01
THE FINAL FRONTIER Iron Maiden released in 2010
ファイナル・フロンティア アイアン・メイデン
アイアン・メイデンの8月に出た新譜です。
昨日のSLに続いて「鉄」の記事です(笑)。
冗談はともかく、新譜も可能な限り早く記事にしたかったのですが、
なんせ僕は曲を覚えるのが遅く、すぐに遠征もあったこともあり、
全体がつかめるまで1週間くらいかかりました。
今回のアルバムは、
宇宙を舞台にしたSF小説仕立ての
コンセプトアルバムになっています。
メイデンはまあ、たいていがコンセプトアルバムですが、それまで、
SF小説風や曲ごとに宇宙をテーマにしたものはあったものの、
アルバムごと宇宙に行ってしまったのは初めてです。
元々メイデンの音には宇宙的広がりを感じさせるものがあり、また、
クラークやハインライン等SF小説からタイトルをとった曲があるだけに、
ここに行きついたのは必然という感じもします。
いつかは宇宙へというアイディアを温めていたのかもしれません。
今回のアルバムはしかし、
僕は前作よりおおらかで緩いと感じました。
前作は、戦時下における人間の精神状態をテーマに取っただけに、
水が1滴落ちるだけでも破れてしまいそうな、極限ともいえる
リアルな緊張感に支配されていて、出来としては
メイデンでも一番というくらいにもの凄いアルバムでしたが、
反面、メイデンやこの手のロックに慣れていない人が聴くと
気疲れするし続けては聴けないかな、というくらいのものでした。
音楽的にも、展開が多くて複雑で、聴くだに奥が深まる作品でしたが、
ただ、部分部分の歌メロはとっても良くてどこも口ずさめるもので、
僕は、高音は気にせずに(笑)、よく歌っていました。
そういう点で考えれば、前作もポップではあったのですが、
これについてはまた近いうちにもう一度記事にしたいと思っています。
今回のアルバムは、展開が多く幾つかの曲を合わせたような曲は健在。
しかし、今回はテーマが宇宙。
多くの人が経験したことがない小説の中の世界に心が飛ばされるわけで、
リアルなと感じさせる部分が伴わないからかもしれません。
だからというか、とても聴きやすいアルバムに仕上がっていると思います。
アイアン・メイデンは、ヘヴィメタルの中のヘヴィメタルという存在ですが、
長く続けてきている間に、聴きやすい音楽を作るという意識が強くなり、
また、聴き手も年齢を重ねるに及んで、メイデンの音楽は
「普通の」感覚のロックになってきているのかなと思うこともあります。
なんてことは、ヘヴィメタルを普通に聴いてきた僕だから
そう思うだけかもしれないですが、でも、少なくとも彼らはそう感じます。
僕は、このアルバムを最初に聴いて、
これだけのベテランになっても
前に進み続けているその姿勢とエネルギーに感動しました。
正直言えば、前作で、この路線をさらに追求するのは不可能
というくらいの凄い作品を作ってしまっていただけに、
今回はどうなるのかがちょっと不安でした。
しかし彼らは、前作で成し遂げたことを捨て去り、
まったく新しい地平に立ってアルバムを作り上げた。
その姿勢には感服、脱帽、畏敬の念すら覚えます。
2000年に「再出発」してからの4枚のアルバムは、
すべて違った毛色のものを出し続けてきている彼らは
カッコいいですね、やりますね、50代の男たちも(笑)。
今回のアルバムタイトルにある"FRONTIER"という言葉は、
常に先を見据える彼らの姿勢にはふさわしいものですね。
ただし、"FINAL"ではないことは切に願うのですが(笑)。
ただ、ですね。
僕は当初、幾重にも織りなされた歌メロに浮かぶ感覚を
なかなかうまく捉えられずに少し戸惑っていました。
おおらかで緩いというのが、よくないほうに作用していました。
というのも、前に別の記事で書きましたが、僕は昔から
緊張感があるアルバムが大好きで評価も高かったので、
前作の異様な緊張感の呪縛に遭っていたのだと自己分析します。
大袈裟な話、新譜はどう聴いていいのか分からない、みたいな感じ。
しかし、遠征で移動中に車の中で聴いていたのが奏功したのか、
こちらもだんだんと根詰めないで聴くようになって、ようやく、
宇宙にたくさん浮かぶ隕石や流星のような歌メロの数々を、
それはそれとして楽しめるようになっていて、僕もほっとしました。
だって、期待するメイデンの新譜が期待外れだったら
この先どうやって生きてゆこう、と思ったくらいですから(笑)。
というわけで、このアルバムは
根詰めずに気軽に気楽に聴いていただければ、
適度に重たく腹に響く音と頭の上を回るような歌メロの数々に
ひたりながら楽しく聴くことができます。
メンバーは、いうまでもないですがもう一度。
この先はファーストネームで呼んでいく関係もありまして。
ブルース・ディッキンソン Bruce "Captain" Dickinson (Vo)
スティーヴ・ハリス Steve "Iron Will" Harris (Bs)(Key)
デイヴ・マーレィ Dave Murray (Gt)
エイドリアン・スミス Adrian Smith (Gt)
ヤニック・ガース Janick Gers (Gt)
ニコ・マクブレイン Nicko McBrain (Ds)
鋼鉄の意志を持った男たち!
