INNERVISIONS スティーヴィー・ワンダー

guitarbird

2014年08月09日 13:29

01


INNERVISIONS Stevie Wonder released in 1973
インナーヴィジョンズ スティーヴィー・ワンダー

先週の木曜日だったかな、
NHKの午後7時のニュースを見ていたところ、
スティーヴィー・ワンダーさんが3年振りの来日」
というニュースが、映像つきで流れてきました。
今年の夏のフェスティバルに参加することは知っていましたが、
洋楽バカの僕は、おお、NHKでもこんな話題を取り上げるんだと、
うれしくなったり、不思議だったり、でもうれしかった。
翌日の「めざましテレビ」でもその話題が取り上げられていましたが、
スティーヴィーは、記者会見の場で息子さんと一緒に歌ったり、
即興で歌も披露したそうで、やはりいくつになっても
根っからのエンターティナーであると分り、またくれしくなりました。

そのニュースを見てふと、そういえばと思い、
僕のBLOGの記事の下書きを確かめると・・・やっぱりあった。
この記事は、もう1年以上前から下書きに入っていましたが、
でも、記事を上げるタイミングをなんとなく逸し続けていて、
その間に思ったことを何度も書き足していました。
そして、今回の来日はそのいい機会だと、上げることにしました。

僕は、まだ洋楽を聴いていなかった小学生の頃から、
スティーヴィー・ワンダーの名前は知っていました。
後に僕が聴くようになって、彼の曲は何曲も聞き知っていたように、
スティーヴィー・ワンダーは時代を象徴する存在だったのでしょう。

やがて僕はビートルズをきっかけに洋楽を聴くようになりますが、
その過程で「ソウルの壁」に何度も跳ね返されてきたことは、
今まで何度か記事で書きました。
ソウル、ブラック、R&B、つまり黒人のポップスは、僕は、
興味を持って時々買って聴くけどすぐに飽きる、それが20年以上続き、
一昨年、40歳を過ぎて、ようやく本気で聴けるようになりました。
どうしてすぐに飽きるのか、漠然と思っていたのは
「ソウルは曲がよくて楽しければそれでいい、それ以上は望まない」
という姿勢で作られている音楽ではないかな、ということでした。
積年の謎を解きほぐしてくれたのは、さいたまのソウルマニア友達でした。
僕がソウルを傾聴するようになってから会って音楽談義をした際に、
彼は、僕の積年の思いを、異口同音にほぼそのまま言いました。
僕は、そうかやっぱりと、膝を打つ前に友だちに言いました。

僕はビートルズから聴き始め、本を読みながら聴き進めたせいで、
10代の頃から、アルバムとしてどれだけしっかりと作られているかを、
主眼に置いて聴き続けてきました。
いわゆる「アルバム至上主義」ですね。
いい曲、すごい曲、名曲中の名曲が入っていても、
アルバムとして通して聴いて良くないものはあまり好きではない。
若くてとんがったロック野郎だったころは、はい、そうでした。
今はもう年をとり、幾らかでも心も丸くなりましたし、
音楽の聴き方も変わったので、それだけが観点ではありません。
しかし、今でもそういう視点を失って聴いているわけでもなく、
流れが素晴らしいアルバムに出会うと、やっぱり感動します。

スティーヴィー・ワンダー。
僕が初めて買って聴いたのは、70年代の自作自演時代のベスト盤
ORIGINAL MUSIQUARIUM I (記事はこちら)で、その後に、
I Just Called To Say I Love Youの12インチシングルを買い、
さらにPart Time Loverが入ったIN SQUARE CIRCLEが、
オリジナルアルバムの新作としては初めて買ったものでした。
しかし、僕は、そのアルバム、当時はやはりロック人間で、
アルバムとしてはそれほど面白くないかなとすぐに飽きました。
世の中というか評論家の間でも、昔ほどの作品じゃないと言われていて、
そういう外野の声も、当時は影響したのだと思います。
でも後年、Overjoyedという名曲に高校時代に出会えてよかった、
と思うに至りましたが。

少しして、今回記事にしたこのアルバムは、
「ロックのようにアルバムとしてしっかり作ることを目指していた」
ということをレコード評の本などで読んでいたので、
いつか買おうと思っている間にCDの時代になり、ついに買いました。
そして実際に買って聴くと、期待通り、或いは期待以上に、
曲はもちろんだけど流れが素晴らしいアルバムだと実感しました。

アルバムとして良いというのは、
「コンセプトもしくは主眼がぶれていないこと」「アルバムの流れ」
「曲の配置」「曲のばらつきの(少)なさ」
「聴き終って残るものの大きさ」「メッセージ性の有無」などなど
いろいろありますが、意外と重要な要素が
「緊張感が漂っていること」だと思っています。
それは「集中力」「創作意欲の高さ」といえるかもしれないし、
バンドの場合は「メンバー間の関係性」も反映されるでしょう。
もちろん、そうではない名作傑作アルバムも多数あるでしょうけど、
僕が今ぱっと浮かぶものは「緊張感」がないものはあまりないです。
ただし、緊張ばかりしていても聴いていて疲れるだけ。
ユーモアや楽しさと緊張感との兼ね合いが絶妙なアルバム
それが、聴いていて本当に素晴らしいと僕が感じる作品です。

