた美術家である著者が、
自らの足で回った首都圏の富士塚の印象を綴ってゆきます。
富士塚は富士山に登れない人が「講」と呼ばれる集団を形成し、
富士山の岩を運ぶなどして地元に作った富士山を模した岩山で、
低いもので3mから高いものは公園の小山ほどのものまであります。
富士塚は昔の人たちの富士山への思いが今でも脈々と続いていて、
何かご利益がありそうな雰囲気を醸し出しています。
美術家ということで山の造形や登山道、石碑の配置など、
美的観点からもレポートしているのは新鮮な視点でした。
そしてこれも充実した「ブラタモリ」本、楽しい街歩き本ですね。
小野照先神社は東京の弟の家から歩いて5分の場所ですが、
そこは年に2日しか登ることができないので、都内の他の場所で
今度東京に行った際には登ってみたいと思いました。
余談、これはAmazonで古本を買ったのですが、扱っていた
古書店が台東区浅草にあるのがうれしかった。
03
鯨とイルカのフィールドガイド
大隅清治(監修) 笠松不二男・宮下富夫(著)
本山賢司(イラストレーション)
東京大学出版会
これは5年前に東京の弟の家を片づけた時に再発見して、
札幌に持ってきてあったのがいつしかまた眠ってしまい、
それを先月またもは再々発見して読み始めた本。
1991年に出た本で当時はまだ社会全体として今ほど自然に対しての
意識や興味が高くなかったので、当時この本は画期的でした。
日本近海で見られる可能性がある種類をイラストと説明文と時々写真で
紹介するだけの本ですが、自然に触れられた気持ちになります。
ただ、この本から20年以上が過ぎ、その間に鯨の新種が発見されたり、
呼称が変わるなど変化があることが分かりましたが、それは逆にいえば
この20年で鯨やイルカへの一般の関心が高くなった証拠でしょう。
なお現在は版型が一回り大きくなった新版が出ているのを先日書店で
見つけましたが、中は確認しませんでした、欲しくなるので(笑)。
04
クジラ・イルカ生態写真図鑑
水口博也
講談社ブルーバックス
図鑑を見てクジラやイルカへの興味が増すと同時に、この20年間の
学術的な進歩や新知見などにも触れておきたくて買ったのがこの本。
水口博也は著名な海洋写真家ですが、その人の本が新書で買える
というのがこの本の本としての大きな意味と価値だと思います。
全種ではないけど写真図鑑にもなっていてこれで1280円はとてもいい。
新種として発見されたツノシマクジラについても触れられていましたが、
「バンドウイルカ」が「ハンドウイルカ」に名前が変わっていたのは、
なんとなく知っていましたがこれで理解しました。
手元に置いておいてちょくちょく目を通したい本ですね。
そしてこの2冊で僕もイルカ・クジラを見に行きたいと思うようになりました。
北海道では室蘭や知床でウォッチングをしていますが、
もっと普通にただ単に海に行って見られたらいいな。
なんて、ほとんど海に行かない人間のくせに(笑)。
05
創造
エドワード・O.ウィルソン(著) 岸由仁(訳)
紀伊國屋書店
生物多様性について考える機会があったので、ちょうどいい、
昨秋に買ってあったこの本を読みました。
つまり買ってすぐに読まない「積読」状態だったわけですが(笑)。
ともかく、この本は進化論を信じていない一部キリスト教の
人々に対して呼びかけるというかたちで自然保護の必要性を
訴えるといういかにもアメリカ人的な視点で書かれています。
生物は神の創造物であり人間の手ではどうすることもできない、
という考えを持っている人が結構多いことが僕には驚きでした。
ナチュラリストは子どもの頃の体験が大事だと著者は説きます。
そ子どもには自然の中で思うがままに遊ばせることであり、
最初の段階は大人が教えるものでもない、と。
どちらかというと思想書的な本ですが、生物好きとしてはそれでも
楽しく、興味深く読めて考えさせられる1冊でした。
06
今日も かき氷
蒼井優
マガジンハウス
最初にお断り。
これは、蒼井優だから買ったわけで・・・あります(笑)。
でも正直いえばかき氷は特に好きというわけでもないので、
蒼井優じゃなければ買わなかったのは確かです。
小学生時代に旅行先の台湾でかき氷に目覚めたという蒼井優が、
雑誌の連載として首都圏、中京、京都、沖縄そして台湾と
おいしいかき氷を求めて自分の足でお店を巡り歩いたフォトエッセイ。
彼女はほんとうにかき氷が好きなことがよく分かり、文章表現も
自らの言葉で語っていてとてもよく伝わってきました。
何よりかき氷といっても絵的に美しいものがあって、作った人の
感性はもはや芸術的、そこに驚き感動しました。
りんごを使ったオリジナルシロップを作っているのも、
蒼井優という人はただ者ではないと思わせる部分です。
かき氷というと氷を削ってシロップをかけるだけというのは、