魅惑のトリプルギター!
疾走する50代!
なんだか歌謡ショーの前振りみたいになってしまいました(笑)。
02 光り輝く缶入り限定盤は"MISSION EDITION"
Tr1:
Satellite 15...The Final Frontier
(Adrian Smith / Steve Harris)
最初は2曲の組曲風に始まりますが、その1曲目は、
南太平洋のどこか風のエスニックなドラムスのビートで始まり、
メイデンもエスニックなことをするのか、と、僕は軽く驚きました。
それをさらっとやってのけるニコもまたカッコいい。
これは、宇宙に行くに及んで、地球はどこも地球であることに違いない
というメッセージかもしれないですね。
ブルースの歌い方もジャングルの中の雄たけびのようですし。
CDをかけるといきなりこのエスニックなドラムスに襲われるので、
僕はいまだに新鮮な感覚でこのアルバムに入ってゆけます。
続いて始まるアルバムタイトル曲は、
ヴォーカルが走る後をギターリフが追いかけるという、
割とオーソドックスなハードロックで安心して聴けます。
僕は、この曲のみ、CDを買う前にネットで先行で聴いていましたが、
いかにも僕好みのオーソドックスなハードロックににやりとしました。
この曲はエイドリアンが作曲に絡んでいますが、
これで、「再出発」以降の4枚のアルバムではすべて
エイドリアンが1曲目を手がけていて、彼は
掴みが強い曲を作ることに長けているのでしょうね。
Tr2:
El Dorado
(Adrian Smith / Steve Harris / Bruce Dickinson)
大仰なイントロに何だろう何だろうと思いつつ聴いてゆくと、
アップテンポでまっすぐなハードロックが始まる。
サビではブルースが声を張り上げて高揚感が増してゆく。
ブルースの不敵な笑い声も印象的なこの曲は、
「黄金郷」への思いを煽るような曲。
展開せずに比較的まっすぐに終わってしまうのは、
ある意味、意表を突いていて面白く効果的。
ただ、このタイトルの単語も、それまでのメイデンからは
あまり出てこなかったようなものかな、とも思います。
Tr3:
Mother Of Mercy
(Adrian Smith / Steve Harris)
波打つようなリズム感にのせられる曲。
先ほど、今作は前作を捨て去ったと書きましたが、
メイデンはそもそもが戦争に題材をとった曲が多く、
これもその流れにある曲でしょう。
サビが盛り上がります。
そしてメイデンはこのリズムの曲が得意中の得意ですね。
Tr4
:Coming Home
(Adrian Smith / Steve Harris / Bruce Dickinson)
僕が現時点でこの新譜でいちばん好きな曲。
「家に帰る曲を聴きながら」という記事を僕は前に上げましたが、
僕は、このモチーフの曲にめっぽう弱いのです。
「家に帰る曲」の新たな名曲が誕生というところですね。
ブリティッシュ・ブルーズが宇宙にまで飛んでしまったという感じの、
割とオーソドックスなブリティッシュ・ハード系の曲ですが、
それもまた僕が弱いところです。
イントロのざくざくしたギターの音は、宇宙というよりは大地の感じ。
間奏のギターソロもとっても聴かせてくれます。
しかし何よりこの曲が好きなのは
♪ Coming home, far away
という部分の歌メロの素晴らしさですね。
歌詞に"thunderbird"と出てきますが、この単語もまた、
「普通のロック」ぽさを感じるところであり、もしかして
あの「サンダーバード」も意識しているのかな。
ここまで4曲はエイドリアンが曲作りに絡んでいますが、
ポップなメタル路線において、彼のポップな感覚の作曲能力は、
