EARTH ニール・ヤング+ザ・プロミス・オヴ・リアル

guitarbird

2016年08月17日 22:29

01


EARTH
Neil Young + The Promise Of The Real
アース
ニール・ヤング+ザ・プロミス・オブ・ザ・リアル
(2016)

本日はニール・ヤングの新譜。
ほんとにニール・ヤングは毎年何か出しますね。
もうその時点ですごいとしかいいようがないのですが。

今作は「大地」と名付けられたライヴアルバム。
昨年の「問題作」THE MONSANTO YEARSで共演したバンド
ザ・プロミス・オブ・ザ・リアルを従えて昨年2015年に行われた
THE REBEL CONCERT TOURからの音源。

ニール・ヤングは地球環境について深刻な懸念を抱いている。
そのことはこれまでの作品や「ファーム・エイド」を含めた活動を
見れば誰もが感じること。
その誰もが感じることを形として残す。
今回のライヴ盤の命題はずばりそれだと思います。
人間、薄々感じていてもはっきりと言葉に言われない限りは
「薄々」のまま、ということはよくあるものですが、
ニール・ヤングは、アメリカ大統領選挙が行われる2016年という
この年に自分のメッセージを記録として残すことにしたのでしょう。
彼はカナダ人なのですが、と、一応付け加えておきますが。

選曲も当然のことながら自然を謳歌したり、直接間接的に
自然環境について歌っているものが集められています。
こうして見ると、ニール・ヤングのその思いは一過性の
付け焼き刃的なものではない、半世紀に迫ろうとしている長い
キャリアで常に心の中にあり続けたテーマであることが分かる。
そういう意味でもこのライヴ盤は意味や価値があると思いますね。

演奏はもちろんいつものニール・ヤング。
ギターが怒っている、泣いている、励ましている、そして歌も。
演奏に関しては、バンドとの新たな化学反応はあるにしても、
基本はいつも「ナチュラルハイテンション」で繰り広げられる。
テーマが地球環境だからといってそれは変わらない。

しかし、曲の持つメッセージ性は、スタジオ録音よりも
ライヴの方が力強く伝わってくる。
たとえCDで姿は見えないにしても。
今回、きわめてよく知っているあの歌でも
こういう響きで聴こえてくるんだという発見がありました。

このライヴ盤は、曲の間に地球に存在する生物たちの声などの
SEが織り込まれていて、メッセージをより明確にしています。
馬、にわとり、からす、蛙、コオロギなど身の周りの生物。
時には車の音など街の喧噪の音も聞こえてきますが、それは、
自然と離れたように感じるかもしれない都会暮らしでも、
自然が大切であることに違いはないというメッセージ。
そうした人間の営みも「地球の音」として認めてほしい、
というニール・ヤングの思いかもしれない。
そう、もちろんそこにはニール・ヤングのギターの轟音も含まれ、
地球人としての誇りを持って演奏しているという自負もあるでしょう。
SEはニール・ヤングもどうしても入れたかったのでしょうね。

でも、いざ聴くとなると、これは正座して聴かなければいけない
ということはまったくなく、かけておいて、ちょっといい歌メロに触れ、
賑やかなギターの音に自分の感覚をくすぐられる。
そんな感じで気軽に聴けばいいのではないかな。
ニール・ヤングは、作品ごとの違いを楽しむのはもちろんだけど、
ニール・ヤングを楽しみながら聴くものだと僕は思う。
だから聴けない人は聴けないのかも。
まあ声が苦手という人は仕方ないとして、「純粋音楽」を求める人には
「不純物」が混じりすぎている、それがニール・ヤングだから。