このアルバムにある「緊張感」は、僕がそれまで抱いていた、
ソウルという音楽へのイメージとはまったく違うものでした。
それもそうですね。
このアルバムは、もはや有名な話ですが一応説明すると、
モータウンの看板歌手であったスティーヴィー・ワンダーが、
二十歳を過ぎて自分のお金を自由に使えるようになり、
当時最先端だったシンセサイザーを買ってスタジオにこもり、
驚異的なアルバム「作品群」を作り上げた、その中の1枚ですから。
そして当時、マーヴィン・ゲイとともに、
自作自演が基本的には認められていなかったモータウンにおいて
「自作自演革命」を起こした画期的なアルバムの1枚。
このアルバムはそういう側面を持っていることもあって、
ロック人間がすんなりと入っていけたのだと思います。

しかし、アルバムには「緊張感」が大切だというのは、
僕が「アルバム至上主義」だったことの名残りかもしれません。
今は、繰り返しますが、「とにかく楽しくていいなぁ」
それで満足するものも多くなりました。
多少のアラはその人らしさと捉え、むしろ好きな要素にもなりました。

まあしかし、そんな小難しいことを振りかざさなくても、
このアルバムがとにかく素晴らしいことは、誰もが感じるはず。
僕は物事について考えることが好きなので、
とにかく大仰に考え過ぎるきらいがあるのですが、
音楽というのは実際はそういうものだと思いますし。

ただ、僕もまだ若かったので、スティーヴィーもマーヴィンも、
自作自演時代のは大学生の頃に一通り買って聴きましたが、
60年代の「歌手」時代のものは聴かずにずっときていました。
マーヴィンなんて、60年代のものは、
今年になってようやく聴くようになったくらいですからね(笑)。

なおこのアルバムは、
何曲かに何人かのミュージシャンが参加していますが、
基本的にはすべての楽器をスティーヴィーひとりが演奏しています。
そして曲もすべてを彼1人が作曲しています。
(All tunes written by Stevie Wonder)


02 ガムをくわえたポーラとCDと


Tr1:Too High
歌よりはサウンド志向の曲でアルバムがスタート。
「とぅるっとぅとぅとぅ~るる」という女性コーラスからして、
緊張感、緊迫感がいきなりいっきに襲ってくる感じがします。
この曲を最初に聴いて、昔あった「ウィークエンダー」というテレビ番組、
「新聞によりますと」という、あの番組を思い出しました。
その番組はテーマ曲なども70年代ソウルの世界だったし、
この曲は時代の音なのだなと思います。
でも、永遠に残る時代の音ではあります。
スキップしながら動くベースがすごいですが、これは、
moogにより演奏されているもののようです、つまりキーボード。
ところで、この曲の歌いだしはこうです。
♪ I'm too high but I ain't touch the sky
ジョン・レノンのNobody Told Meにもこんな歌詞があります。
♪ Everybody's flying, but never touch the sky
空ってやっぱり、触れないものなのかな(笑)。


Tr2:Visions
ジャズという音楽が特別なものではなく身近にあるものだ
ということを感じさせる音作りのスローな曲。
「心で見ること」の大切さを語る、アルバムのタイトル曲ともいえる曲。
♪ I know that leaves are green
  They only turn to brown when autumn comes around

このアルバムがリリースされたのは1973年8月3日だそうですが、
歌詞のこの部分は今の季節感ですね。
そしてたまたまだけど、今の時期に記事にしてよかった(笑)。


Tr3:Living For The City
この曲は、タイトルがなくても、イントロの音を聞けば
何かが路地裏でうごめき眠らない「街」をイメージできます。
そこが「内なる世界」、視覚を聴覚に訴えるこのアルバムらしさ。
曲は珍しく単純なブルーズ形式で、単調になりそうなところを、
間奏の部分で3拍子になるアイディアが効果的。
その間奏のキーボードはまさに「歌うキーボード」の真骨頂。
最後はオペラティックな歌い方でコミカルに盛り上げて終わるのも
雑然とした都会の華やかさ、はかなさをうまく音で表しています。
ビルボードのポップチャート最高位8位を記録。
「いい曲」かと言われると必ずしもそうではないとは思うけど
シングル向きのインパクトがある曲。


Tr4:Golden Lady
ちょっと湿った夏の風という雰囲気。
軽くてポップな曲調だけど、歌声がどこか重くて湿っている。
♪ A touch of rain and sunshine made the flower grow
Tr2の引用部分といい、スティーヴィー・ワンダーの歌詞は、
時々、彼が目が不自由なことを忘れてしまうものですね。
♪ Golden lady, golden lady, I'd like to go there
の「go there」が「golden」に聞こえる「韻」が面白く、
その印象的な部分は聴いてすぐに口ずさんでいました。
この曲は誰かがカバーして大ヒットしそうなポップな曲ですね。
珍しくフォーク調の曲で、それも彼のルーツ音楽のひとつなのかな。