ますます重要な要素となってきた感があります。
Tr5:
The Alchemist
(Janick Gers / Steve Harris / Bruce Dickinson)
錬金術師、2曲目の「黄金郷」のイメージの継承かな。
メイデンは、70年代後半に英国で起こった音楽の流れで、
パンクの後に起こってパンクの影響を受けたヘヴィメタルである
NWOBHM=New Wave Of British Heavy Metalの中から
出てきたバンドですが、アップテンポでぐいぐいと前に進むこの曲は、
NWOBHMのテイストを鮮やかに甦らせています。
だから初期のメイデンの色に近い曲ともいえるかな。
爽快感というには少し重たいけど、疾走感は抜群ですね。
そしてこの曲は、ヴォーカルの歌メロに絡んでコーラスをつけるような
ギターの旋律がカッコよく、ギターだけ聴き入ってしまうくらい。
しかも、単調なようでいながら2つの歌メロの部分が用意されていて
一本調子で終わらない芸とサービス精神はさすが。
この曲は「弟が最も好きなギタリスト」であるヤニックが
作曲に絡んでいますが、僕はメイデンの新作が出る度に、
彼の曲は特に楽しみにしているひとりです。
ヤニックもまたNWOBHMの(もっと小さな)別のバンドにいた人ですが、
この曲は、錬金術で「若さ」を甦らせたのかもしれないですね。
僕が最初に聴いて最も印象に残り、最初に曲を通して覚えた曲です。
Tr6:
Isle Of Avalon
(Adrian Smith / Steve Harris)
このアルバムの聴きどころのひとつ。
ここまで凝った曲というのは見事としか言いようがありません。
刻むようなギターのイントロが思わせぶりに30秒ほど続き、
先ずは静かに諭すようにブルースが歌う部分がA。
途中で声を張り上げて世界が一気に宇宙まで広がるB。
もうどうしようもなく走るしかないような疾走感に襲われるサビのC。
しかし、そこで終わるかと思うとさらに続きがあって、
まるで別の曲のような明るくてポップなパッセージのDが入り、
曲がひとコーラス終わりますが、こんなにも展開するなんて、
贅沢の極み、並みのバンドならこれで3曲作れるでしょう(笑)。
メイデンを聴く楽しみと幸福感のひとつですね。
ただ、正直言えば、僕はこの曲は最初はあまり印象がよくなくて、
ゆえに頭にあまり残らなかったのですが、それは、
明るいDの部分に多少の違和感を覚えていたからだと思います。
この曲もまたエイドリアンが作曲に絡んでいますが、
Cの部分はエイドリアンの持ち味が最大限に発揮されています。
Tr7:
Starblind
(Adrian Smith / Steve Harris / Bruce Dickinson)
曲のイメージ的には前の曲を引き継いでいます。
僕がもうひとつ最初のうちは戸惑っていたのは、
この辺の曲が、アルバムの流れとしては意図的なのでしょうけど、
同じような曲で固められていたことでした。
とりわけ、いちばん印象に残ったTr5の後だけに。
今はもうアルバムは聴きなじみましたが、やはりこの曲は、
前の曲を受けたものであるには違いないと思います。
Tr8:
The Talisman
(Janick Gers / Steve Harris)
このアルバムのベストトラックと言われている曲。
あ、言っているのは僕と弟なのですが(笑)、僕が全体が掴めた頃に
弟とどの曲がいちばんデキがいいと思うかと話したところ、
この曲じゃないかということで意見が一致しました。
まあ、僕らがヤニックの曲に波長が合うからかもしれないですが、
メイデンの王道路線というか、ダイナミックに展開して飽きさせない
そんな曲に仕上がっています。