02


Disc1

1曲目 Mother Earth (Natural Anthem)
コンサートの最初は讃美歌風のアンセムから始まる。
1990年のアルバムRAGGED GLORYの最後に収められた曲ですが、
今回実は、僕個人的にとってもうれしいのがこれ。
RAGGED GLORYは僕が初めて買ったニール・ヤングのCDなのです。
もう1991年になっていたかな、調べるとリリースは9月で、
僕が買ったのは春先だったからきっとそうだと思いますが、
当時上野にあった輸入盤レコードCDショップCISCOに、
学校やバイトの帰りによく行っていました。
或る日、セール品の段ボールの中にこのアルバムがありました。
当時まだUSA盤CDは縦長の箱に入れて売られていましたが、
値段は忘れたけど安くて、それを買い求めました。
家で聴くと、どうやら地球環境のことを歌っているらしく、
そもそも曲も歌としていいものばかりで気に入りました。
その後にワーナーパイオニアの「フォーエヴァー・ヤング・シリーズ」で
AFTER THE GOLD RUSHとHARVESTを買って聴いて
ニール・ヤングとの長い付き合いが始まったのでした。
RAGGED...はニール・ヤングの中でどのような位置を占めるのか、
人気はある方かない方か分からないですが、僕にはとりわけ
思い出も思い入れも深いアルバム。
それが今回こうして再注目されるようになったのが嬉しいのです。
正直言って僕にとってはそれがこのライヴ盤の最大の喜びですね。


2曲目 Seed Justice
これは新曲なのではないかと、違ったらごめんなさい。
ニール・ヤングらしい切迫感がある曲ですが、もういきなり
コンサートの中盤から後半に差し掛かったような響きがあり、
一気に音に飲み込まれます。
ハードロックっぽい下降するギターリフがなんというか凄い。


You-Tubeにこの曲の映像がありました。




 Seed Justice
 Neil Young + The Promise Of The Real


3曲目 My Country Home
RAGGED GLORYの1曲目。
つまり僕が人生で初めて自分でお金を出して聴いた
ニール・ヤングの曲ということになりますね。
これはいかにも1曲目という響きの曲ですが、前の曲で
コンサートが一度終わってリセットしたような感覚にも陥ります。
もちろんライヴ用にイントロのギターリフを長くしたりしていますが、
この曲を聴いて、僕自身懐かしさがこみ上げてきました。
そうそう、サビの歌メロ、ニール・ヤングの歌い方、温かみがあって
ちょっとカッコつけているのがたまらなくいい。


4曲目 The Monsanto Years
昨年このアルバムが出た時、新譜さらりと記事で触れました。
「怒りだけをメッセージとして聴かされるのは少し違うのでは」、と。
でも、ライヴ盤で聴かされるとなるとまったくそんなことはなく、
メッセージそのものを素直に受け止めることができました。
ニール・ヤングらしい軽やかな歌メロのフックで歌自体は元々
親しみを持ちやすかったのですが、ライヴでの演奏を聴くと
気持ちも解放されるのでしょうね。
ニール・ヤングの話からは少しそれますが、今回これで、
「芸術としてのレコード」と「メッセージとしての音楽」が
必ずしも並立するわけではないことが分かった気がしました。
まあでも、音楽家は自分の地位を活かしてメッセージを発することも
仕事だから、それはそれで認めるべきではありますが。


5曲目 Western Hero
これはそらで出てこなくて調べると
1994年の SLEEPS WITH ANGELSからの曲でした。
申し訳ない、実はそのアルバム、僕がリアルタイムで買って
聴き始めてから最も苦手な作品なのです。
ニルヴァーナのカート・コベインの死に触発されたと
当時から言われていたダークなアルバムですが、
それ以前の問題として僕とは相性がよくないのでして・・・
なんて話はそのアルバムの時にするとして、でもこの曲は
タイトルから想起されるようにどこかのどかな曲で、
ええこんな曲あったのかと驚かされたしだい。
やっぱりそのアルバムまた聴かなきゃ。


6曲目 Vampire Blues
アルバム ON THE BEACHから。
「血ぃ吸うたるでぇ」と歌うとろいブルーズ。
これが入っているのがなんというか嬉しいし楽しすぎる。
そうだよ確かに「吸血こうもり」も地球の仲間だよ。
途中でニール・ヤングが変な声で歌うのがたまらない。
それにしてもあらためて、よくこんな曲作ったよなあ、
とニール・ヤングにただただ感心するのでした。


7曲目 Hippie Dream
アルバム LANDING ON WATERから。
このアルバムはハードロック的なギターの響きがよくて好きですが、
これこそバンド演奏でより映える曲と感じました。
「ヒッピーの夢」って何だろう。
それが「自然回帰」であればいいのですが。
でも歌詞の中で"Don't kill the machine"と言っているぞ。