03 暑くて風景写真もなく夏バテ気味のハウをもう1枚


Tr5:Higher Ground
この曲は僕が最初に買って聴いたベスト盤に入っていますが、
ああ、ベスト盤に入るんだからヒットした有名な曲なのだろうな、
以上の存在ではありませんでした、正直言えば。
しかし、先日ラジオで耳にして、こんなにいい曲だったかと驚いた。
音楽の感じ方は面白いというか、現金なものですね(笑)。
レゲエとソウルが最高の形で融合した迫力ある曲。
メッセージもまた強烈で説得力がありますね。
特に、それまでずっと誰それが何をし続けると歌ってきたところで、
♪ Sleepers, just stop sleeping
とまるで怒るように歌うところがぞくぞくっときます。
レッド・ホット・チリ・ペッパーズもカバーしていました。
僕は、このアルバムがスティーヴィー・ワンダーで最も好きですが、
でも、超名曲が数多ある彼の中で、このアルバムには
「超」名曲クラスの曲がないのが唯一の泣き所だと思っていました。
しかしそれも、この曲への思いが変わったことにより「解消」されました。
シェリルのおかげです(笑)。
ビルボードのポップチャートでは最高位4位。


Tr6:Jesus Children Of America
スティーヴィー・ワンダーらしい曲というと
僕はこうした、少し暗くてぴんと張り詰めた歌、
ベースがよく響くもこもこした感じのサウンド中心の曲、
そんな曲のスタイルを思い浮かべます。
前半は細い声で囁くように歌う表現力は、
歌手としてもやはり成長していたことをうかがわせます。
ゴスペル風のコーラスに緊張感が増してきます。


Tr7:All In Love Is Fair
メランコリックで繊細なピアノの旋律が心に刺さり込んでくる。
届かぬ思いを切々と歌い込むこの曲は、悲しみを誘います。
そう書くと、叶わない状況のラブソングと捉えることができます。
しかし、そこでふと思いました。
この曲のタイトルは、諺からとられています。
All is fair in love and war 「恋愛と戦争にルールはない」
でも、この曲からは"war"は省かれています。
直接的に歌の内容には関係ないからと言われればそれまでですが、
でも、この曲が生まれたのは、まさにベトナム戦争の時代。
Warは要らない、Warなんてフェアではない。
歌詞には"I had to go away"というくだりを見出すこともでき
これは、ラブソングに込めた反戦歌なのかもしれません。
そして今日は8月9日です。


Tr8:Don't You Worry 'Bout A Thing
ファンキーなピアノの音で始まり、猿の叫びのような声に続き、
スペイン語で激しく口論するイントロを聞いて、
この曲はどうなってしまうんだろうと思ってしまう。
そのスペイン語の会話が関西弁っぽく聞こえるなと思ったら、
0:14辺りが、「どないやねんそれ」という空耳として
実際に「空耳アワー」で取り上げられていました。
曲は、90年代にMTVをよく観ていた頃に誰かがカバーして
よくかかっていたのでおなじみでした。
ラテンの強い響きで、曲調はからっと明るくはないんだけど、
なんだか聴いていると妙に元気はつらつにさせられる曲。
曲にメリハリがあって歌メロが良い、まさに「スティーヴィー節」全開。
ビルボード最高16位と中ヒットしました。


Tr9:He's Misstra Know-It-All
アルバム最後のミドルテンポの明るい曲は、
それまでの喧騒や不安をすべて吹き飛ばすような、
爽やかな初秋の風のような一編。
Tr4も風のようなと表現していて、確かに僕は語彙力ないですが(笑)、
でも、どちらもその面の最後に置かれたこの2曲を聴き比べると、
こちらにはより爽やかさがあることが感じ取れます。
タイトルのごとく達観したようなすがすがしい曲の響き。
スティーヴィーの心根のきれいさ、優しさが素直に現れていて、
この優しさは逆に暴力的でもあるくらい、感動的な曲。
それが最後にあるからこそ、このアルバムは素晴らしい。
シングルヒットはしなかった、まさに隠れた名曲。




国内盤のリンクを施しましたが、Amazonで3,631位と、
来日のせいもあるのか、割と動いているようですね。

このアルバムは、言ってしまえば、「次元」が違います。
最初に聴いた時から、うまく言い表せないけど、
そのことはびしっと感じました。
世の中には名作傑作アルバム数多あれど、
これはそうした存在自体の次元が違う1枚だと思います。
そういうアルバムはたいてい、
時代と個性が高次元で融合したものから生まれます。
そしてそういうアルバムは、時代を超えて残ってゆきます。

今回、記事にするにあたり、久し振りに何度も聴きましたが、
このアルバムは、あっという間に終わってしまいますね。
45分近くあるので、特に短いということはないのですが、
それだけ、聴いていて充実感があるのでしょうね。



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