"Talisman"とは「魔よけ」、これは航海に出る男たちの歌。
最初はアコースティック・ギターの静かな演奏にのり、
ゆったりとしたワルツで始まりますが、その部分の
呪文を唱えるようなブルースの重暗い歌い方は恐ろしいくらい。
メイデンは「再出発」以降、多くはないのですが、ここぞという時に
アコースティク・ギターを効果的に使うようになりました。
静けさを破って曲がぐいぐいと前に進んでゆくと、もうこの後は
嘘でもカラ元気でもいいから前に進もうという意欲の曲に変わる。
ブルースのヴォーカルもアルバムいちという弾けぶりと説得力。
その後曲はもめまぐるしく展開してゆき、しかし決して散漫ではない、
曲が落ち着くところに落ち着いて終わる。
凄いのひとことですね、まさに唯一無二のメイデン。
ヤニックはほんとに味わいがある曲を書く人だと実感。
聴いていると勇気が湧いてくる曲というのもメイデンの特徴で、
この曲は特に尋常ではない、人智の力を超えた勇気を
授かるような気持ちにもなります。
Tr9:
The Man Who Would Be King
(Dave Murray / Steve Harris)
デイヴが書く曲はあまり凝っていないものですが、
アルバムの中に1曲あるとほっとする、そんな性格付けですかね。
特にここでは大作の後に控えているだけに。
この曲の歌詞には"Beast of burden"と出てくるのですが、これは
ロックファンであればローリング・ストーンズの曲を思い出しますよね。
その辺もまた、彼らが「普通のロック」になってきたと感じた部分です。
Tr10:
When The Wild Wind Blows
(Steve Harris)
最後はスティーヴひとりの手になる曲。
アイアン・メイデンは言ってしまえばスティーヴ・ハリスのバンドであり、
曲作りもすべて彼を中心にして進められてきたのですが、
「再出発」以降のバンドとしての結束力の強さを示すかのように、
このアルバムでは、ひとりで作った曲はこれだけになっています。
曲が始まる前に乾いた風のSEが入っているせいもあって、
イントロのギターの音が砂漠をイメージさせる響き。
まるで砂漠に置いてけぼりにされたような感慨。
宇宙への進出の成否も、結局は風次第なのか。
アルバムの最後はしかし、静かな演奏とブルースの歌で、
割とあっさりと終わるような印象を残しますが、
そこがまた余韻が頭の中で増幅してゆくところです。
ブルースの「語り部」としての成長も見てとれます。
最後に強調しておきたいこと。
ハードで歌メロがよくて気持ちいいというのが、
今のアイアン・メイデンの音楽の特徴だと思いますが、
ヘヴィ・メタルという枠を決して崩すことなく、魂も売らずに(笑)、
ここまでポップで聴きやすい音楽を作り上げてきた彼らの姿勢、
熱意、探究心、挑戦する態度、サービス精神は賞賛に値します。
それは、ヘヴィメタルだからどうの、普通のロックだからこうの、
そんな(無意味な)ことはまったく関係ないものです。
アイアン・メイデンを聞いたことがない人、聞かず嫌いの人も、
このアルバムはきっと気持ちよく聴こえてくると思います。
宇宙に旅する覚悟で聴いてみてはいかがですか、とは言いません(笑)。
繰り返しますが、ハードでポップで聴きやすい、
それがアイアン・メイデンというバンドですから。
そしてこのアルバムは、あまり濃くもくどくもなく、
いい意味で緩いいので、繰り返し聴くにもかなりいいと思います。
僕自身の最後の感想もひとつ。
前作とはこれだけ違う新たな展開を見せてくれたメイデン、
早くも、次の作品が楽しみでしょうがなくなってきました(笑)。
もちろんこのアルバムが不満だというのではなく、
無限の可能性を感じるということで。
コンサート、行きたいなあ。