はい、僕はほんとに古い人間で偏見がありました(笑)。
真面目な話、見てすぐにかき氷を食べてみたくなりました。
とはいえ今はまだ春にならない雪の中の3月・・・
でもほんとにこの本でかき氷への見方が変わりました。
どれがおいしかったと写真で紹介できないのは残念ですが。
ひとまずスーパーで練乳バーを買って我慢しています(笑)。
07
日本人の美意識
ドナルド・キーン(著) 金関寿夫(訳)
中公文庫
大震災を機に日本に永住することを決意し、今月
日本の国籍を取得し日本人になられたドナルド・キーン氏。
日本名の雅号「鬼・怒鳴門」=「きーん・どなるど」とは、
鬼怒と鳴門からとったものということで、日本を愛するけれど、
日本に対してはものを言っていきたいという意気込みを感じます。
そんなキーンさんの代表的なエッセイを集めた文庫を読んでみました。
もっとも、買ったのは日本に永住すると決めたことをニュースで知った
昨秋のことで、少し寝かせておいたのですが。
読んでみてまず、ちょっとばかり恥ずかしくなったこと。
僕は「源氏物語」を読んだことはないし、能も歌舞伎も人形浄瑠璃も
見たことがない、これで日本人と言えるのだろうか、と。
ましてや洋楽ばかり聴いているし・・・(笑)・・・
キーンさんの筆致は日本への愛情を基にしつつ冷静に分析し、
しかもきわめて読みやすい明晰な文章で楽しく読むことができました。
実は、買って少し寝かせたのは、ページを開くと改行が少なくて
文字が詰まっていて難しそうと感じたからでしたがしたが、
あまりにすらすら読めるので自分はバカだったと反省。
すらすら読めるのに中身が詰まっているのはいかにも読書した
という満足感が高い、そんな本でもありますね。
キーンさんには日本人らしさをあらためて教えてもらいました。
一度ぜひ講演会でお話をうかがいたいです。
ぜひまた何かを買って読みたいです。
「源氏物語」も読んでみたいと思ったけど、長いかなあ・・・
自分が日本人であることが好きな人にはとてもおすすめする1冊です。
08
ウッドストック行最終バス
コリン・デクスター(著) 大庭忠男(訳)
ハヤカワポケットミステリ
今月最後は、ディック・フランシスと並び、僕が最も好きな英国の
ミステリ作家双頭のひとり、コリン・デクスターの1975年のデビュー作。
デクスターの小説の主人公であるモース警部は、何年前だろう、
英国で、かのシャーロック・ホームズを抑えて最も人気がある
ミステリ系の刑事・探偵キャラクターに選ばれテレビ化もされた
と書けば英国での人気ぶりが分かるでしょう。
モース警部は曲者で我が強くてロマンチストでもあり、
クロスワードパズルが趣味でワーグナーが好きという人物。
彼を補佐するルイス刑事はモース警部の理不尽な要求にも
文句を言いながらもついてくるという信頼関係が成り立っていて、
それもホームズとワトソンの関係を想起させるものだとか。
この作品は読むのは3回目だけど、犯人が誰か覚えていなかった。
というのも、モース警部が主張していた自説を簡単に曲げるなど、
文章がクロスワードパズルさながらにアクロバティックな展開を見せ、
ちょっとでも読み落とすと何かが頭の中で欠けたまま最後を迎えてしまい、
実は僕も、今回もそれをやってしまったのでした・・・
こういうタイプのミステリはちょっと他にないでしょうね。
だからある意味、ずるいという読後感を持つ人もいるかもしれない。
しかし魅力的なのはモース警部の心象描写で、気がつくと、ミステリ
としてよりもそちらにひかれている自分を発見します。
今回は女性に一目ぼれしてデートして振られるまでの一部始終が、
ロマンティックでセンチメンタルな文章で綴られています。
パズルのような謎解きとロマンティックな心象描写というのもまた
他には類を見ない繊細なミステリだと思います。
モース警部ものはもうシリーズが終わっており、僕は文庫ですべて
持っていて、最後の話は洋書の原書も買いましたが、今度は、
日本で初めて紹介されたポケミスですべて集めて読むつもり。
そう思うと早く次が読みたくなってきた(笑)。
ところで一般論的な余談なので1行あけましたが、ミステリを読む時、
前半と後半で読む速さが違うと感じませんか?
ミステリは前半で状況や登場人物を把握するのにゆっくりと読んで、
話の筋も見えた後半は読むのが速くなるのかなと思います。
今回も、後ろ半分は前半分の1/4で読めたような気がします(笑)。
09
今朝はこの写真を撮った時点でマイナス5度くらいかな。
春に向かって進んでいるはずが、2月並みの寒さ。
でも、日の出が早くなり太陽の光の量が増えたせいか、
寒さの質が2月とは違って、あくまでも表面的な寒さという感じです。
なんて言っても寒いものは寒いですが(笑)。
読書、来月はまた6冊紹介できるかな。
明日は休日だからまた本を読める、か。