8曲目 After The Gold Rush
言わずと知れたAFTER THE GOLD RUSHから。
この曲自体カヴァーも多く膾炙しているといっていいでしょう。
でも、そうか、これも考えてみれば自然を歌っているのか、と。
あまりにも多く聴いてきた曲って、メッセージを忘れて
音(歌)としてしか響いてこなくなる。
しかし時々立ち止まって聴くと、メッセージを再認識する。
イントロにMother Earthのオルガンが再度出てきますが、
ライヴとして、CDとしてのトータル性を意識しているのでしょう。
間奏のホルンを含め、この編曲はちょっとばかり感動しますぞ。
歌詞の"nineteen seventies"は"21 century"に変えられています。



9曲目 Human Highway
カントリー寄りのアルバムCOMES A TIMEから。
このアルバムは人気がありますよね。
こうして聴くとニール・ヤングの基盤はカントリーなのかなと思う。
曲は人と人のつながりを謳っていますが、ニール・ヤングの
気持ちの有り方が「自然」=「ナチュラル」なのが
カントリー系の曲であると考えるとこの選曲は納得です。


03


Disc2
1曲目(10曲目) Big Box
2曲目(11曲目) People Want To Hear About Love
3曲目(12曲目) Wolf Moon

ここ3曲、2枚組LPでいえばC面は
THE MONSANTO YEARSからの曲が続きます。

Big Box
また切迫感があるマイナー調のニール・ヤングらしい曲。
都会の喧騒のSEで始まり、後半ではニール・ヤングが
まくしたてるように何かを叫ぶ。
経済という大きな箱。


People Want To Hear About Love
経済でも政治でも深海魚でもない、愛について語りたい。
ニール・ヤングの中にあると僕が思っている「能天気系」の曲。
いやもちろん「能天気」だから余計に伝わってくるんだけど。
それにしてもハエの音がうるさい(笑)。
この曲は歌が始まって5小節目でタイトルを歌う部分が、
サビといっていい、印象的な歌メロの変わった構成の曲。


Wolf Moon
お約束(!?)、狼の咆哮のSEが入る。
ハーモニカから始まる正調ニール・ヤング風カントリーソング。
アルバム構成的には嵐の前の静けさ。
自然を謳歌するとなるとやはりこういう曲になるのは
もはや一般的なイメージなのでしょうね。
もちろんだからそこに浸ることができるのだけど。


4曲目(13曲目) Love And Only Love
最後またRAGGED GLORYから。
これが28分にも及ぶ「交響詩」に仕立て上げられています。
最初は普通に歌として歌われますが、曲が進んでいくと、
タイトルを歌うコーラスだけを残し、ギターを中心とした
演奏というよりはいろいろな「音」を繰り出してゆく曲になる。
そう、大地の音をバンドの楽器で表してゆくということ。
それは「自然と一緒になりたい」という切なる思いかもしれないし、
「自分たちも地球人なのだ」という誇りかもしれない、或いは
「自然には見捨てられたくない」という切なる思いかもしれない。
長いと飽きるとか、これに関してはまったくそんなことはない。
音の楽しさ、不思議さ、興味は尽きなまま30分近くが過ぎてゆく。

21'00"あたりから始まるギターの音が、
ピンク・フロイドのShine On You Crazy Diamondに
似ているのは偶然なのだろうか?
僕にはそうは思えない。
少ない数だけど音が同じだし音色も似ている。
ではなぜその曲の音を入れたのか?
「地球の音」として入れるのであれば、
もっと他の曲のフレーズが入っていてもいい。
でも僕が分かる範囲ではそんな音は他にはない。
単純にギタリストが知っていて好きだからといえば
それまでだけど、やっぱり意味を考えてしまう。
フロイドのその曲が入ったアルバムWISH YOU WERE HEREは
いなくなったシド・バレットへの思いがテーマですが、
なくなってしまったものへの思いを表したかったのかもしれない。
なんて邪推が進んでしまいます(笑)。
でもこういうのはロック好きとしては単純に面白いですね。

地球上のいろいろな音を再現した後、曲が完全に終わって
またMother Earthの讃美歌が始まる。



ニール・ヤングといえば昨年「アーカイヴス」シリーズの
ライヴ盤が出たのですが、ここで紹介していませんでした。
そのライヴはとても気に入ったので、
いつか記事にできればと思います。

ニール・ヤング、もしかしてまた年内に何か出すかも。
このライヴ盤は6月に出ていますからね。


最後は一昨日の3ショットにて。

04


うちの犬たちも地球の仲間なんだな。




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